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辛い日々

 溝さらいの作業に体が悲鳴をあげなくなった頃。


 「おい、溝さらい、調子はどうだ?」


 「ぼちぼちだ」


 「はっ。お前みたいなどこの馬の骨かもわからない奴が溝さらいするから冒険者が清掃業者かなんかかと勘違いされるんだよ、クソが!」


 プライドが高いのはわかるがそんなこと俺の知ったことかという言葉を飲み込む。


 「………………すみません」


 「けっしけた野郎だぜ、行くぞ」


 金髪碧眼の顔はイケメンの冒険者がガニ股で闊歩する


 「はぁい」そいつに続く、ビキニアーマーのスタイル抜群の美女たち。


 こういう奴が一週間に一度はからんでいるから正直、かなりうっとうしい。


 冒険者同士の私闘は禁止されていると受付にでかでかと貼られていたから我慢する。

 もっとも、闘ったところで、勝てはしないのは目に見えているが。


 また別の日。


 「おい溝さらい、これも掃除しておけよ」


  名も知らぬ冒険者から飲み終わったビール瓶が投げ落とされ、溝に落ちて音を立てて割れる。


 破片を掃除して指を切ったので教会で消毒してもらう。


 破片掃除になれた頃。


 「これでもくらえ」


 クソガキ三人組が、べチャッと俺の後頭部に腐った果物を投げつける。


 「やったぜ、命中」


 俺は後頭部についた果物を手で拭い去り小さく舌打ちをする。


 同日の夜。


 タバコの吸い殻が溝に捨てられる。俺の手の甲にあたり火傷する。


 それをみたエルさんはさすがにその冒険者を注意し、心配そうな声で大丈夫ですかといわれた。


 そんな嫌がらせがなくなり始めた頃。


 雨上がりの炎天下で溝さらいをして、報告するためにギルドに向かうと、匂いに耐えかねた吸殻を捨てたことで注意された冒険者が周りの冒険者にみせつけるように大げさに鼻をつまむ。


 そのしぐさに周りの冒険者は大笑いし、疲れた俺に足を引っかける。倒れて立ち上がった俺に冒険者たちはさらに大笑いし、エルさんは俺に視線を合わせないようにした。


 さらにお調子者の冒険者が

「エルさん、こいつ臭いますよねぇ」といって周りの冒険者がさらに同調して大きく声を張り上げる。


 その騒ぎを抑えようとしたのかどうかはわからないが、エルさんは小声で、

「少し」と端的に俺が臭いことを認め、周りの冒険者は愉快そうに騒ぎ出す。


 その日、俺はシャワーを浴びながら、無意識に両拳を力強く握りしめ、こみ上げるなにかを必死に抑えていた。


 いつまでこんなことが続くのかと俺は自分の運命を呪った。


 だが、生きるためには仕方ない。

 

 生きるためにはこうする以外の方法を、俺は知らない。


 正直、腹に据えかねる思いは山ほどあるが、エルさんの笑顔で俺は頑張っている。


 どうして俺ばかりがこんな目に。


 ———なぜ、俺の日々はこんなに惨めなのだ。


 世間では勇者やらハーレムやら女神に愛されているとか、いろいろな出会いがあるのに、実際の世界では実力と顔のカッコよさだけで選ばれている。


 ふと、いっそのこと冒険者をやめてやろうか。


 それはそれで逃げたみたいで胸糞悪いものだけが残る。


 今に見ていろ。


 安全に出世して、勇者とはいわなくても立派な騎士になって他の奴らを見返してやる。

 仲間を集めて、いつかは女の子にモテモテに。

 

 いつかは騎士に。


 いつかは英雄に。

 

 いつかは勇者に。


 いつかは、いつかは、いつかは―――。


 仕事中、そんなことを考えながら、無意識に溝さらいの道具に力がこもる。


 だがこれが堅実で安全な冒険者生活だと自分に言い聞かせる


 こんな辛い日々を俺はおくっている。 


 

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