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03.遭遇再び

「また来たの、おじさん」

「おじさんはやめろ。ギルド長か、フォアムントさん、もしくはお父さんと呼べ」

「絶対、呼ばない」


 あれ以来、ちょくちょくギルド長は訪ねてくる。

 もちろん、目当てはグリゼルダ。

 私は無視することに決めて、薬草畑の世話に専念する。


 グリゼルダが創薬に集中できるように、薬草畑の管理は私の仕事。

 これは、私が勝手に決めたこと。

 せめてもの恩返し。


生命の水(アクア・ウィータ)


「相変わらず、よくわからん魔法の使い方をするな。そんな魔法、どこで覚えてくるんだ」


 グリゼルダは研究のため珍しい書物をたくさん持っている。その中には魔法書もあった。

「先生と呼べ」と言う通り、グリゼルダは魔法や製薬など、いろいろな事を私に教えてくれている。


「あ、グリゼルダなら、いないから」

「……先に言え」


 ――……ッ!

 遠くから微かにした不穏な音。


 ギルド長の顔が険しくなる。


「……どうしたの?」

「……静かにしていろ」


 ギルド長が黒い森の彼方に、鋭い視線を送っている。

 つられて私も、同じ方向に目を凝らす。


 ――グアオォウッ……


 さらに不穏な音が響き、黒い影が森から飛び立つ。

 翼と長い尾を持つそれは、遠目にも大きく、黒い森の上空を旋回している。


「ドラゴンだと!? ギルドに戻る! お前も来い!」

「勝手に戻って! あっちには貴重な薬草があるの!」


 掴まれた腕を振り払って、私は走り出す。


 背後で「馬鹿野郎!」と怒鳴る声がしたけど、私は構わず森の奥へと走り続けた。



 私は急いで、森の奥にある薬草畑に向かう。


 庵の前の薬草畑と違って、あっちには貴重なマンドラゴラとアンブロシアが植わっている。


 グリゼルダが大切に育ててきたもの。

 ドラゴン相手でも、失うわけにはいかなかった。


(ドラゴンがここを通るとは限らない。だけど、備えておかないと……!)


 私は防御魔法を薬草畑の周囲に展開しながら、身体強化魔法で視力をあげる。


(ドラゴンはどこ?) 


 さっき、遠目に見えたドラコンの姿。

 あれはきっと、グリーンドラゴン。毒を吐く翼竜。


 ギルド長は、ギルドに戻って、詰所の騎士隊と連携して討伐するはず。

 魔法使いが風魔法で地面に引き摺り下ろせば、あとは毒に気をつけて、騎士たちのタコ殴りでどうにかできる。

 

(どこで暴れているの?)


 私は、今度は身体強化魔法で聴力をあげ、戦いの音を拾おうとする。ドラゴンにばかり気を取られ、周囲への警戒が疎かになる。

 魔物の気配を近くに感じて、ばっと振り向く。

 

「キッショ!!」 


 思わず、前世の口の悪さが飛び出した。


 目にしたのは、巨大な毒蜘蛛。

 私よりも大きな体に、多数の脚。


 その背中からは、女の上半身が生えている。

 しかも、私よりも立派なものをお持ちのようだ。


(魔物のくせに、生意気なっ!)


 蜘蛛の魔物(アラネア)は、通常、上半身が女、下半身が蜘蛛。

 こいつは蜘蛛の魔物(アラネア)モドキ。


(どっちが本体なの?)


 私を見下ろしてじっと捉えているのは、蜘蛛の頭部につく複数の目。


(――こっちか)


 背中を走るぞわりとした感覚に舌打ちしたくなるのをこらえ、先手を取って水の斬撃を放つ。


《アクア》


 当たった手応えはあったのに。

 私の魔法を受けたはずの魔物は、傷ひとつない。


(成程、こいつは魔力喰らいか)


 名前の通り魔法を喰らうってこと。

 今度はこらえることなく舌打ちが出た。


 尻の先端から出される糸に捕まって毒をいれられたらアウト。多数の気持ち悪い脚先には鋭い爪。

 私は身体強化魔法を重ねて距離をとる。


 ここでは戦いたくない。

 マンドラゴラとアンブロシアを傷つけてしまう。


 かといって、既にドラゴンとの戦闘が行われているだろう所へ逃げるのは迷惑千万。

 私はさらに森の奥へと、身を翻した。


 途中、何度か誘うように水魔法を撃つ。


 蜘蛛の魔物(アラネア)モドキは、しっかりついてきている。

 薬草畑から充分に距離を取った所で、私は魔物と向き合う。

 今の私に逃げるという選択肢はない。

 頭の中で戦いのゴングが鳴り響く。


《アビッスス》


 身体強化魔法をかけていても、私が近接攻撃で蜘蛛の魔物(アラネア)モドキと渡り合うのは自殺行為。

 取り敢えず、足止めを狙う。

 マンティコラと違って、こいつには翼がない。


 ずぶずぶと、その巨体が沈み始める。

 機動力を奪われた蜘蛛の魔物(アラネア)モドキの尻先から、糸が勢いよく吐き出される。


 強靭な糸が巻き付いたのは私、ではなく周囲の木。


(逃げ出すつもり?)


 すかさず私の風魔法で、周囲の木々を切り倒す。

 こいつは魔力喰らいだから、底なし沼の足止めも、いつまでもつか。


《アクア》


 水魔法で作った巨大な水球が、蜘蛛の魔物(アラネア)モドキを包みこむ。

 

「たっぷり、私の魔力を喰らいなさい!」


 風船もタイヤも空気を入れ過ぎれば、いずれ破裂する。

 こいつだって、それは変わらないはず。


(さあ、チキンレースよ) 


 かけるそばから吸収される、魔法の水球。

 私は絶え間なく猛スピードで水魔法を重ねていく。


(逃がさないわ)


 ぼこり、と毒蜘蛛の表皮が盛り上がったのが、水球越しに見えた。


 それはあちこちに現れ始め、元の形がどんどん分からなくなっていく。

 ぼこぼこと肉が盛り上がり、びっしりと毛が生えた表皮のあちこちが裂けていく。

 歪で醜い塊になった成れの果て。


 勝者は私。


 蜘蛛の魔物(アラネア)モドキは霧と化して消え、あとには魔石が残された。


 はぁー、と膝に手をついて息をつく。疲れた。

 ドラゴンよりはマシだろうけど。

 魔力喰らいには、それなりに魔力を持っていかれる。

 1人で殺り合う相手じゃないわ、こいつ。


(あ、魔石持って帰ろう。そういえば、マンティコラの魔石はどうしたっけ?)


「お見事だ、お嬢さん」


 若い男の声。


 油断した!

 全く気配を感じなかった。

 すぐ後ろから聞こえた声に、ばっと振り向く。


「で、お嬢さんは、何者だろうか?」


 あ、これ前にもあったやつ。

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