「カレーライス」「エレベーター」「占い師」
【カレーライスなんてもう二度と】
月曜の朝、私は駅前ビルの五階で開催される「就活セミナー」に向かっていた。リクルートスーツに身を包み、履歴書のコピーを抱え、気分はすでに葬式。
ただでさえ緊張で胃が縮み上がっているのに、その日、私の人生を決定的に狂わせたのは――カレーライスだった。
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セミナー開始まで三十分。私は空腹に負けて、ビル一階の食堂に飛び込んだ。
頼んだのはカレーライス。だがこの店のカレーは異常だった。見た目は普通、香りも普通なのに、ひと口食べた瞬間、脳が爆発したように「スパイスッ!!!」と叫ぶ。胃の中で暴れる唐辛子の軍団。私は滝のように汗を流し、ハンカチで顔を拭き拭き、ようやく皿を空にした。
「よし、これで午後まで戦える!」
と勢い込んだものの、すでに汗でスーツはびしょ濡れ。しかも胃がぐるぐる。だが時間がない。私は慌ててエレベーターに飛び乗った。
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エレベーターの中には、すでに数人が乗っていた。
派手な衣装をまとったおばさん――いや、占い師だ。どう見ても怪しい。紫のターバン、肩にはインコ(本物)、手には水晶玉。
「おや、若者よ。あなた、今日は試練の一日になりますね」
唐突に話しかけてきた。
「え、いや、僕セミナーが……」
「見えます、見えますよ。あなたのオーラにカレー色の渦が!」
「それ昼食です」
「いいえ、これは運命。カレーに導かれ、あなたは――遅刻します」
「やめてください! フラグ立てないでください!」
周囲の乗客がクスクス笑う中、エレベーターは二階に到着。だがドアが開いた瞬間――
ガクン!
嫌な音とともに、エレベーターが止まった。
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「え、まさか……」
慌てて操作盤を押すが、反応なし。通報ボタンを押すと、「ただいま係員が向かっています」と機械音声が返ってくる。
「ほら見なさい! 占いは当たるのです!」
占い師が得意げに叫ぶ。
「いやいや、これはたまたま……」
「若者よ、あなたの運命は今、エレベーターに閉じ込められることによって大きく開けるのです!」
「閉じてるんですけど!!」
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閉じ込められたのは私、占い師、サラリーマン二人、そして無表情の女子高生。狭い箱の中、空気はじわじわと重くなる。しかも、私の胃袋がカレー反乱を開始していた。
「ぐるるる……」
音が響いた。女子高生が冷たい目でこちらを一瞥する。
「あの……今のは機械音です」
と苦しい言い訳をしたが、汗だくの私を誰も信じていない。
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やがて占い師が水晶玉を取り出した。
「ここは私に任せなさい。この水晶が解決の糸口を――」
ガツン!
エレベーターの天井に水晶をぶつけ、見事に割った。中からなぜかレシートが出てきた。
「……あ、昨日のスーパーのですね」
占い師は顔を赤らめた。
「インチキじゃないですか!!」
「い、いいえ! これは予兆! スーパーの割引も運命の導き!」
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時間が過ぎていく。私は時計を見て青ざめた。セミナー開始まであと十分。
「くそ、もうダメだ……」
胃の中でカレーが再び暴動を起こす。今度は本気で危ない。
「すみません、非常に……非常に切羽詰まってるので、なんとか……」
と呻くと、女子高生がすっと手を差し伸べた。そこには……ミントガム。
「食べます?」
「神!!!」
私は震える手でガムを受け取り、必死に噛み続けた。ミントの清涼感がカレーの暴走を少しだけ鎮める。
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そこへ、上から声がした。
「皆さん、ご安心ください。あと五分で復旧します!」
「助かったああああ!」
ようやく希望が見えた瞬間、占い師がまた口を開いた。
「でもあなた、外に出た瞬間に――すべての努力が報われます」
「それって、内定出るってことですか!?」
「いえ、きっと食堂でカレーが半額に」
「そっちかーーー!!」
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結局、セミナーには遅刻。面接官に冷たい視線を浴びながら、私は心の中で誓った。
「二度と就活前にカレーは食べない」
だが翌週、私はまた「珈琲ポラリス」のカレーライスを平らげ、同じエレベーターに乗り込むことになる。もちろん、例の占い師と一緒に。
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