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猫山さんをわからせたい!  作者: ウチぬっこ
第二章 猫山さんと、新しい新人

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19/22

第19話 猫山さんとクリスマスの準備

十二月も半ばに差しかかった頃。


 街では、少しずつクリスマスの気配が濃くなっていた。


 そして、俺たちの働く店でも、店内の飾りつけやイベントの準備が始まろうとしていた。


 そんなある日の朝礼で、店長から発表があった。


「今年もクリスマスイベントを開催する。去年と同じく、店内の装飾や当日の準備を進めていくから、みんな協力してくれ」


「了解です!」


 元気よく返事をする大久保さん。


 その隣では、桜場さんと佐々木さんも慣れた様子でうなずいていた。


「もうそんな時期かあ。去年も準備が大変だったよね」


 桜場さんが懐かしそうに言う。


「そうそう。飾りつけだけじゃなくて、当日のことも考えないといけないからね」


 佐々木さんも苦笑した。


 俺も去年のことを思い出し、思わずうなずく。


 クリスマスイベントは毎年恒例の行事だ。準備するものも多いし、当日は普段以上に忙しくなる。


 去年もなかなか大変だった。


 ……まあ、今年は去年とは違う意味で、少し気になることがあるのだが。


「クリスマスイベント、ですか?」


 隣から聞こえてきた声に目を向ける。


 猫山さんが、興味深そうに店長を見ていた。


「はい! 私、こういうイベントは初めてなので、ちょっと楽しみです!」


 シャロさんも、いつもの柔らかな笑顔を浮かべている。


 そういえば、この二人にとっては初めてのクリスマスイベントだった。


「そっか。猫山さんたちは初めてだもんね」


 大久保さんが二人に声をかける。


「はい! 去年はどんな感じだったんですか?」


 シャロさんが興味津々といった様子で尋ねた。


「結構にぎやかだったよ。準備は大変だけど、その分、お客さんにも喜んでもらえるからね」


「へえ……! それは楽しみです!」


 シャロさんは目を輝かせた。


 一方、猫山さんも店内の装飾をちらちらと眺めている。


「猫山さんも、クリスマスイベントは楽しみか?」


 俺が小声で尋ねると、彼女はすぐにこちらを向いた。


「もちろんですよ。初めてなんですから、気になるに決まってるじゃないですか」


「へえ。珍しく素直だな」


「……先輩、私を何だと思ってるんですか?」


「生意気で、人をからかうのが好きな後輩」


「それ、褒めてませんよね?」


「事実を言っただけだ」


「ほんと、一言多いんですから」


 猫山さんはむっとした顔をしたが、すぐに店内へ視線を戻した。


「でも……どんなイベントになるのか、ちょっと楽しみです」


 ぽつりとこぼした言葉は、いつものからかうような口調とは違っていた。


 どうやら、本人も本当に楽しみにしているらしい。


「じゃあ、準備を始めよう。近藤くんと猫山さんは、倉庫から装飾品を確認して持ってきてくれるか?」


「わかりました」


「はい、店長」


 俺と猫山さんは返事をして、倉庫へ向かった。


***


「えーっと、クリスマスツリーに、リースに、電飾……」


 倉庫に着くと、俺は去年の記憶を頼りに必要なものを確認していく。


 棚には、クリスマス用の飾りが入った箱がいくつも並んでいた。


「先輩、ずいぶん慣れてますね」


「去年もやったからな。何がどこにあるか、だいたい覚えてるんだよ」


「なるほど。さすが先輩です」


「……なんか、素直に褒められると調子が狂うな」


「褒めてますよ? 私、先輩のことはちゃんと評価してますから」


 猫山さんは、にこっと笑った。


 絶対に、からかうつもりで言っている。


「はいはい。ありがとな」


「ふふっ。どういたしまして」


 まったく、相変わらず生意気な後輩だ。


 俺たちは箱を一つずつ開け、中身を確認していった。


 去年使った装飾品も、きちんと片づけて保管してある。破損していないか、電飾が点灯するか、確認することは意外と多い。


 しばらく作業を続けていると、猫山さんが一つの箱を開けた。


「あ、これ可愛いですね」


 彼女が手に取ったのは、小さな雪だるまの飾りだった。


「それ、去年も使ったやつだな」


「へえ、そうなんですか」


 猫山さんは雪だるまを手のひらに乗せ、いろいろな角度から眺めている。


「猫山さん、そういう可愛いもの好きなのか?」


「……悪いですか?」


「いや、別に。意外だなと思っただけ」


「先輩って、私のことを勝手に決めつけますよね」


「そうか?」


「そうですよ。こう見えて、可愛いものだって好きなんですから」


 少しむきになって言い返す猫山さん。


 その様子がおかしくて、俺は思わず笑ってしまった。


「何笑ってるんですか?」


「いや。楽しそうだなと思って」


「……初めてなんですから、少しくらい楽しみにしたっていいじゃないですか」


 そう言って、猫山さんは少しだけ視線をそらした。


「もちろん。楽しんでくれたらいいと思うぞ」


「……ふうん」


 猫山さんは俺をちらりと見た。


「先輩も、ちゃんと楽しませてくださいね?」


「なんで俺に限定するんだよ」


「だって、先輩は去年も経験してるんでしょう? 頼りにしてますから」


 さらっと言われて、返事に詰まった。


 ……そういうことを、こいつは平気で言う。


「わかったわかった。できる範囲でな」


「はい。期待してます」


 猫山さんは満足そうに笑った。


 俺たちは確認を終えた装飾品を箱にまとめ、店内へ運ぶことにした。


***


 店内に戻ると、大久保さんたちも飾りつけの準備を進めていた。


「お、持ってきてくれた? ありがとう!」


 大久保さんが箱を受け取り、中身を確認する。


「ひとまず、確認できた分です。残りも倉庫で確認してきます」


「助かるよ。じゃあ、こっちは飾りつけを始めておくね」


 俺がうなずくと、猫山さんは箱の中からリースを取り出した。


「私も飾りつけを手伝いますね」


「うん、お願い!」


 大久保さんに返事をして、猫山さんは店内へ向かった。


 俺は一人で倉庫へ戻り、残っている装飾品の確認を続けることにした。


 店内では、桜場さんと佐々木さんが装飾を広げていた。


「この電飾、去年も使ったやつだよね?」


「そうそう。ちゃんと点くか、あとで確認しないとね」


 二人とも手慣れた様子で作業を進めている。


 一方、シャロさんは飾りの配置を考えているらしく、店内を見回していた。


「うーん……ツリーはこっちのほうが目立ちますかね?」


「そうだね。お客さんの通り道をふさがないようにすれば、そっちでもいいと思うよ」


 佐々木さんが丁寧に説明すると、シャロさんは真剣な顔でうなずいた。


「なるほど……! じゃあ、こっちに飾りを置けば、もっと華やかになりますね!」


 ところが、勢いよく手を伸ばした拍子に、近くに置いてあった飾りの箱が傾いた。


「あっ!」


 シャロさんが慌てて箱を押さえる。


 幸い、中身が飛び出すことはなかった。


「だ、大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。びっくりしたね」


 桜場さんが笑いながら箱を整える。


「す、すみません……! 私、こういう準備に慣れていなくて……」


「最初はそんなものだよ。ゆっくりやれば大丈夫」


 佐々木さんに励まされ、シャロさんはほっと胸をなで下ろした。


「ありがとうございます! 頑張ります!」


 そんなやり取りをしている間にも、店内の飾りつけは着々と進んでいった。


 倉庫で残りの装飾品を確認していた俺は、必要な箱を抱えて店内へ戻った。


 すると、猫山さんがちょうど雪だるまの飾りを手にしていた。


「先輩」


「ん?」


「これ、どこにつけるのがいいと思います?」


「それなら、ツリーの近くでいいんじゃないか?」


「わかりました。じゃあ、先輩が見えるところに飾っておきますね」


「なんでだよ」


「だって、先輩にも見てもらいたいですから」


 猫山さんは悪戯っぽく笑う。


「……はいはい。好きにしてくれ」


「ふふっ。そうします」


 そう言って、彼女は雪だるまをツリーのそばに飾った。


 飾りの位置を少し調整してから、満足そうにうなずいている。


 俺はその様子を横目に、運んできた箱を所定の場所に置いた。


***


 残りの装飾品も確認して運び終える頃には、店内の雰囲気もすっかりクリスマスらしくなっていた。


 入口のリースに、壁の装飾。店の一角にはクリスマスツリーも飾られ、さっきまでとは見違えるようだ。


「おお、いい感じになったね!」


 大久保さんが満足そうに店内を見渡す。


「去年と比べても、なかなかいいんじゃない?」


 桜場さんの言葉に、佐々木さんもうなずいた。


「うん。当日が楽しみだね」


 その言葉を聞いて、シャロさんも嬉しそうに笑った。


「私も楽しみです! どんな一日になるんでしょう?」


「忙しくなるのは間違いないけどね」


 俺がそう言うと、猫山さんが隣から顔をのぞかせた。


「先輩、そういうこと言ってると、楽しみな気持ちが減っちゃいますよ?」


「いや、忙しいのは本当だからな」


「それでも、楽しみなものは楽しみです」


 猫山さんは、飾りつけの終わったツリーを見上げた。


 普段は何かと俺をからかってくる彼女も、今は目の前の景色を素直に楽しんでいるようだった。


「……まあ、そうだな」


 俺もツリーを見上げる。


 去年も経験したイベントだ。準備の大変さも、当日の忙しさも知っている。


 それでも今年は、少し違う。


 猫山さんがいて、シャロさんがいて。


 去年とは違う顔ぶれで迎えるクリスマスは、きっとまた違った一日になるのだろう。


「先輩?」


「ん?」


「何、ぼーっとしてるんですか?」


「いや、なんでもない」


「ふうん?」


 猫山さんは俺の顔をのぞき込んでから、にやりと笑った。


「もしかして、クリスマスイベントで私と一緒に働けるのが楽しみだったりして?」


「……誰がそんなこと言った」


「言ってませんけど、否定するのが早いですね?」


「お前なあ……」


「ふふっ。やっぱり先輩は面白いです」


 そう言って、猫山さんは楽しそうに笑った。


 まったく、最後まで生意気な後輩だ。


 けれど、今年のクリスマスは、去年よりも少しだけ楽しみかもしれない。


 俺はそんなことを思いながら、もう一度、飾りつけの終わった店内を見渡した。


 クリスマスイベントまで、あと少し。


 今年はきっと、いつもより騒がしくて、少しだけ特別なクリスマスになりそうだ。

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