04.探し人
「で、お嬢さんは、何者だろうか?」
目の前の若い男。
一見、笑顔だけど目が笑っていない。
冒険者のような格好だけど、その佇まいは騎士のよう。
逃げる隙が見つからない。
「知らないおじさんとは、口をきいちゃだめ、って言われてるの」
私は15歳。
この男が何歳かは知らないけど、「おじさん」枠と一括りにする。
「おっ……!?」
男が、明らかに動揺した。
まぁ、20代だろうし。
襟足で1本に結ばれた長い銀髪に、神秘的な青い目。
美形といえる顔立ち。私の容姿とは、いい勝負。
「……私は、まだ20代だ。おじさんではない」
「私、おうちに帰らないと。じゃあね、おじさん」
私はしれっと、その場から逃げようと試みる。
だけど、男は本来の目的を思い出したようで、真っすぐにこちらを見てくる。
「身分証を見せてくれないか。私は、人を探している」
「こんな森の奥で? 木の精でも、探してるの?」
「詳細は言えない。人違いなら、君について詮索しない」
私は溜め息をついて、冒険者登録証を見せる。
グリゼルダにいい顔をしたいギルド長が用意してくれたもの。
リーリエはグリゼルダが付けてくれた名前。
誕生日はグリゼルダに拾われた日。
見せたところで、私の素性がバレることはない。
「これでいい?」
「……君は、何故、こんな森の奥に?」
「詮索しないんじゃなかったの?」
その青い目が、私を射抜くように見つめてくる。
「どうやら君は、私の探し人のようだ」
男が一歩踏み出す。
相変わらず、逃げる隙が見つからない。
「一緒に来て貰おうか」
「……チッ」
男は、虚を突かれたような顔をする。
「……仮にも子爵令嬢が、舌打ちをするものではない」
ざぁっと私の血の気が一気に引く。
この男。
確実に私を知っている。
(――嫌だ。一緒には行きたくない)
私の残りの魔力が揺らぐ。
「……待て! 魔力を暴走させるな!」
「リーリエ!」
2人の男の声が、同時に響いた。
◇
私は、再び冒険者ギルドにいる。
私の名を叫んであの場に乗り込んできたのは、ギルド長。
ドラゴン討伐の目処が立つや、私を探しに来てくれた。
日頃は保護者面されて鬱陶しいけど、今回はそのおかげで助かった。
「私が探しているのは、カナーリエン子爵令嬢だ」
私とギルド長に、銀髪の男が説明する。
男は、エルンスト・リッターと名乗った。
この東部地方を治めるアインホルン公爵直属の騎士。
「カナーリエン子爵家の後継となった養子が、邸で療養しているはずの令嬢が消えていることに気がついたんだ」
療養? 幽閉の間違いでしょ。
「世話係のメイドたちを詰問したところ、居なくなったのは数年も前の話らしい」
数年? もう10年経ちましたけど。
「令嬢が居なくなってからは、令嬢に割り当てられていた予算は、メイドたちが着服していた」
元々、服も食事も、予算があるなんて思えないものだったわよ。
「とんでもない醜聞だ。とても公に捜査はできない」
それで、冒険者の格好をしていたの。
「当初は、メイドたちが令嬢を害したのかと調べた。それについては、全員が否定している」
それは真実。私は、生きている。
「そこで、最近、人身売買の件があったこの森を調べていた」
あいつらは、恐らく通りすがり。この森に拠点があるとは思えない。
それなのに、わざわざ調べに来てドラゴンや蜘蛛の魔物モドキに襲われるなんて、この男も運がない。
いや、私に出会ったんだから、この男は幸運の持ち主かもしれない。
「君は、カナーリエン子爵家のレルヒェ嬢だろう」
「私は、リーリエ。レルヒェなんて知らない」
そんな名前で呼ばれたことなど、一度もない。
「令嬢の年齢は15。白髪で、目は水色か灰色。君の誕生日は、令嬢が消えた頃の日付」
「それだけで? っていうか、目の色の情報が雑じゃない?」
あの人たちは、私の顔なんて碌に見なかった。
目の色なんて、うろ覚えで当たり前。
「参考に、令嬢の母君の絵姿を確認している。髪や目の色彩は違うが、君によく似ていた」
私を産むのと引き換えに死んだ母親。
父親は、妻の命を奪って生まれてきた私を赦せず、幽閉した。
「……私のお母さんは、グリゼルダだから」
私たちの間に、沈黙が落ちる。
そこに、ノックの音がして扉が開かれる。
入ってきたのは、前回と同じくギルド長の部下の青年。
名はスボルディナートゥス。
長いので、スボルと呼ばれている。
くすんだ緑がかった茶色の前髪は長くて、猫背。
スボルは、冒険者ギルド職員の中で最年少。
私よりは年上だけど、まだ10代。
加えて、荒くれた気性が多い中では大人しい質をしていて、よく雑用や受付をしている。
このギルドに、受付嬢という贅沢品は存在しない。
スボルと一緒に入ってきた鮮やかな赤髪の美女の声が、沈黙を破る。
「リーリエを、返してもらおうか」
「グリゼルダ!」
「先生か、お母さんと呼べ」
私は椅子から勢いよく立つと、グリゼルダへと駆け寄ってぎゅっと抱きつく。
豊満な胸の感触に安心する。
やっぱり、私のお母さんはグリゼルダ。
「フォアムント。リーリエが世話になった」
ギルド長はグリゼルダに声をかけられ、急に背筋を伸ばして、しゃんとする。
「コホン。リーリエは、私の娘も同然。礼には及びません。……今は、探し人の捜査に協力しておりまして」
「貴女が、黒い森の魔女か。そして、このお嬢さんの、養い親」
エルンストの鋭い視線にも、お母さんは動じない。
「いかにも」
そこで、2人の視線が交差して火花が散ったように見えた。




