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触れられない壁

 空間がジジジと不気味に歪み、青白い火花を散らす電磁隔壁。

 ハルは息を呑みながら、その半透明の壁に恐る恐る手を伸ばした。しかし、指先が触れるか触れないかの距離に近づいた瞬間、バチィッ!と激しい破裂音が響き、全身を焼き切るような鋭い衝撃が突き抜けた。


「――っつう……!」


 ハルは悲鳴を上げて飛び退き、自分の右手を押さえた。指先が真っ赤に変色し、じんじんと 激しい痛みが引かない。エデンで育ち、人生でここまでの痛みを一度も経験したことのなかったハルにとって、それは脳がパニックを起こすほどの衝撃だった。


 父の資料にあったデータを思い出す。

(この隔壁は、物理的に侵入を遮断しているわけじゃない。侵入しようとする者に、強烈な高電圧の電気ショックを与えて引き返えさせる仕組みなんだ……。激痛を覚悟すれば、中に入れないことはない。でも……)


 今のハルには、その痛みの恐怖に打ち勝つだけの勇気はまだなかった。


 ハルがもどかしさと恐怖に唇を噛んでいると、隔壁の向こう側、激しい雨に打たれる森の斜面に立つ少女が、手にしたクワをぐっと構え直して鋭い声を張り上げた。


「お前は……誰だ……!」


 その声に、ハルは弾かれたように目を見開いた。

 日本語だ。少し訛りがあり、ひどくぶっきらぼうで、エデンの市民のようなイントネーションはない。けれど、確かに言葉が通じる。


「待って、私は怪しいものじゃないの! 私は、ハル。……宮代ハル!」

「はる……?」


 澪は不思議そうに片眉を上げた。自分とまったく同じ顔をした少女が、見たこともない服を着て、壁の向こうに立っている。その状況自体が理解できないという顔だ。


「お前、そこの『お触れの壁』の外にどうやって出た? 早く戻れ。そこから先は、夜になると人を食う凶暴な化け物が群れをなして出る。村のおさからも、その壁の向こうには絶対に近づくなときつく言われているんだ」


 澪の瞳には、怯えではなく、教えを頑なに守ろうとする強い意志があった。

 エデンが外の世界を「高濃度汚染区域」として市民を遠ざけているように、八津里村では「人食いの獣が出る」という嘘の怪異を植え付けることで、住民が隔壁に触れるのを防いでいたのだ。


 二つの世界は、それぞれ異なる「嘘」の檻に閉じ込められている。


「化け物なんていないわ! ここは……」

 言いかけて、ハルは言葉を呑み込んだ。ここは高度な文明によって作られた『箱庭実験場』で、あなたは世界を比較するためのモルモットなんだと説明したところで、何も知らない彼女に伝わるはずがなかった。


「あの、えっと……私は、あなたのことを知りたいの!」


 ハルは、先ほど激痛を味わったばかりの隔壁に再び顔を近づけ、身振り手振りで必死に訴えかけた。

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