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06.迎え

 季節が夏から秋に移り、もう少しで冬の気配を感じる頃。


 私の前に再び現れた銀髪の騎士。

 ただし、その格好は冒険者のもの。


「……すまないが、ご同行願いたい」

「い、や!」


 そっぽを向く私を前に、エルンスト・リッターは途方に暮れている。


 銀髪碧眼の美形と白髪(はくはつ)の美少女。

 絵面的には、神々しい。


 そんな私たちを見て、ギルド長は溜め息をつく。


「エルンスト。上手く誤魔化して報告しろと言っただろ」

「その筈だったのだが」


「役立たず。能無し。木偶の坊。あんぽんたん」

「……舌打ちもだが、言葉遣いも令嬢としてするものではない」

「あっ、舌打ちは内緒!」


「リーリエ、舌打ちはしないと約束したはず。舌打ち1回で、デコピン1回だ」

「いったーい!」


 様々な調合を繊細な所作で行うグリゼルダの指先。

 そのデコピンの威力は意外と強力だ。


 お前のせいで、という恨みを込めて、私はエルンストを睨みつける。


 自分のせいなのか? という戸惑いを一瞬顔にのせ、エルンストが話を続ける。


「魔力喰らいを倒したのがリーリエということは伏せていた。だが、黒い森に白い精霊が出る、という話を他の者が耳にして」


 おや? という顔でギルド長が私を見る。


「白い精霊、もしくは白い妖精に助けられたという冒険者たちからの話が集まり、庇いきれなくなった」


 私は舌打ちのかわりに、ぎりぃっ、と歯を食いしばる。


「……口止めしたのに。次からは口封じしてやるわ」 

「人を助ける意味がなくなるだろ」

「そこで、もう助けない、とならないのがリーリエの美点か」


「……と、いうわけで、ご同行願いたい」

「い、や!!」



 嫌がる私を無理矢理連行するわけにも行かず。

 エルンストはギルドに滞在して、毎日、黒い森の庵を訪れる。


「また来たの、おじさん」

「おじさんはではない。私は、まだ20代だ」

「嫌がらせよ」


 私は無視することに決めて、薬草畑の世話に専念する。


生命の水(アクア・ウィータ)


 魔法を受けて、きらきらと輝く薬草たち。

 その薬草を眺めながら、エルンストが問うてくる。


「黒い森の魔女殿は、君を拾ったと言っていたが」

「そうよ。誘拐じゃない」

「……どうしたら、来てくれる?」

「絶対、行かない」

「そういうわけにはいかない。このままでは、黒い森の魔女殿の立場も悪くなる」

「卑怯者」


 私が放つ棘に、エルンストが一瞬、言葉を詰まらせる。


「……君は身体虚弱で、今の保護者の元、黒い森での療養が必要だと報告している。ただ、このままカナーリエン子爵に会わせないとなると、黒い森の魔女殿が、レルヒェ嬢誘拐で訴えられる可能性がある」


「私はリーリエよ!」

「興奮しないでくれ。体に障る」


 どうどう、と落ち着かせるような手の動き。

 じゃじゃ馬扱いが癪に障る。


「カナーリエン子爵が、ショックから寝込んでいる。このままだと領内の運営にも支障が出る。後継の養子の教育は、まだ終わっていない」

「幽閉していた娘が消えたからといって、何がショックなの」


 一度だって、会いに来たことなんてないくせに。


「そういえば、どうやって邸を抜け出したんだ」

「5歳にもなれば、窓の鍵くらい開けられるわよ」

「……やはり、君は」

「私はリーリエよ!」

 

「騎士殿。そろそろ、お引き取り願おう」


 庵から出てきた黒い森の魔女に追い払われ、銀髪の騎士は帰って行った。



 銀髪の騎士が庵を訪れなくなって、とうとう諦めたのかと思いきや。


 久々に現れたエルンストは、1人の若い男に付き従っていた。


 若い男は、身なりから一目で貴族とわかる。

 大勢の護衛を連れてくるのは憚られたのか、連れている私兵は1人で、代わりにギルド長がついている。


「僕はグート・カナーリエン。君を迎えに来た」


 琥珀色の髪に夜の青のような目を持つ男。

 名乗る前から私を凝視したまま。


「……驚いたよ。色彩は違うが、母上にそっくりだね」


 私はグリゼルダの陰にぱっと隠れる。


「黒い森の魔女殿。今まで、私の義妹を保護してくれたこと感謝する。礼金なら用意がある。大人しく引き渡すように」


 若いくせに、グリゼルダ相手に上から目線。

 平民は貴族に従って当然という態度。


 黒い森の庵まで押しかけたグートに、私は冷たく言い放つ。


「絶対、行かない」


 私の頑なな様子に、グートが首を傾げる。


「……思っていたよりも、元気そうだね?」

「それは、今日はたまたま調子が良いのでは」

「ならば、今すぐ領地へ向かうべきだね」


 エルンストのフォローが藪蛇になる。


「折角ご足労頂いたが、リーリエは私の娘。レルヒェ嬢とやらは、他を当たって貰おうか」


 グリゼルダの凛とした声が響く。


「なっ!? 何を言う、これほど容姿が似ていて白髪(はくはつ)の娘なんて、他にいるわけがないだろう!」


 よもや平民が逆らうなど思わなかったらしい。


「リーリエは私の娘。他を当たって貰おう」


 繰り返される言葉に、グートが信じられないものを見る目でグリゼルダを見る。


 ここで、私は第2の武器を使う。

 佳人薄命を体現したような、儚げな印象の美少女。

 私はグリゼルダに寄りかかるように俯いて、声を震わせる。


「……今日は()()()()調子が良かったのに。……目眩がする」


 さらさらの長い髪が日焼けのない白い肌にかかり、顔色は青白く見えているはず。

 ロリコンでなくても、大体の男はこの容姿に騙されてくれる。


 案の定、グート・カナーリエンはそれ以上粘ることなく、森の庵から引き上げていった。

お読みいただき、ありがとうございました!

明日以降は毎日、【夜20時20分】に更新します。

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