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05.母と娘

「グリゼルダ、早かったのね!」

「商談に縁談がついてきた。早々に切り上げるべきだろう?」

 

 グリゼルダは、30歳を超えたとは思えない美貌と曲線美を誇る。

 商談に見合い話を持ち込まれるのは、今に始まったことではなかった。


「グリゼルダ、おうちに帰ろう」

「元よりそのつもりだ。リーリエは連れて帰る」

「それは、許可できない」


 帰ろうとする私たちを制止したのは、ギルド長ではなくエルンスト。

グリゼルダの緑の目と、エルンストの青い目が静かに対峙する。


「お嬢さんは、捜索依頼が出ている子爵令嬢の可能性が高い。このまま、私と来て貰う」

「リーリエは、私の娘。無理矢理連れていくのならば、騎士殿は誘拐犯となる」

「誘拐というならば、黒い森の魔女殿こそ」

「違う!!」


 エルンストとグリゼルダの会話に、私は割り込む。


「グリゼルダは私を助けてくれたの! 誘拐じゃない! 何も知らないくせに私のお母さんを悪く言わないで!!」


 ふぅふぅと荒い息で興奮する私に、エルンストが息を呑む。ギルド長も私の豹変に目を見開く。


 水を打ったような時間は一瞬。

 グリゼルダの体温にふわっと包まれる。

 

「リーリエ。余り興奮してはいけない。お熱が出たらどうする」

 

 私を優しく抱きしめ、頭を撫でながら告げられるグリゼルダの言葉。

 エルンストとギルド長、ついでにスボルが困惑する。


「「「お、お熱……?」」」

「こう見えて、リーリエは体が弱い。私の薬でだいぶ改善したが、身体強化魔法が欠かせない」


 3人が、信じられないようなものを見る目で私を見てくる。

 失礼すぎる。でも、本当のこと。


 拾われた当時、私は栄養不足の影響ですぐに熱を出した。

 体だって標準よりも小さくて、体力がなかった。

 それを補うかのように魔力は人並み以上に強かった。


 加えて、私の肌は日光に弱くて、身体強化魔法で自衛しないと、すぐに日焼けが火傷になる。


「森の庵で療養させる。()()()での保護者は、私だ」


 何かを言おうとするエルンストを制して、ギルド長が口を開く。


「この件は、一旦、ギルド預かりにさせてくれ」

 


 私とグリゼルダは、エルンストとギルド長も同行して黒い森の庵に帰ってきた。


 魔力喰らい相手に無茶な戦い方(チキンレース)をした上に、ギルドで興奮状態になった私は熱を出してベッドの上。

 今は、夢の中。


「本当に、熱が出るとは」

「母親の勘を舐めないことだ」


「いつ、カナーリエン領に連れて行ける?」

「騎士殿の正義は、何処にある?」

「どういう意味だ」


「その子爵令嬢とやらの受けた扱いを知っていてなお、連れて行こうとするのか?」

「それは……」


「エルンスト、この件はギルド預かりにと言っただろ。上には適当に誤魔化して報告しておいてくれ」

「だが……」

「この子の様子を見ただろ。今だって、グリゼルダの手を握って離さないんだ」


「リーリエは、お熱の時には私の手を離さない。拾った時から、ずっとだ」

「……お嬢さんは、普通の娘ではないな。何というか、危うさを感じる」

「どうであれ、私の可愛い娘に変わりない」



「そろそろ、お引き取り願おう」


 夢の中の私の耳に、グリゼルダの凛とした声と遠ざかる足音が聞こえた。



 私が守った、マンドラゴラとアンブロシアの薬草畑。


 そこには元々、グリゼルダが魔石を核にして作った従魔のゴーレムがいた。

 だけど、従魔(ゴーレム)は魔石が内包している魔力が尽きたら消える。魔力が尽きた魔石も霧のように消える。


 グリゼルダは、消えたゴーレムの代わりを作るための魔石を調達しに出かけていた。

 結果、いつもの商人に見切りをつけて帰ってきた。

 今後は、東部地方の別の魔石専門商から調達するらしい。


 ちなみに、グリゼルダの実家は、貴族相手に高価な布地やスパイス、ワインなどの商売をする、南部地方のわりと大きな商会。

 研究に理解を示さない家族に反発して、私を拾うよりも前に出奔している。


 今回の従魔は、今までのゴーレムをより強化したもの。


 核には、この前の蜘蛛の魔物(アラネア)モドキの魔石と、私が拾い損ねてギルド預かりになっていたマンティコラの魔石を使った。

 1体だったのが2体になり、今は彼らが、薬草畑でマンドラゴラとアンブロシアを守っている。


「魔力喰らいと単身で渡り合うとは、無茶をする」


 グリゼルダに軽く咎められる。


「相変わらず、リーリエは、自分の命に頓着していない」


 そう。

 私の行動基準は自分の生死ではなく、後悔するか、しないか。

 だけど、いつ死んでもいい、とは少し違う。


 私は後悔しない方を選んで、その中でやりたいように生きている。

 2度目といえる生を、全力で生きている。


 寝覚めが悪いから魔物に襲われている人は助けるし、誰かの迷惑になるくらいなら1人で魔物と対峙する。

 魔法が楽しいから使いまくっているし、身体強化魔法をかけて森の中を駆け回るのは気持ちがいい。


 そして何よりも、グリゼルダが大好きだから一緒にいる。


 それなのに、たまに()()生は、病室のベッドの上で見ていた夢の続きのような感覚に襲われる。


 それはきっと、本来の心が壊れたせい。

 私はこの世界の魂に、なりきれていないのかもしれない。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初日のスタートダッシュ公開(1〜5話)はここまでとなります。明日からは、毎日1話ずつ更新していきます。明日(第6話)は手動調整のため【夜20時頃】の公開予定です。※明後日(第7話)以降は、毎日【夜20時20分】に自動で最新話が更新されます!

「面白い!」「リーリエを応援したい!」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、ページ下部から【ブックマーク登録】【☆評価(星)】をして応援していただけると、とても励みになります!

本作は既に完結まで完成しておりますので、このまま皆さまとフィナーレまで駆け抜けていきたいと思います。

それでは、明日の第6話『迎え』もよろしくお願いいたします! 【夜20時頃】に、お待ちしております。

※いただいた感想へのお返事はシステム上お約束できませんが、すべて大切に読ませていただいています!


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