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猫山さんをわからせたい!  作者: ウチぬっこ
第二章 猫山さんと、新しい新人

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18/22

第18話 猫山さんの大事な物

休憩時間。


 私は休憩室に向かう途中、ふと足を止めました。


 扉の向こうから、誰かの楽しそうな声が聞こえたからです。


「……ふふっ」


 あれ?


 今の声は、猫山さんでしょうか。


 気になってそっと中を覗いてみると、猫山さんが休憩室のソファに座り、スマートフォンの画面を見つめていました。


 しかも、その表情はいつもと違います。


 普段の猫山さんは、どこか余裕たっぷりで、近藤さんをからかっては楽しそうに笑っています。


 なのに、今は頬を緩めて、幸せそうにニヤニヤしているのです。


「……えへへ」


 ……えっ?


 猫山さんが、こんなふうに笑うなんて!


 私は思わず目を丸くしました。


 いったい何を見ているのでしょうか。


 これは、気になります!


「猫山さん、何を見ているんですか?」


「ひゃっ!?」


 突然声をかけたせいか、猫山さんは肩を跳ねさせました。


 慌ててスマートフォンを胸元に引き寄せ、こちらを振り返ります。


「シャ、シャロさん!? いつからそこにいたんですか!?」


「今来たところですよ。それより、何を見ていたんですか?」


「な、何でもないです!」


 即答でした。


 しかも、スマートフォンを隠すように抱えています。


 ……これは、何かありますね!


「えー、気になります。ちょっとだけ見せてください!」


「だ、駄目です!」


「どうしてですか?」


「どうしてもです!」


 猫山さんは必死にスマートフォンを守っています。


 いつもの余裕はどこへ行ってしまったのでしょうか。


 私は首をかしげました。


「もしかして、誰にも見せられないようなものですか?」


「ち、違います! 変なものじゃありませんから!」


「じゃあ、見せても大丈夫ですよね?」


「うっ……!」


 猫山さんは言葉に詰まりました。


 しばらく私とスマートフォンを交互に見比べていましたが、やがて諦めたように小さくため息をつきました。


「……わかりました。少しだけですよ?」


「はい!」


 猫山さんは渋々、スマートフォンの画面をこちらに向けました。


 そこに映っていたのは、一匹の白猫のぬいぐるみでした。


 丸い目に、ふわふわの白い毛。


 どこか愛嬌のある顔をした、とても可愛らしいぬいぐるみです。


「あっ、可愛い!」


 思わず声を上げると、猫山さんは嬉しそうに口元を緩めました。


「……そうでしょう!」


「猫山さん、このぬいぐるみが好きなんですか?」


「はい。とっても可愛いですし……大切なものなんです」


 そう言った猫山さんの声は、いつもより少し柔らかいものでした。


 からかうような調子も、強がるような態度もありません。


 ただ、本当に大切に思っていることが伝わってきました。


「そうなんですね。大切なものなんですね!」


「……そうです」


 猫山さんは、照れくさそうにしながらも、はっきりとうなずきました。


 その様子を見て、私はあることを思いつきました。


 もしかして、このぬいぐるみ……近藤さんにもらったものなのではないでしょうか?


 先日のお休み、二人は映画を見に行ったあと、ゲームセンターにも寄ったと言っていました。


 もしかすると、そこで何かあったのかもしれません。


 私は、少しだけ意地悪な質問をしてみることにしました。


「……もしかして、それ、近藤さんにもらったものですか?」


「っ!?」


 猫山さんの肩が、びくっと跳ねました。


 あっ。


 これは、当たりかもしれません!


「な、ななな、何を言ってるんですか!?」


「えっ、違うんですか?」


「ち、違……っ! いえ、その……!」


 猫山さんは顔を赤くして、言葉を詰まらせました。


 普段はあんなに堂々としているのに、近藤さんのことになると、どうしてこんなにわかりやすいのでしょう。


「ふふっ。やっぱり、近藤さんからのプレゼントなんですね?」


「ち、違います! これは、その……!」


「その?」


「……ゲームセンターで、取ってもらっただけです!」


 猫山さんは勢いよく言い切りました。


 けれど、言った直後にはっと口を押さえます。


「あっ……!」


 ……なるほど。


 やっぱり、そういうことだったんですね!


「ゲームセンターで取ってもらったんですか! 素敵ですね!」


「す、素敵とか、そういうんじゃありませんから!」


「でも、そんなに嬉しそうに写真を見ていたじゃないですか」


「そ、それは……ぬいぐるみが可愛いからです!」


「ぬいぐるみが、ですか?」


「そうです! この子が可愛いからです!」


 猫山さんはスマートフォンの画面を指さしながら、必死に主張しました。


 私は思わず笑みをこぼしました。


「ふふっ。猫山さんって、近藤さんのことになると可愛いですね」


「なっ……!?」


 猫山さんは目を見開きました。


「か、可愛いって……! 私はいつも通りです!」


「そうですか? さっきは、とっても幸せそうな顔をしていましたよ?」


「そ、それは見間違いです!」


「えー? でも、えへへって笑っていましたよ?」


「わ、忘れてくださいっ!」


 猫山さんは両手で顔を覆ってしまいました。


 いつもの生意気な笑みは、すっかり消えています。


 ……やっぱり、お二人は特別な関係なのかもしれません。


 少なくとも、猫山さんにとって近藤さんは、ただからかって遊ぶだけの相手ではないのでしょう。


 そんなことを考えていると、猫山さんが指の隙間からこちらをちらりと見ました。


「……シャロさん」


「はい?」


「今のこと、誰にも言わないでくださいね」


 その声は、いつになく真剣でした。


 私はすぐにうなずきます。


「もちろんです! 誰にも言いません!」


「……本当ですよ?」


「はい。約束します!」


 私が笑顔で答えると、猫山さんはほっとしたように息を吐きました。


 そして、スマートフォンを大事そうに胸元へ抱き寄せます。


「……近藤先輩との、大切な思い出なんですから」


 猫山さんは、誰に聞かせるでもなく、小さな声でそうつぶやきました。


 その頬は、まだほんのり赤いままでした。


 私は思わず微笑みます。


 きっと、このぬいぐるみを見るたびに、あの日のことを思い出すのでしょう。


 近藤さんと過ごした、特別な一日を。


 ……うん。


 このことは、私だけの秘密にしておきます。


 お二人の関係がこれからどうなっていくのか、ますます楽しみになってきました。

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