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先生が魔女狩りにあいました。  作者: しばたろう


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第2話 先生は良い魔女だ

「いけない!」


 俺は、飛び上がるように杖を天へと掲げた。


「雷雨(テンペスタス)!」


 刹那。


 空は一瞬にして分厚い雲に覆われ、広場に滝のような雨が降り注いだ。


 群衆は悲鳴を上げ、我先にと逃げ惑った。


 先生を包んでいた炎は、瞬く間に鎮火した。


 俺は先生のもとへと駆け寄る。


「先生、大丈夫!?」


 声をかけるも、返事がない。


 見ると、先生はうなだれていた。


 気を失ってしまったのだろう。


 俺は先生の手首を縛っている縄に杖の先を当てた。


「解除(ソルヴォ)!」


 すると、手首を縛っていた縄が、するりとほどけ落ちた。


 先生を抱きかかえるようにして柱から降ろしていると、


「きさま! 何者だ!」


 衛兵に気づかれた。


 そのときだった。


 雷鳴が轟き、広場の奥にそびえ立つ時計台に雷が落ちた。


 ぐぉおおおおん!


 凄まじい衝撃音とともに、まばゆい稲光があたりを照らす。


 野次馬たちの悲鳴が、広場に響き渡った。


 時計台の屋根から火の手が上がり、見る見るうちに燃え広がっていく。


 衛兵たちが時計台に気を取られている隙に、俺は先生を抱きかかえ、走り出した。


 逃げ惑う野次馬たちの間をすり抜け、広場を後にする。


 じきに魔法の効力が切れ、雨も止む。


 ……できるだけ遠くに逃げなければ。


 それにしても。


 腕の中の先生をちらりと見る。


(先生、こんなに軽かったんだ……)


◇


 俺は、町を駆け抜けた。


 町の人たちは、みな、燃え盛る時計台に気を取られているようだった。


 俺と先生を見ても、けが人を運んでいるくらいに思っていてくれればいいのだが。


 街はずれ。


 人気のない場所まで来ると、先生を草むらにそっと横たえた。


 見ると、先生の黒いローブは裾まで焼け落ち、むき出しになった両足は、真っ赤にただれていた。


「なんてむごい……」


 俺は怒りを押し殺し、心を落ち着かせると、杖を先生の太ももに当てた。


「治癒(サナティオ)!」


 赤く腫れ上がった肌が、少しずつ滑らかになっていく。やがて、傷ひとつない、元の白くきれいな肌へと戻っていった。


 ……よかった。


「う、うーん」


 先生が意識を取り戻した。


「先生!」


 先生はゆっくりと目を開け、俺を見つめた。


「わたし、生きてるのか?」


「うん。もう大丈夫だよ」


 先生は、はっとして体を起こし、あたりを見回した。


「兵隊は?」


「広場で混乱中だよ」


 そう言って、俺は遠くで燃え盛る時計台を指さした。


 先生はそれを見て、驚いた顔をする。


「あれは、アルタスが?」


「うん。雷雨(テンペスタス)の魔法を使った」


 すると、先生は悲しそうに俺を見つめた。


「アルタス、なんてことを……」


 そして、ゆっくりとかぶりを振った。


「お前を巻き込んでしまうなんて……」


「大丈夫だよ。たぶん、ばれていないよ?」


 しかし、先生は俺の言葉に答えず、よろりと立ち上がった。


「逃げよう!」


 先生は歩き出した。


「すぐに追手が来る。それまでに、早く私の家まで!」


「わ、わかった」


 俺も慌てて先生の後を追った。

 

◇

 

 俺たちは町を抜け、森の小路を急いでいた。


 向かう先は、森の奥にある先生の家だ。


 黙々と前を歩く先生の後ろ姿を見つめる。


 ……先生、怒っているのだろうか?


「アルタス。人前で魔法を使ってはいけないよ。絶対にだ」


 幼いころから、ずっと先生に言い聞かされてきたことだ。


 今日、俺はその言いつけを初めて破った。


 先生は、俺が魔法を使えることを、ずっと世間から隠してきた。


「アルタス。お前を、間違っても私の子供だと世間に思わせてはいけないんだ」


 先生はそう言って、俺に自分のことを『先生』と呼ぶよう約束させた。


 先生の家を訪れる客には、俺のことを知り合いから預かった子供で、薬作りの助手をさせていると説明していた。


 まあ、まったく似ていない俺たちを親子だと思う客はいなかったようだが。


 そして、俺が十五歳になると、先生は俺を家から追い出すように、町で一人暮らしをさせた。


 知り合いの伝手で、鍛冶屋の見習いの仕事まで見つけてくれた。


「アルタス。いいかい。これからは普通の人間として、一人で暮らしていくんだ」


「先生。俺、ずっとここにいちゃ、だめなのか?」


「アルタス。それはだめだ。それは、お前のためにならない」


 頑として首を縦に振らない先生に根負けし、俺は先生のもとを離れた。


 先生の突き放すような態度は、当時の俺には理解できなかった。


 しかし、今日、その理由がはっきりと分かった気がした。


(いつか、自分は人々から敵視される)


 先生は、ずっと昔からそう確信していたのではないだろうか。


 そして、俺も同じように敵視されることを、先生は恐れていたのだ。


 先生の思いを踏みにじってしまったのかもしれない。


 それでも。


 俺は、先生を助けたことをこれっぽっちも後悔していない。


 俺にとって先生は、世界で一番大切な存在なのだから。

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