↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマルガムの魔匠  作者: 字書き狸
交易港ナウマリスを覆う暗雲

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/61

第12話 現実味を帯びる恐怖

4月3日 水曜日。


空を見上げるテオは呆れ顔だ。

「どういう事だよ?」

昨日のセリフは完全に振りだったじゃねぇかよと言わんばかりの表情でエリアンの方を見る。


エリアンは外を眺めながら少し考える。

「分からんが何か面白い事が起きてるのかもしれんな」

なぜか若干嬉しそうだ。


外は完全に土砂降りである。

例の気象装置により、ナウマリスで2日連続雨が降るというのは非常に稀である。




「あ、起きてますねぇ。とりあえず朝ごはん食べますよぉ」

リネットの招集を受け、隣の部屋へ向かう。


肌に纏わりつく水分が多く湿っぽい。

動き出すと余計に湿気を感じ、蒸し暑くイライラする。

雨はこれだから嫌なのだ。


(あ、水を生成する魔法具使えばいいじゃん)

あれは空気中の水分を集めるため、使うと空気が乾燥するのだ。

そして水は排水口に流してしまえばいい。


ナイスアイディアだなと思ったところで何気なく見たテーブルの上をテオは二度見した。

「おい、缶詰が2つに見えるぞ…? 見間違いか…?」

信じられない光景に思わずリネットへ確認する。

昨日は確かに1缶だけだと決めたはずだ。


「昨日はちゃんと納品物を仕上げましたからねぇ。ご褒美に1つおまけしました」

リネットはややご機嫌な様子だ。


「なるほど…。ご褒美ならもうちょっと美味そうなもんをさぁ」


「そうだそうだー。2日連続で朝食同じじゃんかぁ」

エリアンも追随する。


リネットはぴしゃりと手を掲げる。

「そこまでの贅沢は言ってられません!」

エリアンとテオは少し食い下がってはみたものの、経理担当はあくまでも緩めすぎない方針のご様子だ。

2人は諦めて席に着いた。




先程はたった1缶増えただけじゃないかとも思ったが、こうして昨日よりもシーフードの面積が広がっているのを見ると思ったより幸福度が高い事に気づく。

「こんな些細な事にも幸せを見いだせるって人間はすごいなぁ」

テオは複雑な心境を述べる。


「こんな些細な事に見出さないと幸せが無い現状に危機感を持ちましょう! さぁ、今日はどうします? 先に納品済ませちゃった方が良い気がしますが!」

リネットは気合が入ってるようだ。


「そうだなぁ。後顧の憂いを片付けてから調査するか。統括局の支局探してそれから検問所だな」

エリアンも同意し、本日の方針が決まった。



     ◇



「改めて見るとここの防壁もなかなか立派な作りだな」

テオは防壁を見上げながら呟く。

無事に納品依頼を終えた一行は検問所の近くまで来ていた。


「この街に着いたときは馬車に乗ってて気づかなかったぜ」

厚さは5mほどの石造りであり、高さは10mほどある。

帝都ほどではないが、それでも十分な強度に見える。


エリアンも立ち止まって防壁を見上げる。

「これなら例の熊が5mだったとしても突進で粉砕するのは厳しいだろうな」

そう言って検問所の方へ再び歩き始めた。




「こんにちは。学術院の依頼で調査をしています。責任者の方お願い出来ますか」


エリアンが番兵に話しかけている姿を後ろから眺めるとまともな人間に見える。

余計な事をして魔法具を破壊したり魔獣を転倒させ大惨事を引き起こしたり、雨の中をわざわざ歩いて帰ってくるような奇行の片鱗を一切見せない。

(普段もこうだったらいいんだが…)

リネットも同じ事を思ったのだろう、目が合って同時にため息をついた。


応接室と思われる部屋に通される。

さすがに学術院の依頼という口上が効いているのだろうか。

目の前に座る貫禄のある中年の男はここの所長と名乗っており、お茶まで出された。


「巡回兵の襲撃ですか。えぇ、本当ですよ。2人組、2人組、3人組。計7人の3組が被害に遭ったと見られています」


「『見られている』というのは?」


「血痕や遺留品を残して行方不明なんですよ。その他にも街の外から来た人間が襲われたという情報もあるのですが、記録がなく正確な数は分かっていません」


「なるほど…。熊というのは確かですか?」


「最初は2件続けての野盗か何かだと思ってたんですがねぇ。それで3組目には戦務3級の護衛を1名入れたんですよ」

「防壁の上の見張りも強化してね。そしたら熊だったもんで、これはまずいと帝都に報告したんですよ」


「ふむ…。熊については何か情報はありますか? どんな熊でした?」


「暗いし遠かったんではっきりとは見えなかったみたいですが…。ただかなり大きくて、5mくらいはあったんじゃないかなぁとは言ってましたねぇ」


「そうですか。遺留品も見てみたいのですがここで保管していたりしますか?」


「いやぁ。遺留品は確か中央広場の方にある詰め所じゃなかったかな」




その後は特に有力な情報は得られず、一行は礼を言って検問所の外へ出た。

雨脚は先程より弱まっている。


テオは空を見上げる。

「やっぱり3級でもダメだったのかぁ…」


「…」

エリアンとリネットも空を見上げ、悪い予想が当たってしまった事に言葉が出ないようだ。


「壁外の調査には完全武装が必要になるな…」

エリアンが低く呟く。

囁くような雨音は重い事実をゆっくりと、しかし確実に足元まで運んでくるようだ。


「いったん宿に戻るぞ。遺留品を見るにしても測定装置がいるし現場に行くにも武装が必要だ」


テオとリネットは無言で頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。