決闘の約束
溝さらいを終えてパブに戻るとなんだか中が騒がしかった。
「黙って聞いていりゃ、好き勝手言いやがってこのアマ!」
「男の分際で情けないのは事実じゃないか」
「一体、何の騒ぎだ」
近くに、たまたま居合わせたエルさんが俺の耳元で、「獅子姫が熟練冒険者の男性の独り言に文句を言っていつしか、女冒険者と男冒険者の喧嘩になったらしいですよ」とささやく。
「獅子姫?」
「ほら、あそこにたっている赤い髪の」
「ほーん」
獅子姫と言われた美女はパプにいた女冒険者の代表のように、男冒険者達を馬鹿にする。
そして馬鹿にされた冒険者の一人がバスターソードに手をかけたその時、俺はそいつの手に自分の手をそっと置く
「やめておけ」
「溝さらい……」
「なんだい、そいつは」
獅子姫が不遜な態度で尋ねる。
「溝さらいしている冒険者のリョウだ」
「へぇ、あんたが弱そうだ」と防具を外して酒場に来ていた俺をみて獅子姫は鼻で笑う。
「だったらこいつとお前どっちが強いんだよ」
「私に決まっているさ」
「ほぉん、だってよ」
野次馬の一人が俺にそういう。
「なんでそうなるんだよ」俺は苦笑する。
「無駄な戦いはしたくない」
「負けるのが怖いんだろ」
「そうじゃないが」
「だったら私とコロシアムで闘いな!それで男と女どっちが強いかはっきりさせてやる」
周囲の大衆は湧き上がる。
エルさんは溜息を吐く。
どうやら断る雰囲気じゃなさそうだ。
「どうやって勝てば俺の勝ちなんだ?」
そこらへんははっきりさせておかなければならない。
「そうだね、防具なし魔法なしポーションなしで私と闘って勝てば、いいだろう」
「ふざけんなよ、そんなのこいつが圧倒的に不利じゃねぇか」
そうだそうだと騒ぐ男冒険者たち。
「俺が決闘するメリットが今のところないが」
「そうだな…………私がお前の女になるでいいか?」
「姫様!それはあまりにも……」
侍女が止めに入る。
「お前、意味わかって言っているのか?」
「もちろんだ、私の体と心、すべてお前にやる。お前に不利な条件を課したんだ、私としても、これくらいのリスクがないと面白くない」
「お前、馬鹿だろ」
「はっなんとでもいえ。それで返事は」
「…………いいだろう、乗った」
「リョウさん!」
エルさんが止めに入る。
「わかっているんですか?自分が何をやろうとしているのか」
「剣一本であいつに勝てばいいんだろう?」
「なんで、そんなに自信満々なんですか、もう」
可愛らしく頬を膨らませるエルに俺は微笑む。
「大丈夫だ、剣の鍛錬もひと段落したし、ジャイアントラットも倒したからな」
「それでも、そのリレン姫の冒険者レベルは8ですよ」
「マジ?」
「マジです」
「ふふん、どうだ恐れ入ったか。まぁたかがジャイアントラットを倒した程度で私に勝とうなんて100年早いぞ。言い忘れていたが一度決闘を引き受けたのを取り消せないからな」
「くそ、甘言に惑わすとは、卑怯者め」
「あなたがスケベなだけでしょう!?」
エルさんが怒鳴る。
「……よしいいだろう3か月後に決闘するぞ、それでいいか」
「いいわよ、あなたが負けたらどうするつもり?」
「お前の奴隷になる」
「なっ」エルさんが驚く。
「あはは、いいねぇそうでなきゃ、面白くないな。それじゃあ、3か月後に」
「あぁ、楽しみにしていろ」
背を向けながら手を振って彼女は答え、パブを去る
「もう知りませんからね」エルはご機嫌斜めだった。
だが、相手が自分を差し出してきた以上、こうでもしなきゃ不公平だし、誰かが決闘しなければ収まらないだろう。
「安心しろ、鼠退治と溝さらいで鍛えた俺があんな生意気なお嬢様に負けてたまるか」
「よく言った!」
かつて俺に無名騎士の鍵を渡してくれた酔っぱらい冒険者が俺の背中をバンバン叩く。
「男たるもの、女を手に入れるには命がけじゃなければなぁ」
「そう思っているのは多分あなたとリョウくらいですよ」
「なんだ、リョウが奴隷になって離れ離れになるのが怖いんだろう」
「そ…………それは」
「ほうら、図星だ」
「どうして赤くなる」俺が尋ねると
「うぅ、知りません」
「ハハっリョウはまだまだ乙女心が分かってないなぁ」
一人おかしそうに笑われて、なんか釈然としないが、まぁいいか。
「それじゃあ俺も鼠退治に行きますか」
「勝手にしてください」
「そんなに怒るなよ、エルさん。あとでなんかおごるからさ」
「私、そんなに食い意地はった女じゃありません!」
そんなこんなで成り行きで俺は、初対面の女と決闘することになったが、俺は負けると奴隷になるらしい。
現在の俺のレベルは2。
「いや、リスク高すぎるだろ」
俺は誰に言うでもなく呟いた。
「あぁ、なんであんなことになったんだよ、畜生が。ていうか他にも俺より強い冒険者なんていくらでもいるだろう」
後悔ばかりが俺の頭をよぎったのであった。




