第2話 剣聖、冒険者になります(第一幕 王都の朝 十五歳の旅立ち)
時は魔王討伐よりも更に戻りリゼ十五歳の朝。
トウキ王国の王都に、最初の鐘が響いた。
東の山並みから射し始めた陽光が、赤褐色の屋根を順に染めていく。
城壁の見張り塔では夜番の衛兵が交代を始め、街道の先からは荷馬車の軋む音が近づいていた。
王都は今日も、人々の営みとともに新しい一日を迎えていた。
バーソロミュー家の屋敷は、王都の喧騒から少し離れた、緑の多い一角に建っていた。
王城へと続く大通りから一本奥へ入った場所にあり、白い石壁と落ち着いた赤褐色の屋根を持つ、古くからの貴族の館である。
広い庭には季節の花々が植えられ、石畳の小径を挟んで、手入れの行き届いた芝生が朝露に濡れていた。
庭の片隅には、一本の大きな樹が立っている。
枝葉の隙間から差し込む陽光が地面へまだらな影を落とし、風が吹くたび、木漏れ日が静かに揺れた。
その樹の下には、踏み固められた土の一角があった。
長年、幾度となく木剣が交わされた場所だ。
幼いリゼが何度も転び、何度も立ち上がり、日が暮れるまで剣を振り続けた場所でもある。
屋敷の二階。庭を見下ろす窓辺で、一人の少女が身支度を整えていた。
リゼ・バーソロミュー。今日、十五歳になったばかりの少女である。
朝の光を受けたアッシュブロンドの髪は、毛先へ向かうにつれて柔らかな金色を帯び、頬に沿って切り揃えられた短いボブが、首を動かすたび軽やかに揺れた。
鏡の中には、少しばかり落ち着かない顔が映っている。
「・・・よし」リゼは小さく呟くと、襟元を整えた。
今日は、いつもの修練着ではない。
淡い白のブラウスに、落ち着いた色合いのスカート。
足元には、磨き上げられた革靴を履いている。
母に言われて選んだ、神託を受ける日にふさわしい装いだった。
もっとも、本人としては少々窮屈だった。
「やっぱり、いつもの服のほうが動きやすいんだけどなぁ」
そう言いながら、鏡の前で軽く身体を捻る。
腰を落とし、足を半歩引く。
剣を構えるときの姿勢だった。
「・・・うん。動けなくはない」
「リゼ」
背後から声がした。
「はいっ!」
反射的に背筋が伸びる。
開いた扉のところに、アルテミシア・バーソロミューが立っていた。
娘とよく似た明るい表情を浮かべ、朝の陽光を背に受けている。
「何をしているの?」
「服の確認」
「剣を構える格好で?」
「動きやすさは大事でしょ?」
アルテミシアは一瞬きょとんとしたあと、楽しそうに笑った。
「ふふっ。確かに大事ね。でも今日は戦いに行くんじゃないのよ?」
「分かってるって」
「本当に?」
「神託を受けに行くんでしょ」
「そう。それが分かっているなら大丈夫」
母は娘の前へ歩み寄り、少し曲がっていた襟を直してやった。
その指先は優しかった。
幾多の戦場を知る剣士の手でありながら、娘に触れるときには、不思議なほど穏やかな手になる。
「十五歳かぁ〜」
アルテミシアが、しみじみと呟いた。
「何?」
「ううん。大きくなったなって」
「昨日と変わらないよ?」
「そういう意味じゃないの」
母は笑った。
リゼは首を傾げたが、それ以上は尋ねなかった。
母が時折、こうした表情を見せることは知っていたからだ。
遠い昔を思い出しているような。
けれど、どこか嬉しそうな顔。
その意味を、十五歳のリゼはまだ知らない。
「ねえ、お母さん」
「なあに?」
「私、どんな神託を貰えると思う?」
アルテミシアは娘の蒼い瞳を見つめた。
「そうねぇ・・・」
少し考えるふりをする。
「お料理とか?」
「ええっ!?」
「お裁縫とか」
「ちょっと待って!」
「それとも、お花を育てる才能かしら」
「剣は!?」
思わず身を乗り出した娘を見て、アルテミシアは声を立てて笑った。
「もう。そんなに剣が好きなの?」
「好きに決まってるじゃん!」
リゼは即答した。
「だって、まだスルスに勝ってないんだよ?」
その言葉に、アルテミシアの笑みが少し深くなった。
「そうね。あの人に勝つのは、なかなか大変よ」
「だから、すごい神託を貰って、もっと強くなるの!」
「神託だけで強くなれるわけじゃないわよ?」
「分かってる。修練もする」
「毎日?」
「もちろん!」
アルテミシアは満足そうに頷いた。
「それなら、きっと大丈夫」
そう言って、娘の肩へそっと手を置いた。
「どんな神託を授かっても、リゼはリゼよ。忘れないでね」
「うん!」
返事は明るかった。
けれど、リゼの胸はすでに期待でいっぱいだった。
今日、自分にどんな力が与えられるのか。
その力で、どこまで強くなれるのか。
リゼの頭には、すでに王都の外の景色が浮かんでいた。
地図でしか知らない山脈、その向こうの森、まだ剣を交えたことのない強者たち。
考えているだけで、じっとしていられなくなる。
屋敷の玄関を出ると、庭の向こうから涼やかな風が吹いてきた。
花壇の草花が揺れ、朝露の残る葉から小さな雫がこぼれ落ちる。
門へ続く石畳には、庭木の影が長く伸びていた。
リゼはその影を軽やかに踏み越え、振り返った。
「じゃあ、行ってきまーす!」
玄関先では、アルテミシアが笑顔で手を振っていた。
「気をつけてね。寄り道しないで帰ってくるのよ」
「はーい!」
「特に騎士舎!」
「・・・ 分かってるって!」
一瞬だけ返事が遅れた。
母は見逃さなかった。
「リゼ?」
「行ってきまーす!」
今度は振り返らず、門へ向かって駆け出した。
背後から母の笑い声が追いかけてくる。
門を抜けると、そこには王都の朝が広がっていた。
屋敷の並ぶ閑静な通りには、まだ夜明けの静けさが少し残っている。
高い石塀の上から庭木の枝が顔を覗かせ、古い館の窓辺では、使用人たちが朝の支度を始めていた。
通りの先には、緩やかな下り坂が続いている。
その向こうから、人々の声が聞こえてきた。
王都の中心へ近づくにつれ、街は少しずつ賑わいを増していく。
石畳の道を進むリゼの横を、二頭の馬に引かれた荷馬車が通り過ぎた。
車輪が石の継ぎ目を踏むたび、重たい木箱が小さく軋み、御者台に座った男が手綱を緩めながら、通りの先へ声を掛けている。
荷台には、郊外の農村から運ばれてきたばかりの野菜が山のように積まれていた。
まだ土の匂いを残す根菜の隙間から、瑞々しい緑の葉が溢れている。
「おはようございます、リゼお嬢様!」
御者が気づいて声を掛けた。
「おはよう! 今日はたくさんだね!」
「ええ! 今朝は出来がよくてね。市場が楽しみですよ!」
「頑張ってね!」
「お嬢様も!」
馬車はゆっくりと坂を下っていった。
リゼはその後ろ姿を見送る。
荷車の向こうには、すでに多くの人々が行き交っていた。
道の両側には商家が並び、軒先から吊るされた色とりどりの布が風に揺れている。
開け放たれた木戸の奥では、店主たちが商品を並べ、通りへ向かって威勢のよい声を響かせていた。
まだ低い位置にある太陽が、建物の間から斜めに差し込み、石畳の上へ明るい帯を描いている。
その光の中を、行商人が荷を担いで歩き、買い物籠を腕に掛けた女性たちが、店先で足を止めていた。
王都の朝は、いつもこうして始まる。
誰かが店を開ける音。
誰かが交わす挨拶。
石畳を踏む馬の蹄。
遠くの工房から聞こえる槌の響き。
それぞれの音が街のあちこちで生まれ、通りを抜ける風に運ばれながら、ひとつの賑わいへと溶け合っていく。
リゼはこの音が好きだった。屋敷の庭に満ちる静けさも好きだ。
剣を振るうとき、風を切る刃の音も好きだ。
けれど、王都の朝には、それらとは違う温かさがあった。
人が暮らしている。
今日も誰かが働き、笑い、何かを楽しみにしている。
その当たり前の営みが、街の隅々まで満ちていた。
大通りへ出ると、視界が一気に開けた。
建物の間を抜けた先には、王城へ向かって真っ直ぐに伸びる広い石畳の道があった。
その道の遥か先。幾重にも重なる屋根の上に、白亜の王城がそびえていた。
高い城壁に守られた壮麗な建物は、朝の光を受けて淡い金色に輝き、中央の塔に掲げられた王国旗が、澄み切った青空を背景にゆったりとはためいている。
城の背後には、遠い山々の稜線が薄青く霞んでいた。
その壮大な眺めを、リゼは幼い頃から何度も見ている。
それでも、朝日に照らされた王城には、思わず足を止めたくなる美しさがあった。
「今日はいい天気だなぁ」リゼは空を見上げた。白い雲が、ゆっくりと流れている。
高い塔の上を、一羽の鳥が横切った。
その翼が陽光を受けて一瞬白く輝き、やがて遠くの屋根の向こうへ消えていった。
リゼは小さく息を吸い込んだ。
澄んだ朝の空気が胸いっぱいに広がる。
そのとき、通りの反対側から香ばしい匂いが流れてきた。
焼きたてのパンだった。
石造りの店の奥では、大きな窯から取り出されたばかりのパンが木の棚へ並べられていた。
小麦の甘い香りに、焼き上がった表面の香ばしさが重なり、通りを歩く人々の足を自然と店先へ向けさせている。
「おいしそう」
リゼの足が止まった。
店先には、丸く焼かれたパンのほかに、蜂蜜を塗った菓子パンや、果実を練り込んだ小さな焼き菓子も並んでいた。
その一つが、朝日を受けて艶やかに輝いている。
「・・・」少し考える。
母からは寄り道をするなと言われている。
しかし、これは寄り道だろうか。
教会へ向かう途中にある店だ。
つまり、道を外れてはいない。
「よし」リゼは一人で納得した。
「ちょっとだけなら」
そのときだった。
「リゼお嬢様?」
店の奥から声がした。
顔を出したのは、ふくよかな体格のパン屋の女主人だった。
「おや、今日はずいぶんおめかしして。神託の日かい?」
「そうなの!」
「それはおめでとう。十五歳になったんだねぇ」
女主人は嬉しそうに笑った。
「小さな頃は、あんなにちっちゃかったのに」
そう言いながら、腰のあたりに手を添える。
「そんなに小さくないよ!」
「そうだったかねぇ?」
「もう!」
二人は笑った。
女主人は棚から小さな焼き菓子を一つ取り、紙に包んで差し出した。
「ほら。お祝いだよ」
「えっ、いいの?」
「もちろん。今日は特別な日なんだから」
リゼの顔がぱっと明るくなった。
「ありがとう!」
受け取った包みから、まだ温かな香りが漂ってくる。
「どんな神託を授かるか楽しみだねぇ」
「うん! 私、剣の神託がいいな!」
「ははは。 小さい頃から毎日練習してるものね!」
女主人は笑いながら、店の奥へ戻っていった。
リゼは包みを大切そうに抱え、再び歩き始めた。
王都には、こうした顔馴染みがたくさんいる。
貴族の娘だからといって、皆が遠巻きに接するわけではない。
幼い頃から街へ出ては、気になるものを見つけ、店を覗き、時には母に連れ戻されてきた。
そんなリゼの姿を、街の人々はよく知っていた。
大通りの先には、王都でも特に賑わう市場が広がっていた。
広場を囲むように商店が軒を連ね、その前には色鮮やかな天幕を張った露店が並んでいる。
赤や黄、深い緑に染められた布が朝の風に膨らみ、その下では果物や香辛料、織物、陶器など、さまざまな品が所狭しと並べられていた。
市場の中央には古い石造りの噴水があり、頂に彫られた水の精霊像から、清らかな水が絶えず流れ落ちている。
朝日に透ける水の粒は、小さな宝石のように輝き、落ちた水が水盤の表面に幾重もの波紋を広げていた。
その周囲では、買い物を終えた人々が立ち話をし、子どもたちが噴水の縁を追いかけ合っている。
広場の向こうでは、旅装束の冒険者たちが集まっていた。
革鎧を身につけた若い剣士。
背中に長弓を負った女性。
重そうな戦斧を肩へ担いだ、髭の立派なドワーフ。
その傍らでは、獣人族の青年が仲間と何かを話しながら、腰の短剣を確かめている。
人族だけではない。
さまざまな種族が同じ市場を歩き、品物を買い、言葉を交わしている。
耳の長いエルフの商人が薬草を選び、ドワーフの職人が金属製の道具を手に取って、店主と熱心に値段を交渉していた。
異なる土地で生まれ、異なる文化を持つ人々が、王都という一つの場所でそれぞれの日常を営んでいる。
それがトウキ王国の街の姿だった。
リゼは冒険者たちの姿を見つけると、自然と足を緩めた。
「いいなぁ〜」
彼らの装備は、どれも使い込まれていた。
鎧には細かな傷があり、革の留め具には何度も修理した跡が見える。
剣の鞘には擦れた痕が残り、背負った荷物からは長い旅の気配が漂っていた。
その姿は、リゼにとって何より魅力的だった。
彼らは王都の外を知っている。
街道を越え、森を抜け、山々の向こうへ旅をしてきた者たちだ。
リゼがまだ見たことのない景色を、その目で見ている。
どんな森を歩いたのだろう。
どんな魔物と戦ったのだろう。
夜の野営地では、どんな星空を見上げたのだろう。
想像するだけで、胸が高鳴った。
「私も、早く冒険者になりたいな」
小さく呟く。
その声は、市場の賑わいに紛れて消えていった。
リゼはしばらく冒険者たちを眺めていたが、やがて自分の目的を思い出した。
「・・・あっ!」
そうだった。
今日は神託の日だ。
慌てて広場の時計塔へ目を向ける。
古い石造りの塔の上では、大きな時計の針がゆっくりと時を刻んでいた。
「まだ大丈夫かな?」
少しだけ不安になる。
けれど、教会まではそれほど遠くない。
リゼは歩く速度を上げた。
教会へ続く坂道に差しかかると、王都の景色が再び大きく開けた。
そこは、街の中でも少し高い場所にあった。
振り返れば、今歩いてきた市場の天幕が、赤や黄色の小さな花を散らしたように見える。
その向こうには、幾重にも重なる屋根と鐘楼、街を囲む城壁が続き、さらに遠くには、緑の大地と青く霞む山々が広がっていた。
陽はすでに高く昇り始めていた。
朝の光は屋根の斜面を滑り、石壁の陰影をくっきりと浮かび上がらせている。
遠い街道を進む馬車は、ここからでは小さな点のように見えた。
風が吹いた。
坂道の両側に植えられた樹々が揺れ、葉の擦れ合う音が頭上を通り過ぎる。
その風には、街の匂いが混じっていた。
焼きたてのパン。
香辛料。
花々。
石畳に残る朝露。
そして、人々の暮らしが生み出す、どこか懐かしい温もり。
リゼは足を止め、王都を見渡した。
生まれてから十五年。
自分は、この街で育った。
母に手を引かれて市場を歩いた日。
初めて木剣を握った日。
スルスに何度も転ばされ、悔しくて泣いた日。
騎士舎で大人たちの剣技を見て、いつか自分もあんなふうに剣を振りたいと思った日。
そのすべてが、この街にあった。
けれど。王都の向こうには、まだ知らない世界が広がっている。
遠くの山を越えた先には、どんな国があるのだろう。
広大な森の奥には、どんな種族が暮らしているのだろう。
地図でしか見たことのない土地には、どんな景色が待っているのだろう。
リゼは目を細めた。
胸の奥に、言葉にならない期待が膨らんでいく。
今日、神託を受ける。
それは、この国で生まれた人族にとって、人生の大きな節目だった。
十五歳になると、神々からそれぞれの資質に応じた力が授けられる。
その力を生かして職人になる者もいれば、魔法を学ぶ者もいる。
騎士を目指す者。商人として旅に出る者。
そして、冒険者になる者。神々から授かる力は、生まれ持った資質を形にする。
だが、リゼは何を授かろうと剣を置くつもりなどなかった。
料理の才能でも、花を育てる才能でも、それは変わらない。
彼女が自分で選んだ道は、ずっと昔から一つだった。
「絶対、冒険者になるんだから」
誰に聞かせるでもなく呟く。
その声には、迷いがなかった。
彼女が欲しいのは、ただ強い剣の力だけではない。
自分の足で知らない土地を歩き、見たことのない景色を見て、まだ出会ったことのない人々と出会うこと。
そして、その旅の中で、もっと強くなること。
幼い頃から胸に抱いてきた願いだった。リゼは坂道の先へ目を向けた。
そこには、白い石造りの大きな教会が建っていた。
高い鐘楼が青空へ伸び、正面の大扉の上には、神々を象徴する精緻な彫刻が施されている。
長い年月を経た石壁は、朝日を受けて柔らかな乳白色に輝いていた。
教会の前には、すでに多くの少年少女と、その家族たちが集まっていた。
皆、今日という日を待っていたのだろう。
緊張した顔。期待に満ちた顔。不安そうに両親の手を握る者。
友人同士で笑い合う者。それぞれの人生が、これから一つの節目を迎えようとしていた。
リゼはその光景を見つめた。
そして、ふっと笑った。
「よぉーし!」
小さく拳を握る。
「何が出るかなぁ」
その表情は、神託という厳かな儀式を前にした少女のものというより、これから始まる冒険を待ちきれない子どものようだった。
期待に輝く蒼い瞳。
風に揺れる短いアッシュブロンドの髪。
口元には、抑えきれない笑みが浮かんでいる。
リゼ・バーソロミュー十五歳。
彼女が望んでいるのは、ただ一つ。
まだ知らない世界へ、自分の足で踏み出すことだった。
リゼは扉の向こうを見つめた。
これから授かる力が、自分の人生をどれほど大きく変えるのか、まだ想像もつかない。
けれど、彼女の頭にあるのはたった一つ。
儀式が終わったら、真っ先にスルスのもとへ向かう。
そして、もう一度剣を交えることだった。ただ彼女は、教会の大きな扉を見上げながら思っていた。
今日が終わったら、スルスに会いに行こう。
そして、剣を振ろう。
昨日よりも少しだけ、強くなっているかもしれない自分を確かめるために。
「楽しみ!」リゼは笑った。
その頭上で、教会の鐘が再び鳴り始めた。
澄んだ音色は王都の空へ高く昇り、朝日に輝く屋根の海を越え、遠くの山々へと流れていく。
人々の暮らしを包み込むように。
そして、まだ誰も知らない一人の少女の未来を祝福するようにリゼは教会へ向かって歩き出した。
大扉の前で待つ少年少女たちの姿が見える。
緊張した面持ちの者もいれば、両親の手を握りしめている者もいた。
けれど、リゼだけは違った。
あの扉の向こうで何が待っているのか。
それを考えるだけで、自然と歩幅が大きくなった。




