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蒼玉、揺蕩う朝

いつもと変わらない朝

――そのはずだった。


思えば、早朝の時点でおかしかったのだ。

普段なら朝食の二時間ほど前に起き、父の部屋を訪れて業務の一端を任され、公爵としての責務を学ぶ。


それは、僕が望んで始め、今では父も僕も当然のように続けている習慣だった。


けれど、その朝、父の姿は見当たらなかった。


不審に思い、屋敷の使用人に尋ねてみれば――

「エリスお嬢様が朝から何やら騒がしくしておられます」との話。


(……またか)


父も暇ではないというのに。

ギリッ、とロイドの手に力が入る。


いつからか、エリスの言動は僕を苛立たせるようになっていた。


(昔は、あんな子ではなかったのにな)


心の中でそう呟くと、かつてのエリスの姿がよみがえる。


純粋で、明るく、思いやりにあふれた、可愛らしい妹。

亡き母に似て、その笑顔はひときわ美しく可憐だった。


――最後に、あの笑顔を見たのはいつだったろうか。


(……今更考えたところで、仕方がない)


父に会いに行こうか一瞬迷ったが、エリスが騒いでいるところへ足を運べば、余計に事をややこしくするだけだろう。


そう判断したロイドは、その朝は潔く諦め、朝食までの時間を自らの勉学や業務整理に充てることにした。


この時点で僕は気づくべきだったのだ。

――”いつもの”エリスが、こんな時間に起きているはずがないと。



「……。」


ロイドは言葉を失った。

目の前の光景が、あまりに異常だったからだ。


深い夜を思わせる瑠璃色のドレスに身を包み、漆黒の髪を揺らす美しい少女がそこに立っていた。


だが、その表情はひどく歪んでいた。


朝食の時間になり、いつも通り大食堂に足を運んだはずだった。そう――“いつも通り”。


……いや、全然違う。


(……ほんとにエリス、なのか?)


ハッと意識を戻すと、先ほど廊下で会ったヴィルもまた、唖然としたまま固まっていた。


視線を父に移せば、何やら微笑ましそうに口元を緩めている。


――エリスだ。

今の父に、こんな表情をさせられるのはエリスしかいない。


その瞬間、胸の奥にさまざまな想いが溢れ出した。

まるで、あの頃――ロイドが大切に大切に守ってきたエリスが帰ってきたかのようで。


けれど、五年もの月日をエリスと距離を置いて過ごしてきた彼には、いまさらどんな言葉をかければよいのか分からなかった。


だから――口をついて出たのは、最悪の一言だった。


「……お前、酷い顔だな」


……しまった。


本当は、その美しく可憐な顔がなぜ歪んでいたのか知りたかった。

誰がそんな顔をさせたのか、問いただしたかった。


それに――本当に言いたかったのは。


綺麗だ、と。


一気に思考が渦を巻く中、その時――。


「ハッハッハッ……朝から仲の良いことだ。とりあえず二人とも座りなさい」

父が苦笑を浮かべ、僕らを席に促した。


そして、リュミエール公爵家の奇妙で異様な朝食が始まった。


ロイド視点続きます!

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