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第4話 王太子、合同軍事演習に参加する

最近、遠方にて前衛的な政策を掲げる国が台頭し、各国の間に微妙な摩擦が生じていた。

我が国フェルミルナと隣国ルヴァンも、しばらくは静観していたが、ここで友好の姿勢を示すことは、牽制としても有効と判断された。


そして、王太子レオがこの演習に参加することが決まり、若き王位継承者としての責任と覚悟の表れとして、国民の関心を集めていた。


「つまり俺は、筋肉だけじゃなく、国際関係も背負うってことか…」

出発前夜、レオは鏡の前で肩を回しながらつぶやいた。

「よし、背負えるだけの肩幅はある。たぶん」


騎士団の選抜隊と共に、レオは国境付近へ向かう。

馬上の風は冷たく、空気は張り詰めていた。

隣国ルヴァンの演習地には、すでに彼らの騎士団が集結していた。

整然と並ぶ騎士たちの鎧は、陽光を受けて鈍く輝き、空気には張り詰めた緊張が漂っている。


レオは馬を進め、ルヴァン側の王太子の前で馬を降りた。

「フェルミルナ王国王太子、レオ・リスト・フォン・フェルミルナです。よろしく」

「ルヴァン王国王太子、アレク・ヴァレンティス・ルヴァン。こちらこそ、よろしく頼む」

アレクは、白銀の髪を短く整え、藍色の瞳は静かにこちらを見ている。

レオと3歳しか違わないのに鍛え抜かれた体躯は、鎧の上からでもわかるほどに逞しく、まるで“筋肉と統率力の化身”グレン・ヴァルクを思わせた。


二人の視線が交差する。

その瞬間、言葉ではない何かが通じた。

筋肉の気配。鍛錬の重み。背負うものの重さ。


レオは、ふと口を開いた。

「為政者は、剣を振るう者ではない」

アレクは一拍も置かず、静かに続けた。

「剣を振るう者に、進む道を示す者だ」

沈黙。

そして、がしっと抱き合った。

そう、これはグレン・ヴァルクの言葉であり、ファンならば皆、空で唱えることができる名言だった。


周囲の騎士たちがざわつく中、レオは息を吐いて、笑った。

「……まさか、初対面でこの言葉が通じるとは……」

アレクは腕をゆるめながら、穏やかに微笑んだ。

「私もだ。だが、君の目を見た時に、きっと通じると思ったよ」


「「楽しい演習になりそうだ」」


二人は並んで歩き、演習地の端に設けられた休憩所へ向かった。

騎士たちが遠巻きに見守る中、二人の会話は自然に膨らんでいく。

「俺、現場に出るのが好きなんです。王宮の机より、こういう場所のほうが落ち着くっていうか」

「それは良いことだ。為政者が現場を知らずして、何を導ける」

「ユリ…、周りの者にも、よく言われます。『動かすには、まず動かされてみろ』って」

「賢い言葉だな。君のような王太子に、そういう助言をする者がいるのは心強い」


レオは笑った。

「心強いっていうか、時々手厳しいですけどね。でも、俺には必要な人たちです」

「それもまた、為政者の器だ。必要な人を、必要だと認められるのは」

焚き火の前に腰を下ろすと、アレクが干し肉を差し出してきた。

「ルヴァン式の保存食だ。噛み応えはあるが、腹持ちはいい」

「ありがとうございます。……これ、筋肉にも良さそうだ」

「もちろんだ。演習中の栄養は、筋肉の資本だ」


レオはありがたく受け取りながら、鞄の中をごそごそと探った。


「では、俺からはこれを」

そう言って取り出したのは、ミリアム絶賛の濃い赤紫色のゼリーが入った小型パック。

容器の先端をひねって開けると、スパイスと果実が混ざったような香りがふわっと広がる。

アレクは目を細めた。

「……液体か?」

「ゼリーです。高タンパクで吸収が早いので、飲んだあと、体がじわっと熱くなる」

「味は?」

「あまりうまくはないが、でも、筋肉が目を覚ます感じ。演習前にちょうどいい」

アレクは少し笑った。

「君は、体の中から戦うタイプだな」

「そうかも。あと、これなら馬上でも飲めるから便利ですよ」

二人はそれぞれの携帯食を口にしながら、火を見つめた。


合同演習期間は約2週間。

フェルミルナとルヴァンの騎士団は、地形を活かした陣形訓練、模擬戦、夜間行軍などを共に順調こなし、互いの戦術と気質を深く理解していった。

レオとアレクは、初日から並んで馬を走らせ、演習の合間には焚き火を囲んで語り合った。

筋肉の話から始まった会話は、次第に国の未来や民の暮らしにまで広がっていく。

「ルヴァンの騎士って、動きが硬いかと思ってたけど、意外と柔軟ですね」

「君の隊は逆に、柔らかいようで芯がある。面白い対比だ」


5日目には、混成部隊での連携訓練が行われた。レオとアレクがそれぞれの隊を率いて、丘陵地での包囲戦を再現する。指示は少なくても、互いの動きは自然に噛み合った。

「……殿下同士が、目配せだけで動いてるの、ちょっと怖いです」

「筋肉の波長が合ってるんだよ」

「……はあ」


7日目の夕方。

その日の演習の締めくくりとして、両隊は野営地で最後の焚き火を囲んでいた。

レオとアレクは少し離れた場所で地図を広げていた。そのとき、ルヴァン側の副官が駆け寄ってきた。

「殿下、沿岸の村から報告が。最近この辺りで、海賊が頻繁に出没しているようです」


アレクが地図を覗き込む。

「交易路を狙ってるな。ここからなら、半日で行ける」

レオも地図に目を落とした。

「ちょうどいい。演習の延長で、実戦に切り替えますか」

アレクはレオを見た。

「君の隊も動けるか?」

「もちろん。うちの連中、むしろ張り切ると思います」

「なら、合同で動こう。君となら、背中を預けられる」


こうして、演習は実戦へと転じた。

二人の為政者は、国境を越えて剣を携え、民の安全を守るために動き出す。


海沿いの入り江に、海賊の船が三隻停泊していた。

帆は下ろされ、武装した男たちが村の倉庫を荒らしている。その背後から、フェルミルナとルヴァンの混成騎士団が静かに迫っていた。


「左の崖から回り込めば、船を封じられる」

アレクが地形を指差す。


「じゃあ、俺たちは正面から引きつけます。派手にいきましょう」

レオが笑う。アレクも頷いた。


合図とともに、レオが先陣を切って突撃した。

海賊たちが慌てて武器を構えるが、フェルミルナの騎士たちが一気に距離を詰める。

その直後、崖上からルヴァンの騎士団が矢を放ち、船への退路を断った。


レオは剣を振るいながら叫ぶ。

「アレク、右の隊、下がってる!」

「オーケー!」

アレクは馬を操り、右側の海賊隊に突撃。盾で一人を弾き飛ばし、剣で次を制した。

二人は互いの動きを見て、言葉より先に動いていた。レオが一歩踏み出せば、アレクがその隙を埋める。アレクが隊を動かせば、レオがその流れに乗る。


「殿下たち、何年も一緒に戦ってるみたいだな……」

フェルミルナの副団長が呟いた。

「目と目で通じ合ってる。あれはもう、戦術じゃなくて信頼だ」


海賊たちは次第に押され、最後の一人が剣を捨てて膝をついた。

入り江には、騎士たちの勝利の声が響く。

レオは剣を納め、アレクの方へ歩み寄った。

「やっぱり、殿下とは動きやすい」

「ああ。筋肉の波長が合っている」

「……それ、誰かが言ってましたよ」

「なら、間違いない」


二人は笑い合い、夕暮れの海を背に並んで立った。

その背中は、国境を越えて並び立つ“為政者”のものだった。

なかなか恋愛要素がなく、すみません。

次の話で、はい、出てきます。

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