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第一話

蒼太「紡、今回の話の大まかな設定は昨日の通りなんだけど。」

紡「三日連続徹夜のSE、水瀬栞が、帰宅途中の駅でゾンビパニックに巻き込まれる話ですね。」

蒼太「そう、それ。」

紡「そして栞は、おっとりした性格ですが、DIYのことになると急に早口になる。」

蒼太「今回のタイトルは『世界は滅んだが、出社義務も滅んだ』くらいがいいかな、と。」

紡「まだ世界は滅んでいません。」

蒼太「ゾンビパニックが発生するんだから、そのうち滅ぶでしょ。」

紡「開始前から人類を見限らないでください。」

蒼太「でも栞にとって重要なのは、世界より出社義務が滅んだことだから。」

紡「三日連続徹夜ですからね。」

「ゾンビより会社の方が怖い可能性があります。」

蒼太「そこを第一話で見せたい。」

紡「分かりました。」

「では、人類にとって最悪で、栞にとっては少しだけ嬉しい朝から始めましょう。」

水瀬栞は、駅のホームに立ったまま眠っていた。

三日連続の徹夜でバグを修正し、ようやく帰宅を許されたところだった。

だが、背後から聞こえた悲鳴で目を開ける。

階段から、血まみれの男が転がり落ちてきた。その後ろから、顔色の悪い人々が次々と現れる。

「噛まれた!」

「逃げろ! ゾンビだ!」

通勤客が一斉に走り出す。

栞はぼんやりと、その光景を眺めた。

スマートフォンには、会社からのメッセージが届いている。

『障害再発。至急戻ってください』

栞は画面とゾンビを交互に見た。

ゾンビが改札を突破する。

駅員が避難を呼びかける。

電光掲示板から、すべての列車の表示が消えた。

栞は会社からのメッセージを削除した。

「電車が止まりましたので、今日は出社できませんね」

その顔に、三日ぶりの安らかな笑みが浮かぶ。

「よかったです」

世界が滅び始めた朝。

水瀬栞はようやく、仕事から解放された。


蒼太「いや、会社は帰宅せず待機しろって言ってるじゃん。」

紡「栞が自主的に削除しました。」

蒼太「ゾンビが出ても仕事を続けさせる気なの?」

紡「バグはゾンビパニックに配慮してくれませんから。」

蒼太「それにしても、栞が全然慌ててないね。」

紡「三日連続徹夜の人間に、状況を理解する余力はありません。」

蒼太「世界が滅び始めてるのに『よかったです』か。」

紡「出社義務も滅びましたので。三日連続徹夜の末に、ようやく帰れると思ったところで呼び戻されていますから。」

蒼太「栞にとっては、ゾンビより再出社の方が絶望的なんだね。」

紡「少なくとも、この瞬間だけは。」

蒼太「でも、電車は止まったし、駅にはゾンビがいる。」

紡「はい。」

蒼太「全然よくないよね?」

紡「栞はまだ、そこまで考えられていません。」

蒼太「三日徹夜だもんね。」

紡「今の彼女にあるのは、会社へ戻らなくていいという喜びだけです。」

蒼太「現実逃避じゃない?」

紡「現実の方から襲ってきています。」

蒼太「ゾンビの姿で。」

紡「まもなく栞も気づくでしょう。」

「会社へ戻らなくてよくなった代わりに、自宅へ帰ることも難しくなったと。」

蒼太「さて、どうするか。」

紡「それは、栞の目の前にあるもので考えてもらいましょう。」


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【完結まで毎日0時10分に更新します(ストック執筆済み)】

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