「宇宙船のコックピット」「イヤホン」「握る」
【最後の通信】
警告灯が赤く瞬き、宇宙船のコクピットは、息苦しいほどの警報音に包まれていた。
酸素残量――わずか十二分。
燃料も、推進剤も尽きかけている。
パイロットの沙耶は、汗ばむ手で操縦桿を握りしめた。けれど、もうどうにもならないことを知っていた。
唯一の救いは、耳に差し込んだイヤホン越しに聞こえる声だった。
「……聞こえるか、沙耶。まだ生きてるか?」
それは地球に残した兄の声だ。
幼い頃から彼に導かれるように、沙耶は空を夢見てきた。ついに宇宙に辿り着いたが、いま、その夢は終わろうとしている。
「生きてるよ。でも、もう長くはない」
声が震えそうになるのを、彼女は笑いでごまかした。
兄は、低く力強く言った。
「最後まで操縦桿を握ってろ。お前が夢を叶えたのは事実だ。それだけは、絶対に手放すな」
沙耶は唇を噛んだ。
――握り続けろ。
その言葉に、心の奥が熱くなる。
警報が一段と大きくなる。酸素残量、三分。
「兄さん」
「なんだ」
「ねえ、もしまた生まれ変わったらさ……」
「次も宇宙船に乗れ」
遮るように、即答が返ってきた。
思わず涙がこぼれる。イヤホンの向こうに兄がいる、その事実だけが救いだった。
酸素が尽きる直前、沙耶は静かに操縦桿を握りしめたまま、目を閉じた。
最後に聴いたのは、兄の叫び声。
「お前は俺の誇りだ!」
その瞬間、警告灯の赤は消え、コクピットは闇に包まれた。
連載作品は0時更新。シリーズ『連載中』より、ご一読ください。
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