第九話
蒼太「紡、無理やり承認を取ったけど、どうするの?」
紡「承認は鮮度が大切です。撤回される前に作業を始めます。」
蒼太「早く店内を切り分けないと、客やゾンビが増えるよ。」
紡「同じ入口から来ますが、一緒に扱ってはいけませんよ。」
蒼太「今回は、そのまま『店内の切り分け』で。」
紡「では、安全な場所と危険な場所を、物理的に分けてもらいましょう。」
栞は承認済みの店内図を壁に貼った。
「サービスカウンターと休憩室を生活エリア、工具売場と資材館を作業エリアに設定します。未確認の売場は隔離し、正面入口には新しく入ってきた人の感染を確認する区画を設けます」
説明が終わる前に、栞は単管パイプを運び始めた。
若い男が商品棚を動かし、女性スタッフが防火シャッターの位置を確認する。
上司は店内図の前に立っていた。
「水瀬君、進捗が遅れているぞ」
「でしたら、その台車をお願いします」
上司も黙って台車を押し始めた。
「非常口の前は空けておけ」
反栞派の男が言った。
「避難経路は確保しています。ただし、外側からバグが侵入しないよう一方向で開く構造にします」
メッシュフェンスと商品棚が、広い店内を分断していく。
最後のフェンスを固定しようとしたとき、未確認エリアから客だったゾンビが現れた。
若い男が後ずさる。
栞は可動式のフェンスを引き寄せ、通路へ差し込んだ。
ゾンビの腕がメッシュの隙間から伸びる。
「未確認のバグを隔離しました。こちら側の環境に影響はありません」
クランプを締め、封鎖を完了する。
それまで離れた場所で見ていた小田が、満足そうに腕を組んだ。
「それ見ろ。俺は最初から、店内を分けるべきだと思っていたんだ」
若い男が振り返った。
「何もしてませんでしたよね?」
「全体を監督していた」
小田は、完成したバリケードを軽く揺らした。
「ただ、いざというときに外せるようにはしてあるんだろうな?」
「外す必要はありません」
栞は小田の手を、バリケードから静かに離した。
蒼太「小田、何もしてないよね。」
紡「全体を監督していたそうです。」
蒼太「誰に頼まれたの?」
紡「本人です。」
蒼太「それで『それ見ろ』って言えるんだ。」
紡「成果だけは正常に受信しています。」
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