第14章 特別な存在
25日7時に予約投稿したこの章を、後になって話の流れが分かりにくいことに気付き、改稿しました。新たに付け加えた文章もあります。
そして文章量が少し多めだったので、後半部分を第15章として今夜16章として投稿し直します。
すでに改稿前の文章を読んでくださった方も多いと思うので、15 章の後に続けて16章を投稿する予定です。
本当に申し訳ありません。
最終的に、父と愛人カリナは投獄されるのを免れた。
しかし、マクレミアン伯爵領並びに王都の屋敷に一歩でも足を踏み入れ、私に接触しようとしたら、鞭打ち刑に処された上に投獄すると言い渡されていた。
しかもそれは三人のうち誰か一人でも破ったら即実行されるのだ。三人一緒に。
それは『ドラノミン』の秘密だけでなく、私を守るためにフランドル殿下がそう命じてくれたことなのだと分かっていた。
それでも私はこう言ってやったわ。
「殿下、今からでも遅くはありません。どうか、マクレミアン伯爵領を国あるいは王家直轄にしてください。その方が殿下にも都合がいいのではないですか?
どうせアレを管理しているのは我がマクレミアン家ではなくて国の薬剤省なのですから」
「マクレミアン伯爵領は何もアレだけを栽培しているわけじゃないだろう?」
「殿下、私が全て知っていることを分かっているくせに、よくそんなことが言えますね。
いつの間にかアレ以外にも毒を持つ植物がどんどん増えているではないですか!
私、『死の商人』ならぬ『死の農園主』になんてなりたくないのですが。
しかも、私が王都へ行った後、その畑を守る魔鳥や魔犬の育成まで始めていますよね?
使用人には口止めしたようですが、私に秘密にするはずがないじゃないですか! バレバレですよ」
「そこなんだよね。
マクレミアン伯爵家の使用人の君への忠誠心の高さは他に類を見ない。だからこそあの土地の管理は君にして欲しいのだよ。
危険なものを見ないふりをして放置したら、いざそれを悪党どもに使われたときに対処できない。
だから目を逸らさず、むしろ積極的にそれらの対象物を研究し、中身を把握しておかなければいけないのだ。
しかし、国の直轄下に置いても、不届き者は必ず現れるから安心できないのだ」
「ですから、なぜそんな危険で重要な任務を私が請け負わなければならないのですか?
私は母の実家のマンシーニ子爵家の養女にしてもらえることになっていました。
それなのに、別の人間を養子に迎えることになったからと断られてしまったのは、もしかして殿下の差し金だったのですか?」
「嫌だなぁ、差し金だなんて。まるで私が冷酷非道な策士みたいじゃないか」
殿下はいつもの嘘くさい笑顔でそう言ったが、まさしく策士そのものじゃないか! そう、私は思ったわ。
そもそも世のため、国のためといかにも大層なことを言っているけれど、毒草集めは単なる殿下の趣味でしょ。
だって、『ドラノミン』の根っこの一部にわずかな毒が含まれていると分かったとき、殿下は恍惚としていたではないですか! あの日あの場所に私も居たのですよ!
「この世の中、生あるものに毒を含まぬものなんてありはしない。見かけがどんなに美しく清らかであろうと、益があると思われていようと、どこかに毒、つまり悪が存在するのだ」
そう呟いたのをちゃんと聞いていましたよ。まあ、殿下の言ったことは真理だとは思うけれど、自分の趣味のために人を巻き添えにするのは止めて欲しいわ。私はそう思った。
すると、私の不満顔を見た殿下が、珍しく裏のない笑顔でクスッと笑った。
「君ってさ、普段人前では完璧なアルカイックスマイルを浮かべているのに、私の前では時々素の顔を見せるよね。
それが昔から嬉しかった。私が君の特別みたいな気がして。
でも、兄が私を暗殺しようとしていた確固たる証拠が見つかったとき、私の望みは叶わないと分かってしまった。こんな私でもずいぶんと悩んだのだよ。
そしてこれは苦しみ抜いた末に出した結論なんだ。
君をマクレミアン伯爵家の後継者にしたのは、決して私や国のためだけではないのだよ。
君のために私はかなり無理をしたのだ。だから少しは感謝して欲しいね」
感謝?
文句を言おうとして殿下の顔を見て、その憂いをお帯びた表情にハッと息を呑んだ。
そしてその直後、超多忙王太子殿下は側近に引き摺られるようにしてその場から消えてしまった。
一人取り残された私は、殿下が最後に見せた憂いをお帯びた表情に心奪われていた。
いつものように少し捻くれたような屈折した物言いの中に、何か切なさを含んでいると感じていたが、それは思い過ごしなどではなかったのだろう。
「私が君の特別みたいな気がして嬉しかった」
殿下はそう言った。それは勘違いではなく本当のことですよ。貴方は私にとって特別な人でした。
いえ、そしてそれはこれからも決して変わることはないのです。たとえこの先、側に並び立つことができなくても。
そして殿下の切ないその思いを私が知るのは、その後、伯父の元を訪問したときのことだった。
しかし、その前に、なぜ私がマクレミアン伯爵家を継ぐことになったのか、その経緯について語ろうと思う。
次章は今夜21時の予定です。




