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三題噺  作者:
2025年9月

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25/50

「宇宙船のコックピット」「イヤホン」「握る」

【最後の通信】


 警告灯が赤く瞬き、宇宙船のコクピットは、息苦しいほどの警報音に包まれていた。

 酸素残量――わずか十二分。

 燃料も、推進剤も尽きかけている。


 パイロットの沙耶は、汗ばむ手で操縦桿を握りしめた。けれど、もうどうにもならないことを知っていた。


 唯一の救いは、耳に差し込んだイヤホン越しに聞こえる声だった。

「……聞こえるか、沙耶。まだ生きてるか?」

 それは地球に残した兄の声だ。

 幼い頃から彼に導かれるように、沙耶は空を夢見てきた。ついに宇宙に辿り着いたが、いま、その夢は終わろうとしている。


「生きてるよ。でも、もう長くはない」

 声が震えそうになるのを、彼女は笑いでごまかした。

 兄は、低く力強く言った。

「最後まで操縦桿を握ってろ。お前が夢を叶えたのは事実だ。それだけは、絶対に手放すな」


 沙耶は唇を噛んだ。

 ――握り続けろ。

 その言葉に、心の奥が熱くなる。


 警報が一段と大きくなる。酸素残量、三分。


「兄さん」

「なんだ」

「ねえ、もしまた生まれ変わったらさ……」

「次も宇宙船に乗れ」

 遮るように、即答が返ってきた。


 思わず涙がこぼれる。イヤホンの向こうに兄がいる、その事実だけが救いだった。


 酸素が尽きる直前、沙耶は静かに操縦桿を握りしめたまま、目を閉じた。


 最後に聴いたのは、兄の叫び声。

「お前は俺の誇りだ!」


 その瞬間、警告灯の赤は消え、コクピットは闇に包まれた。

連載作品は0時更新。シリーズ『連載中』より、ご一読ください。


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