第16章 王太子との面談
「話があるから王都の屋敷に来るように」
そんなマンシーニ子爵家から手紙が届いたのは、王城に出向いた日から十日ほど経ったころだった。
そしてそこで、伯父が自分の代わりに誰を養子にしたのかを聞かされたのだ。
「アシュフォード様を養子にされたのですか? 伯父様が? なぜ? 彼にお会いしたことありましたか?」
続けざまに疑問文ばかりを連ねた質問をした私に、伯父は笑いを噛み殺していた。
「そんなに意外かね?
優秀な若者を援助目的で養子にするなんて貴族ならよくあることだろう?」
伯父にも疑問形で返されてしまった。しかし彼とは何の接点もないはずだ。不思議に思うのは当たり前だと思う。
すると、伯父はあっさりと手の内を明かしてくれた。フランドル殿下から依頼されたのがきっかけだったらしい。
「決して王太子殿下に強制されたわけではないよ。あの方の話を聞いて、たしかに見込みのある少年だと思ったから、彼のことを調べてみたのだよ。
そうしたら想像していた以上に優秀で、しかも性格がよくて、このまま平民に落としてしまうには勿体ない若者だと思った。
実際に殿下と共に面談してその思いを強くした。だから彼を養子にすると決めたのだ。
もちろん本人の承諾も得ているよ」
「殿下もこちらにいらして面談されたのですか? あのお忙しい方が?」
「ああ。お前は本当にあの方に大切にされているのだね。ありがたくて心の中で涙が出たよ。
お前がもう少し丈夫で、あんな男の娘でなかったら、私がお前を養女にしてでも、あの方の婚約者に推薦したのだが」
「伯父様、何をおっしゃっているのですか?」
「子爵家のくせにと思っているのか? 我が家は何世代も前から陞爵の話をお断りしているくらい、王家からは一目置かれている家なのだぞ。
受けていたら今ごろ侯爵くらいにはなっていただろうな。だが、貴族のしがらみを嫌って下位貴族に甘んじているだけだぞ。
過去の偉大な宮廷医師も薬師も、そのほとんどが我が一門の人間だしな」
マンシーニ子爵家が王家から一目置かれている実力のある家だということは分かっている。
そもそもそれを知っていたからこそ、今回の件では伯父にか協力を求めたのだから。
私が疑問に感じたのは別のこと。アシュフォード様の養子の話で、なぜ私のことをフランドル殿下が大切にしていると思ったのか?ということなのだ。
すると伯父は、どうして彼を養子にすると決めたのか、その経緯を語ってくれた。
フランドル殿下から養子の依頼を受けた伯父は、私のことで話があるから訪ねて欲しいという手紙を、従者にロウランド家へ届けさせたそうだ。
マクレミアン伯爵家の主治医ドルドス医師を伴って。
すると、すでに大分健康状態に戻っていたアシュフォード様は、その場ですぐに応じたのだそうだ。
マンシーニ子爵家に着いた翌日、フランドル殿下と顔を合わせたアシュフォード様は、喫驚し、緊張して体を硬直させたという。当然よね。
しかし、今後はどうするつもりなのだと殿下に訊ねられると、彼は迷うことなく即答したらしい。
「我が家の使用人は一人残らずマクレミアン伯爵家に雇用してもらうことになりました。しかも家族全員移住できるように手配してくださいました。
マクレミアン伯爵令嬢、いいえ、伯爵様には感謝しても感謝し切れません。
私自身も寝たきり状態だったのに、このように自力で歩けるようになれたのは、伯爵様のおかげです。
私は一生をかけてそのご恩をお返ししていきたいと思っています」
しかし、殿下はその返答にさも呆れたような顔をした後にこう訊ねたという。
「ほう。恩を返すとは具体的に何をするのだね? 使用人として下働きすることかな?」
「この一年はそのつもりです。しかし、情けないことですが、今の自分には大したお役に立てることはありません。
ですから来年は国の特待生の資格を取った上で学園を受験しようと思います。
そして多くのことを学んで力をつけてから、伯爵様の元で働かせていただこうと考えています」
「それは立派な考えだね。だけどずいぶんと悠長な話だ。いつ彼女の役に立てるようになるか分からないね。
君は知らないようだが、特待生は授業の合間や放課後に教師の小間使いのような雑務を熟さないといけないのだよ。まるきっり無償というわけじゃない。
なおかつ、絶えずある程度の上位の成績を残さないと退学になるんだ。だからかなりきつい学生生活を送ることになる。
屈強な人間でもなかなか厳しいと聞いているのに、まだ完全に健康体になったわけでもない君に、そんな生活ができるのかな?
たとえあと一年リハビリをした後だったとしても」
そう言われてアシュフォード様はさすがに動揺して震えていたらしいが、すぐに殿下の目をまっすぐに見据えて
「正直そのお話は知りませんでした。調査不足でお恥ずかしい限りです。それでも私は必ずやり抜いてみせます。
毒を飲んだとき、そしてその後味わった苦しみを思い出せば大したことではありません。
私を絶望から救ってくれたあの方の役に立てる男になれるのなら、どんなことでも乗り切ってみせます」
そう言い切ったそうだ。そしてそれを聞いた伯父様は、感激して思わずこう言ってしまったらしい。
「殿下、ご心配には及びません。私がアシュフォード君を養子に迎い入れて、ここから通わせますから。
そしてきちんと健康管理をして、勉強に集中させて、シャーリーの補佐ができる優秀な人間に育てて見せますから」
と。つまりそれって……
次章の投稿は明日7時ころになります。




