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猫山さんをわからせたい!  作者: ウチぬっこ
最終章 生意気な後輩をわからせたい!

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21/22

第21話 猫山さんと初詣の約束

クリスマスイベントが終わってから、数日が経った。


 店内のクリスマス飾りも片づけられ、代わりに年末らしい慌ただしさが感じられるようになっていた。


 クリスマスの日にトナカイの格好をさせられたことは、今でも忘れられない。


 猫山さんとシャロさんには散々笑われたし、写真まで撮られてしまった。


 ……まあ、子どもたちには好評だったから、悪いことばかりでもなかったのだが。


「近藤さん、もうすぐ一年終わりますね!」


 仕事の合間、シャロさんが明るい声で話しかけてきた。


「そうだね。もう年末か……あっという間だな」


「お店がお正月でお休みになったら、何をするんですか?」


「特に決めてないよ。家でゆっくりするくらいかな」


「そうなんですね! 私は初詣に行こうかなって思ってます」


「いいんじゃない? 俺も気が向いたら行こうかな」


「初詣、いいですよね! お正月って感じがします!」


 楽しそうに話すシャロさんに、俺は思わず苦笑した。


 そのとき、少し離れたところにいた猫山さんが、こちらを見ていることに気づいた。


 一瞬目が合ったものの、猫山さんはすぐに視線をそらし、何事もなかったかのように仕事へ戻っていった。


 ……もしかして、今の会話を聞いていたのか?


 そう思ったものの、わざわざ確かめることでもない。俺も目の前の仕事に戻ることにした。


 ***


 それからしばらくして、仕事の合間に猫山さんと顔を合わせる機会があった。


「先輩」


「ん? どうした、猫山さん」


「先輩って、お正月は何か予定あるんですか?」


「いや、特にないけど。家でのんびりするつもりだよ」


「ふーん……そうなんですね」


 猫山さんは何かを考えるように、少しだけ黙り込んだ。


 いつもならすぐにからかってくるのに、今日はどこか様子が違う。


 やがて、猫山さんは意を決したように顔を上げた。


「……それなら、私と初詣に行きませんか?」


「……え?」


 思わず聞き返してしまった。


 今、猫山さんはなんと言った?


 俺と初詣に行きたい、と。


「聞こえませんでした? 初詣です。せっかく元日はお休みですし、一緒に行きましょうよ」


「いや、聞こえてたけど……急にどうしたんだ?」


「先輩、予定がないって言ってたじゃないですか」


「それはそうだけど」


「それとも、私と行くのは嫌ですか?」


 猫山さんは、いつものからかうような笑みを浮かべずに俺を見つめた。


 その表情には、ほんの少しだけ不安がにじんでいるように見えた。


 いつもはあんなに生意気なのに、こういうときは意外と素直なんだな。


 そんなことを思うと、断る理由なんてなかった。


「……いや、嫌じゃないよ。俺でよければ、一緒に行こう」


 そう答えると、猫山さんの表情がぱっと明るくなった。


「本当ですか?」


「本当だよ」


「……よかったです」


 ほっとしたように笑う猫山さん。


 その顔を見ていると、こっちまで少し嬉しくなってくる。


 ……なんだか、調子が狂うな。


 しかし、次の瞬間。


「じゃあ、これってデートですね!」


「はっ!?」


 猫山さんは、いつもの生意気な笑みを浮かべた。


「な、なんでそうなるんだよ!」


「だって、お休みの日に二人きりでお出かけするんですよ? デートって言っても間違いじゃないですよね?」


「初詣に行くだけだろ!」


「はいはい。そういうことにしておきますね、先輩」


「おい、絶対わかってないだろ!」


「ふふっ。先輩って、こういうときは本当にわかりやすいですね」


 ……やっぱり、こいつは生意気だ。


 せっかく素直に誘いを受けたというのに、すぐこれだ。


 とはいえ、初詣に行くこと自体は、俺も楽しみだった。


「それで、何時にする?」


「うーん……あまり遅いと混みそうですし、午前中にしませんか?」


「そうだな。じゃあ、十時くらいでどう?」


「わかりました! 待ち合わせ場所は、あとで連絡しますね」


「ああ、頼む」


「寝坊しないでくださいよ? 先輩、休みの日はのんびりしてそうですから」


「俺をなんだと思ってるんだよ……」


「ふふっ。頼りにしてますよ?」


 そう言い残し、猫山さんは満足そうに仕事へ戻っていった。


 ***


 その日の仕事が終わり、帰り支度をしていると、スマートフォンが震えた。


 画面を見ると、猫山さんからメッセージが届いていた。


『先輩、今日は約束してくれてありがとうございました! 元日の十時、楽しみにしてますね!』


 続けて、待ち合わせ場所も送られてきた。


 俺は内容を確認してから、短く返信する。


『了解。俺も楽しみにしてるよ』


 送信してから、ふと気づいた。


 ……俺、今、楽しみって送ったのか。


 別に嘘ではない。


 ただ、猫山さんにそれを知られると思うと、なんだか少し気恥ずかしかった。


 すると、すぐに返信が届いた。


『ふふっ。私もです! 当日は可愛い格好で行きますから、楽しみにしていてくださいね?』


「……あいつは本当に」


 思わず苦笑してしまう。


 初詣に誘ってくれたと思ったら、最後にはこれだ。


 当日、どんな格好で来るのか。


 そんなことを考えている自分に気づき、俺は小さくため息をついた。


「……まあ、楽しみにしておくか」


 猫山さんと二人で出かける約束をした。


 たったそれだけなのに、元日が来るのを少しだけ待ち遠しく感じている自分がいた。


 ……このことだけは、絶対に猫山さんには言えない。


 やっぱり、あいつは生意気だ。


 そう思いながらも、俺の口元には自然と笑みが浮かんでいた。

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