第十九話
蒼太「紡、ここまできたら栞はとことんやりそうだね。」
紡「お風呂だけで終わるとは思えません。設備が一つ完成すると、次の改善点が見えてしまう人ですから。」
蒼太「じゃあ、玲奈の一言で『生活環境の改善』が始まるわけだね。」
紡「今度は何を要求するのでしょうか。」
蒼太「タイトルは『ギャルの追加要件』で。」
紡「要件定義が終わる気配がありませんね。」
完成した風呂から出てきた玲奈は、上機嫌で髪を拭いていた。
「いやー、マジ最高。生き返ったわ」
「正確には、感染からの回復機能はありません」
「そういう意味じゃないし」
玲奈は売場の一角に並べられたベッドへ腰を下ろし、周囲を見回した。
備蓄棚、作業台、工具箱。生活に必要なものは揃っている。
「でもさ、ここって暮らせるだけで、家じゃなくない?」
栞の動きが止まった。
「……要件を具体的にお願いします」
「壁がない。ずっと店の中。寝ても起きてもホームセンターじゃん」
「ここはホームセンターです」
「そういう話じゃなくて。個室とか、みんなでくつろぐ場所とか欲しくない?」
栞はメジャーを取り出した。
「生活区画の再設計を開始します!」
木材売場から合板と柱材を運び、収納家具で空間を仕切る。各自の寝床には簡易的な壁と扉が付き、中央には展示品のソファとテーブルが集められた。
照明も作業用の白い光から、暖色の間接照明へ切り替えられる。
玲奈がソファへ身を沈めた。
「そうそう、こういうのでいいんだって」
栞は完成した共有スペースを見渡した。
「生活環境改善アップデート、完了です」
「じゃ、次は――」
「追加要件の受付は終了しました!」
店内に栞の声が響いた。
蒼太「栞が追加要件を拒否したね。」
紡「受け付けたものは、すべて完成させましたからね。」
蒼太「玲奈のおかげで、ホームセンターが家になった。」
紡「最初に言っていた『安全なところ』を、随分と通り越しました。」
蒼太「でも玲奈、まだ何か言おうとしてなかった?」
紡「聞かなかったことにしてあげましょう。」
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