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三題噺  作者:
2025年9月

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47/50

「掌握」「静止画」「コント」

【掌握した静止】


 薄暗いライブハウスの舞台裏。

 若手お笑いコンビ「チョークライン」のツカサは、スマホの画面をじっと見つめていた。

 そこには自分と相方・祐介のツーショット写真。照明に焼かれたステージの一瞬を切り取った静止画だ。

 観客の笑顔と拍手の中で二人が決めポーズを取っている。

 ――完璧なタイミング。だがツカサの目には、自分の笑顔だけがわずかに硬く映った。


 「ツカサ、次のネタいけそうか?」

 祐介が後ろから声をかける。

 彼らが得意とするのは、まるで写真が動き出すような緻密なスロー演技。

 ピタリと止まる一瞬を掌握するために、呼吸も鼓動も制御する。


 「いける。今夜は絶対に掴む」

 ツカサは深く息を吐いた。



---


 本番。

 スポットライトが二人を照らす。

 ツカサと祐介は“止まった世界の中で動く一人”という設定で、カメラのシャッター音とともに一瞬で固まる。

 観客席からどよめきが起きる。

 息を殺して、静止画を完全に再現するその一秒――。


 心臓の鼓動さえ自分の意思で止められるかのように、ツカサは自分の体を掌握した。

 視界の隅で、祐介の口元がかすかに上がる。

 次の展開、動き出すタイミングを二人だけが知っている。


 「カシャッ!」効果音と同時に、ツカサがゆっくり動き出す。

 客席から爆笑が起きた。

 止まったままの祐介の横で、ツカサは一人芝居のようにオーバーに喋り出す。

 空気が揺れ、笑いが弾ける。



---


 出番を終え、舞台袖に戻ると、祐介がニヤリと笑った。

 「今の、完璧だったな」

 ツカサは額の汗を拭いながら、深くうなずく。

 「やっと、自分の中の静止画を掴めた気がする」


 観客の笑顔と拍手が耳に残る。

 その一瞬を掌握した喜びが、胸の奥で温かく脈打っていた。

連載作品は0時更新。シリーズ『連載中』より、ご一読ください。


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