第17話 シャロさんの観察日記
私は最近、日記を書き始めました。
理由は、私が働いているお店に、とても気になる二人がいるからです。
近藤さんと、猫山さんです。
二人は、もしかすると付き合っているのかもしれません。
そう思ったきっかけは、先日のお休みの話でした。
猫山さんが近藤さんに向かって、楽しそうに「デート、楽しみにしてますね!」と言っていたのです。
あれは、どう考えても普通のお出かけではありません。
……いえ、もしかすると、本当にただのお出かけなのかもしれません。
でも、気になります。
とっても気になります!
というわけで、今日はお二人に、それとなく聞いてみることにしました。
***
「近藤さん、ちょっといいですか?」
「ん? どうした、シャロさん」
仕事の合間、私は近藤さんに声をかけました。
「この前のお休み、何をしていたんですか?」
「え? 普通に映画を見に行ったけど」
「映画ですか! いいですね。誰と行ったんですか?」
「……猫山さんと」
近藤さんは、ほんの少しだけ答えるのをためらいました。
やっぱり!
私は心の中で、思わずガッツポーズをしました。
「猫山さんと二人で、ですか?」
「まあ、そうだけど……」
「映画のあとは、どこかに行ったんですか?」
「ゲームセンターに寄ったかな」
「ゲームセンター! それで、それで、楽しかったですか?」
「そりゃあ、普通に楽しかったよ」
近藤さんはそう言って、少し困ったように笑いました。
でも、私にはわかります。
この反応は、何かあります!
「近藤さんは、猫山さんと一緒にいると楽しいんですね」
「……まあ、猫山さんとは一緒にいて気楽だしな」
近藤さんは、さらっと答えました。
その言葉に、私は思わず目を輝かせます。
「それって、猫山さんのことが好きってことですか?」
「なっ……! どうしてそうなるんだよ」
「えー? だって、お休みの日に二人で映画を見に行って、ゲームセンターにも行ったんですよね?」
「それは……俺から誘ったんだけど、せっかく出かけたんだから、いろいろ楽しもうと思ってさ」
「ふふっ。そうなんですか?」
近藤さんは、照れくさそうに視線をそらしました。
はっきり否定してくれませんでした。
……これは、かなり怪しいです!
「シャロさん、仕事に戻ろうか」
「あっ、はい! お仕事もちゃんと頑張ります!」
私は元気よく返事をしました。
もちろん、仕事は大切です。
でも、お二人の関係も気になります。
これは、引き続き観察する必要がありそうです。
***
そして休憩時間。
今度は猫山さんに話を聞いてみることにしました。
「猫山さん、今ちょっといいですか?」
「はい、シャロさん。どうしました?」
猫山さんは、いつものように余裕たっぷりの笑みを浮かべています。
よし。
ここは思い切って聞いてみましょう。
「この前のお休み、近藤さんと映画を見に行ったんですよね?」
「……えっ?」
猫山さんの笑顔が、一瞬だけ固まりました。
あっ。
これは、何かあります!
「な、なんで知ってるんですか!?」
「近藤さんから聞きました!」
「近藤先輩から!?」
猫山さんは驚いたあと、すぐに咳払いをしました。
「べ、別に隠すようなことじゃないですよ? ただ映画を見に行っただけですから」
「そうなんですね。映画のあとは、ゲームセンターにも行ったんですよね?」
「そ、そうですけど……。それがどうかしました?」
猫山さんは平静を装っていますが、頬がほんのり赤くなっています。
これは、ますます怪しいです!
「猫山さんは、近藤さんのことが好きなんですか?」
「なっ……!?」
猫山さんの顔が、一気に赤くなりました。
「な、何を言ってるんですか!? そんなわけないじゃないですか!」
「そうなんですか?」
「そうです! 私はただ、近藤先輩をからかって遊んでいるだけですから!」
猫山さんは胸を張って言い切りました。
けれど、その視線はどこか落ち着きません。
「……本当ですか?」
「ほ、本当です!」
「ふふっ。わかりました!」
私は笑顔でうなずきました。
もちろん、完全には信じていません。
だって、近藤さんの話をしているときの猫山さんは、いつもより少しだけ様子が違うのです。
普段は余裕たっぷりなのに、近藤さんのことになると、急に慌てたり、顔を赤くしたり。
きっと、本人もまだ自分の気持ちに気づいていないのかもしれません。
***
その日の帰り道。
私は、今日の出来事を日記に書きました。
近藤さんは、猫山さんと二人で映画を見に行った。
映画のあとには、ゲームセンターにも寄った。
近藤さんは、猫山さんと一緒にいると楽しいと言っていた。
そして、猫山さんは近藤さんのことを好きなのかと聞くと、顔を真っ赤にして否定した。
……うん。
やっぱり、お二人はお互いを意識していると思います!
ただ、まだ素直になれていないだけなのかもしれません。
「よーし!」
私は日記を閉じ、両手をぎゅっと握りました。
お二人がもっと仲良くなれるように、私も何かお手伝いできたらいいな。
もちろん、無理にくっつけようなんて思っていません。
ただ、ほんの少しだけ背中を押してあげるんです。
……きっと、それくらいなら大丈夫ですよね?
私はまだ知りませんでした。
そのお手伝いが、二人にとって思いもよらない騒動の始まりになることを。




