第十話
蒼太「紡、これで完全にゾンビを隔離できたの?」
紡「設備上は隔離できています。」
蒼太「その言い方、何か問題がありそうだね。」
紡「利用者が勝手に設定を変更しなければ、安全です。」
蒼太「変更する奴がいるの?」
紡「第9話で、バリケードを揺らしていた人がいましたね。」
蒼太「じゃあ『残ったバグ』をなくさなくっちゃね。」
紡「何をバグと呼ぶかで、意味が変わりそうです。」
「小田さんがいません」
若い男の声に、全員が周囲を見回した。
未確認エリアへ続くバリケードの前に、小田の上着が落ちている。
固定されていたクランプは外され、メッシュフェンスには人ひとりが通れる隙間ができていた。
その奥から、小田が鞄を抱えて戻ってくる。
「何をしているんですか」
栞が尋ねた。
「財布と車の鍵を取りに来ただけだ。こんなもの、外そうと思えば簡単に――」
背後の商品棚が倒れた。
隔離されていたゾンビが、小田へ飛びかかる。
栞は台車を押し込み、ゾンビをメッシュフェンスの向こうへ押し戻した。若い男と女性スタッフがフェンスを閉じる。
だが、小田の腕には、はっきりと歯形が残っていた。
「違う! 俺のせいじゃない!」
小田は傷を押さえながら叫んだ。
「こんな簡単に外れるものを作った、こいつのせいだ!」
「外したのは、あなたでしょう」
反栞派の男が冷たく言った。
栞は屋外展示場にある物置を確認した。換気口があり、扉は外側から施錠できる。
「感染の可能性があります。こちらで経過を確認します」
「俺を閉じ込める気か!」
「ほかの人へ感染を広げないためです」
小田は最後まで栞を責めながら、物置へ入れられた。
扉が閉まってから十分後。
中から聞こえる声が、うなり声へ変わった。
女性スタッフが南京錠をかける。
「もう、この扉は開けません」
反栞派の男は、外されたクランプを見つめた。
「……彼女の指示に従おう。今度のことは、こちらの責任だ」
もう一人の客も、黙ってうなずいた。
「店内の安全管理をお願いできますか?」
女性スタッフの言葉に、栞は物置から視線を外した。
「承知しました。すべてのバリケードを、工具なしでは解除できない構造へ更新します」
上司が腕を組んだ。
「次は、勝手に外せないように作れ」
「承知しました」
こうして、ホームセンターに残っていた最後の派閥も消えた。
蒼太「人の行動は予測がつかないから、簡単に事故が起こるよね。」
紡「仕様どおりに動かないのが、人間の仕様です。」
蒼太「上司が再発防止策っぽい、普通のことを言い出したけど。」
紡「たまに正常な処理を返すので、油断できません。」
蒼太「承認以外、黙っていればいいのに。」
紡「上司を承認ボタンとして運用しないでください。」
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