第2章 療養先での暮らし
筆者は誤字脱字病なので、見つけた方が脳内で正しく変換していただけると助かります。何度も見直しをし、Wordで修正機能を使っても、しぶとく存在し続けるので……(いい訳にも腹を立てないでもらえると嬉しいです)
第2章もよろしくお願いします。恋愛部分はずいんぶんと後半の章からになりますので、是非ともそこまでお付き合いください。
半日ほど馬車に揺られた後、私は父の友人だというロウランド子爵の屋敷に到着した。
降り立った場所は途中のまるで砂漠を思わせるような砂地とは違い、かなり広大で長閑な草原地帯の一角だった。
広めの屋敷の周りには権威を象徴するナラやカシなどのオーク類だけでなく、オリーブや様々な実りのある木々も植えられてあった。
療養地には最適な爽やかな風景だったが、ここで自分がどんな扱いを受けるかくらい、最初から想像がついていた。
ロウランド子爵夫人は、私に掛かる費用と共に謝礼金をきちんと我が家から受け取ったはずだ。
それなのに到着してすぐに、私を長年使っていなかったと思われる使用人部屋に押し込んだ。使用人はちゃんと客間を準備してくれていたというのに。
慌てて掃除をし始めたメイドのレナに、余計な仕事をさせてしまって申し訳ないと、私はこっそりと礼金を手渡した。
子爵だけでなく夫人までが父の学園時代の友人だというのなら、余計な仕事をさせても労うような人物ではないだろうと思ったからだ。
そしてこの屋敷に着いたその日から、私は厨房近くの食堂で使用人達とまかないを食べるようにと命じられた。
「伯爵令嬢様にこのようなまかないをお出しするなんて、本当に申し訳ありません。ここには静養にいらしたというのに」
初めて会ったとき、執事のレックスさんと料理長のロバーツさん、そしてメイド頭のマーサさんが心底申し訳なさそうにそう言った。
この屋敷の使用人は、我が伯爵家と同じで前妻が雇った者達ばかりらしく、皆良い人達ばかりだった。
ロウランド子爵家の状況は本当にマクレミアン伯爵家と酷似していた。
先妻との子供を蔑ろにしているところまで、本当にそっくりだと思った。まあそのことを知ったのはそれから二週間ほど経ってからだったけれど。
「同じ釜の飯を食う仲」になったおかげで、使用人達とはすぐに仲良くなった。それでも怪しまれると困るし、痛くもない腹を探られるのはごめんだったので、自分から子爵家の事情に口を挟むことは控えていた。
ただし、自分の体調や体質のことは子爵家に来てすぐ、正直に伝えておいたわ。
アレルギー体質で部屋のホコリや食事で呼吸困難を起こしたり、湿疹で体中が腫れ上がる恐れがあるからだ。
最初にメイドのレナに埃だらけの部屋を掃除してもらったのも、決して自分で掃除をするのが嫌だったからではなく、ダストアレルギーせいだった。
一度綺麗してもらった後は、こまめに自分で掃除をしている。
しかし、与えられたのが日陰で暗い使用人部屋だったことは、私にはむしろ幸いだった。
もし湿気が多くてジメジメするような部屋だったなら話は別だが、この地域はカラッと乾燥しているし、風の通りも良かったので、お日様アレルギー持ちには好都合だからだ。
ちなみにこの埃アレルギーが初めて発症したのは、母が亡くなってまだ間もないというのに、愛人とその娘が王都の屋敷に入り込んで来て少し経ったころだった。
原因は大きなストレスを受けたからでしょう、と主治医のドルドス医師に言われたわ。
しかし発症した当初は原因がわらず、年がら年中顔や首元に赤い発疹が出たり消えたりしていたので、父親や愛人親子、そして婚約者には露骨に嫌な顔をされ、汚いものを見るような目で見られていたわね。
そのために私は自ら進んで王都の屋敷を出て、領地へ向かったのだ。
それ以降、元々私に関心がなかった彼らは、より一層私を空気のような存在として無視するようになった。手紙も誕生日の贈り物も一切届かなかったし、会いにも来なかった。
父親としてはともかく、領主代理としてはどうなんだとは思わないでもなかったが、顔を見ずに済んだことは正直ありがたかった。
そしてそれは今回も同じだった。あの三人プラス元婚約者に会わずに済むことにホッとしていた。
あの顔だけで役立たずのギュスターヴ様にうっとりしながら幸せそうな顔をしているミリアンとカリナ、そして満足げな顔をしている父親をもう見なくて済むことは心底嬉しいわ。
だって、彼がいれば私がいなくなっても大丈夫だと信じている彼らが、あまりにも愚かで滑稽だったので、平静を装うのが大変だったのだもの。
今年は税収入をきちんと国に申告できるのかしら? 農作物の仲買人との契約更新は上手くいくのかしら? 隣りの領地との川の水の分配は?
領民の生活には直接被害が出ないように、その点は家令のマーナスと執事のハリスンが考えてくれると思うけれど。
学園を休むことになってしまい友人達に会えなくなったのは寂しいけれど、すでに卒業に必要な単位は取り終えていたので、私としては何も困ることはない。
母方の従姉妹セリーヌを含む友人達に、事情を説明する手紙を出しておいてとハリスンには頼んでおいたし。今後、彼女達とは母の実家であるマンシーニ子爵家を通してやり取りすることになっている。
マクレミアン伯爵家やギュスターヴとミリアンの情報も、ここにいてもきちんと把握できるでしょう。以前から練っていた将来設計についても何ら支障をきたさないように思えた。
それにしても伯爵令嬢である私に対する子爵夫妻の態度は、とても許されるものではないわ。
父を見下しているせいなのか、それとも父も同意しているからなのかは分からなかったけれど。
正直なことを言えば、別に私は彼らに従う必要はなかった。それにも関わらず大人しく受け入れていたのは、現在置かれている自分の状況がそれほど悪くないと感じているために、あえて逆らわないだけだった。
というのも、半年後に成人成するまでは、どうせ父と愛人家族を追い出すことができないからだ。
それならば、彼らの顔を見なくて済む方がまだいいと思ったのだ。
そして私がロウランド子爵夫妻に言われるままおとなしく従う理由は、もうもう一つあった。
この半月ほどで私はこの屋敷の実情を知ってしまったからだ。そしてそれを見て見ぬふりをすることができないと感じてしまったのだ。
きっとそれは同病相憐れむという感情からきているせいに違いない。それ以外の理由なんて絶対にないわ。ええ。本当に!
ロウランド子爵夫妻は自分の父親達と同類だった。
いや、夫人の方は、彼らはを上回るとんでもない悪女だった。なにせ義理の息子を殺そうとした挙句、無実の使用人を犯人に仕立て上げたのだから。
しかも、夫に子種がないと分かったとたん、彼女は自分が生き延びるために、一命を取り留めた義理の息子を今度は生かさず殺さずの状態にしているのだ。
まあ、その夫も自分の息子が死にかけたというのに、気にもかけないろくでなしだったから、夫婦揃ってクズなものかもしれないけれど。
この際、父達と一緒に処分してしまおうと私は決意したのだ。そのためにこの場と留まり、表面上おとなしく彼らの指示に従いながら、きちんと罰してやろうと固く心に誓ったのだ。
それにしても、そんなロウランド子爵家の実情をどうやって知り得たのかと言えば、そもそもは私のアレルギーと虚弱体質がきっかけだった。
まかないを食べるようになって五日ほど経った頃、屋敷で獲れた野菜と締めたばかりの老いた雌鶏を使った炒め物に、冷たいコーンスープ、そして数種類のパンの入った籠。それらを大きくて頑丈なテーブルの上に並べながら料理長のロバーツさんが私に言った。
「こんな質素な夕食しかお出しできなくて本当に申し訳ありません」
私は慌てて首を横に振りながら、笑顔でこう返したわ。
「いえいえ。これまで食べた料理長の料理は全て美味しかったわ。しかもどれも健康にも良いものばかりで、体調がすっかり戻った気がするわ。今日の夕食も素晴らしいし。こんな素敵なお食事を毎日いただけるなんて幸せだわ」
それは本音だった。
私には元々好き嫌いなどなく、量はそれほど多くは摂れなかったけれど、何でも美味しく頂いていた。
ところがアレルギー体質になってからというもの、口にはできない食べ物ができてしまったのだ。
何が食べられなくなったのかというと、偶然なのだとは思うけれど、なぜか高級な食材ばかりたった。
一般的な魚は平気なのに甲殻類や魚介類は食べられなくなった。林檎や柑橘類は大丈夫なのに苺やメロンはだめ。
ところがこの子爵家のまかないにはアレルギー症状を引き起こす食材が全く使われていなかったので、とてもありがたかったのだ。
しかも、私のためだけに白パンや黒パンを出してくれることに深く感謝していた。
他の使用人達はふすまパンや全粒粉パンを食べる。材料費が安い上に栄養価が高いからだ。しかし、残念ながら私の体質には合わなかったのだ。
「おべっかを言っているわけじゃないのよ。
マクレミアン家の料理長は王宮料理人に匹敵する腕だと言われているけれど、ロバーツさんも彼に引けを取らないと思うわ。高級な食材を使っているわけでもないのに、これだけ美味しい料理がつくれるのだから。
特に私のために考案してくれたオリジナル料理は最高だわ。自分の屋敷に戻っても食べたいので、料理のレシピを教えてもらえませんか?」
料理長は私の言葉に一瞬目を見張ったが、すぐに破顔した。
その後、私は料理長から彼の考え出した質素倹約、かつ美味しい時短料理レシピをたくさん教えてもらった。
そして私も伯爵家秘伝の料理を伝授した。そして新しいレシピを提案したり、二人で意見を出し合ったりするようになった。
その結果その後まかないのメニューが増え、なおかつ美味しくなったと、使用人達の評判もよくなって、みんなとの仲がさらに縮まったのは言うまでもない。
年配の侍女(実はこの子爵家の令息の乳母)が
「坊ちゃまの食がこのごろ進むのよ。少し顔色も良くなった気がするわ」
そうメイド頭のマーサさんに嬉しそうに話しているのを耳にして、やはりこの屋敷には部屋から出られない訳ありご子息がいるのだなと、私はそう確信をしたのだ。
そしてその後、たまに食堂で開かれる宴会に参加するようになると、使用人達との仲がさらに深まって、ついにこの屋敷の秘密を知ることになったのだった。
読んでくださってありがとうございました。
ヒロインは自分の家の使用人の名は呼び捨てにしますが、他家の年上の使用人のことはさん付けで呼びます。ただし、メイドのレナは明らかに年下だったので呼び捨てにしています。さん付けにすると却って恐縮されると思っているからです。
第3章は明日、今日と同じ21時ころに投稿します。
これまでは恥ずかしくて書けなかったのですが、ブックマーク、リアクションマークをいただけると励みになりますので、どうかよろしくお願いします。




