第八話
蒼太「紡、鍵は手に入れたけど、栞が勝手にできるわけないよね。」
紡「鍵は入室するための権限です。店内を好きに作り替える権限ではありません。」
蒼太「おそらく常識のある人からは『勝手に改造するな』って怒られるよ。」
紡「今回は常識が仕事をするんですね。」
蒼太「栞を止められそう?」
紡「難しいでしょうね。」
蒼太「常識なのに?」
紡「相手はホームセンターへ到着して完全に目を覚ましたDIYオタクです。」
栞は事務所から回収した店内図を床に広げた。
「サービスカウンター周辺を生活エリアに設定し、園芸売場までの経路を確保します。工具売場と資材館は作業エリアとして維持し、それ以外は防火シャッターと可動式の防壁で切り離せば――」
「勝手に改造するな!」
五十代の男が声を上げた。
「ここは君の店ではない。商品を壊して出入口まで塞ぐつもりか?」
「建物には不可逆的な変更を加えません。商品棚、台車、単管パイプを使用した一時的な構成変更です」
「言い換えただけだろう!」
小田もうなずいた。
「そうだ。あとで弁償しろと言われても、俺は払わないぞ」
「小田さんは作業に参加していませんので、請求対象には含まれません」
「そういう問題じゃない!」
女性スタッフが店内図をのぞき込んだ。
「非常口は塞がないでください。それから、防火シャッターの動作範囲には何も置かないこと。その条件を守るなら、緊急避難のための商品使用を認めます」
「ありがとうございます」
「待て、水瀬君」
上司が店内図を取り上げた。
「作業工程と担当者と完了予定時刻が書かれていない」
「今、必要ですか?」
「作業前に計画書を提出するのは当然だ」
栞は店内図の余白へ工程を書き込み、三分後に差し出した。
上司は確認し、署名した。
「よし。承認する」
五十代の男が頭を抱えた。
「だから、なぜあなたが承認するんだ!」
「水瀬君の上司だからだ」
栞は店内図を受け取った。
「店側と上司、双方の承認を取得しました。作業を開始します」
蒼太「上司、勝手に仕事しはじめて承認したけど権限無いよね。」
紡「計画書へ署名しました。」
蒼太「それだけ?」
紡「上司としては大仕事です。」
蒼太「会社じゃないけど、承認に意味あるの?」
紡「栞が納得したので問題ありません。」
蒼太「一番扱いやすいの、上司かもしれないね。」
紡「適切な場所に署名欄を用意すれば動きます。」
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