第17章 養子縁組
「つまり私は、フランドル殿下の策略にまんまと嵌められてしまったというわけさ」
伯父が苦笑いをしながらそう言ったので申し訳なくなった。本来なら自分が配慮しなければならなかったのに。
もちろん彼には学費は私が支払うから気にしないでいいとは言っておいた。だから彼が奨学生になるつもりだったということに気付けなかった。
真面目な子だから遠慮するかもしれないと思っていた。最初にきちんと話をしておけばよかったわ。
「伯父様、私の配慮が足りず、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。アシュフォード様は私の養子にしますわ」
私が慌ててそう言うと伯父は、もう養子縁組は済んでしまったから遅いと言った。しかも
「お前が養子縁組を願い出ていたとしても、どうせ国は、というよりも王太子殿下からは許可はおりなかっただろう。
だからこれで良かったのだよ。我が家にもメリットがあったのだから、お前が気にすることはない」
と苦笑いした。
「メリットですか?」
「ああ。今度ね、陞爵されてね、伯爵になることになったのだよ」
「えっ? これまでずっとお断りしてきたのにですか?」
意外な話に私は喫驚したわ。伯父だけでなく伯母や従兄弟達も家柄や爵位も全く気にせず、自分の好きな研究(薬草や薬)をしているのが一番という人達なのに。
「つまり私も親馬鹿だということだよ。我が家もとりあえず高位貴族になっておけば、結婚相手の選択の幅が広がるだろう?」
結婚の選択……伯父には息子と娘が二人ずついるが、結婚していないのは末のセリーナだけだ。
つまり、セリーナに高位貴族の家の令息との縁談があるか、もしくはお付き合いをしているということなのかしら?
これまで私以上に薬草オタクで、薬の研究にしか興味がないのかと思っていたけれど、私が離れているうちに好きな人ができたのかしら。
それなら教えてくれたらよかったのに。
セリーナと私は従姉妹同士というより親友で、何でも話し合える仲だったはずなのに。
「セリーナに好きな人がいたなんて知らなかったわ」
私がぼこう呟くと、伯父は天井を見上げながら、同じくぼそっと呟いた。
「本当に好きな人ができたのなら良かったのだが、アレの思考はよくわからん。今さらだが。
まあ本人がそれを望んでいるなら、親としては協力せざるを得ない」
と意味の分からないことを言った後で、再び私に向き合うとこう言った。
「とにかく、お前が気にすることはない。殿下とは利害が一致しているのだからな」
「でも、肝心のアシュフォード様がよく承諾しましたね。私からの学費援助さえ遠慮していたのに。
やはり貴族の身分に戻りたかったのでしょうか?」
「それは決断する上で大きな理由の一つとなったかもしれん。貴族令嬢と結婚するためにはどうせいつかはどこかの貴族の家と養子縁組しなければならないからな。
だが、もちろんそれだけじゃないとは思う。
彼はずいぶんと困惑し、悩み、遠慮していたのだが、結局最大の目的達成のために承諾したのだろう。
お前を早く補佐できるようになりたいのなら、チンタラしている場合じゃないからな。
『何よりも大事なものがあるのなら、そしてそれを守りたいと思うなら、つまらない遠慮や意地は捨てるべきだ』
殿下にそう言われたのが大きかったのではないかな」
結局私のためにアシュフォード様は伯父の養子になることを受け入れたらしい。
その事実に嬉しいような申し訳ないような気持ちになった。しかしそれと同時に、なぜか気持ちがざわついた。
四つも年下でまだまだ子供だと思っていなのに、すでに将来の結婚について考えているかしら? そのことに驚いたせいなのか。
それとも、いつかは彼も、年相応のご令嬢の手を取るのだという当たり前の現実。それを改めて思い知らされたせいなのか、私には分からなかった。
そして伯父の言葉の真意を色々と理解したのは、私が女伯爵になって一年後のことだった。
アシュフォード様が王都のマクレミアン伯爵邸にやって来て、思いがけないことを告げたからだった。
次章は21時に投稿します。それで完結となります。




