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46.相談

「黒い森の庵へ帰るわ」

「そろそろ、そう言うと思っていたよ。ただ、年が変わる前にはもう一度帰って来てくれるかい」

「……そうだな。その時には黒い森の魔女殿も一緒に」


 私を引き留めなかったグートとパパ。


 グートは婚姻当初に交わした約束を、パパもアインホルン公爵に誓った言葉を守っている。


 結局、私はグートに告白しないまま。



 黒い森の冒険者ギルド。

 男たちの話し声、武器や防具の擦れる音の中、受付カウンターの整理をしている猫背。


「ねぇ、スボルはフロイに告白したの?」


 ばさぁっ、と床に散らばる討伐依頼書。

 手に持っていた紙の束を盛大に落とし、スボルが固まる。

 私は大真面目。


「ねえってば」

「……………………」


 スボルが貝になった。


 全ての音が消えたギルド内を振り返り、灰眼が狙いを定めたのはいつもの冒険者。


「ねぇ、貴方は何て告白したの?」

「は、はは。何言ってんだぁ? 浮気されて乱心したかぁ? ……ぐっ」


 笑って誤魔化そうとした男が床に沈む。


「じゃあ、次は――」

「「「……うわああぁっ!」」」


 男を沈めて視線を動かすと、ギルド内にいた冒険者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。


 ――相談相手がいなくなってしまった。


 冒険者ギルドを出て、黒い森の庵に足を向ける。

 

(お母さんなら、絶対に相談に乗ってくれる……)

 それは、わかっている。


(だけど……恥ずかしい) 


 そこで、ぴこん! と閃く。


 くるりと向きを変えて、再び冒険者ギルドの扉を開く。

 スボルがぎょっとした顔をするけど、無視してお願いする。


「魔力通話装置、貸してくれる?」

「……ギルド長室だから、勝手には」


「なんだ、どうした?」


 タイミング良くフォアムントさんが出先から戻ってくる。

 ギルド内を見て首を傾げる、無精髭。


「……なんだ? 今日はやけにすっきりしているな……」


「フォアムントさん。お母さんには、なんて告白したの?」

「こ!?」

「あと、魔力通話装置貸してほしいの」

「あ、ああ。それなら――」


 フォアムントさんについて入る、ギルド長室。


「ほら、使っていいぞ」

「その前に、告白の仕方を教えてくれる?」

「なんなんだ、さっきから」

「……難易度が高すぎて」

「……そういうことか。成程な」


 私の様子に、何かを察してくれたらしい。

 フォアムントさんが、残念な子を見る目でつく溜め息。


「俺は一目惚れした直後に、呼び捨てで呼んでくれ、と頼み込んだな」


(ああ、だから)


 お母さんは、フォアムントさんと出会った頃から呼び捨てで呼んでいる。


 今日初めての、答えらしい答え。

 さすがギルド長。


「じゃあ、魔力通話装置借りるわ。――もしもし、お母さん?」


 ガタッ


 ギルド長席に座るフォアムントさんが、視界の端でがくっとなっている。


「グートにかけるんじゃないのか!?」

「しーっ。面と向かって相談するのが恥ずかしいのっ」

「俺には聞いているのにか!?」

「静かにしてってば」

 

 黒い森の庵と冒険者ギルドに、魔力通話装置があってよかった。



 季節はあっという間に過ぎてゆく。


 カナーリエン領で霜が降りる前に行う、ブルーロータスの球根回収も無事に終わっていた。

 

「…………」


「年が変わる前には、もう一度帰って来てほしい」と言われた通り、私は子爵邸に来ている。


「…………」


「お嬢様、そのまま動かないでくださいね」

 仕立て屋の指示に従い、2人のお針子がピンで留め、チャコペンで印をつけていく。


「…………」


 私は、さっきから半目で無言。

 今は、夏に採寸したドレスの仮縫いの最中。

 付き添ってくれているのは、お母さん。


「リーリエ。既に1時間半は経つが、休憩を入れるか?」

「……だいじょーぶ。一気に終わらせるほうが楽」


 私が半目で無言なのは、疲労のせいではない。


「お母さん。これ、本当にデビュタントドレス?」


 私の疑問に、仕立て屋とお針子たちの手が一瞬止まって、また動き出す。


 なんかもう、今のでわかった。騙された。


「……これ、ウェディングドレスよね?」


 ドレスと揃いで誂えられるロンググローブと()()()


「いかにも。私から見ても、ウェディングドレスで間違いない」

「グート……ッ」


 やられた。

 まだ告白もできていないのに、外堀を埋め尽くされている。


「だが、リーリエはグートのことが好きなのだろう? ここは甘えてドレスを作って貰うといい」

「……でもっ。そうしたら結婚式になっちゃうっ」

「最短ルート攻略なのだろう?」


「――あああっ、違う名前のお披露目って!!」  


 完璧にハメられた。


「そういえば、デザイン画は見ていないが」

「デザイン画は、若君様と春先から詰めて既に決定済みでして」


 春先って。

 リンドヴルムから帰ってすぐじゃん。

 いつから準備してたの怖い。


「今なら、少しの変更でしたらご相談承ります。例えば、お胸元のフリルを増やすとか」

「お願いします!」

 仕立て屋の提案に食い気味に即答する。


 結婚式が、避けて通れない道ならば――

 せめて、1番可愛い私を見てほしかった。

お読みいただき、ありがとうございました!

次回は明日、【夜20時20分】に更新します。

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