第十七話
蒼太「紡、栞ってどれくらい寝るんだろうか。」
紡「三日間ほとんど寝ていませんから、半日以上は起きないでしょうね。」
蒼太「起きたら、お腹すいているんじゃないかな?」
紡「栞なら非常食を栄養補給と称して、そのままかじりそうです。」
蒼太「でも玲奈が『食事の改善』をしろって言いそうだね。」
紡「起きた直後から追加要件ですか。」
蒼太「健康管理も、長期運用には必要だからね。」
紡「正論ですが、玲奈が言うと嫌な予感がします。」
栞が目を覚ましたのは、眠り始めてから十四時間後だった。
展示用ベッドから身体を起こすと、腹部から大きな音が鳴る。
「空腹を検知しました」
栞は備蓄棚からクラッカーと缶詰を取り出した。
「待って。まさか、それがご飯?」
玲奈がクラッカーを取り上げる。
「必要なカロリーと栄養は確保できます」
「そういう問題じゃないし。毎日こんなの食べんの?」
「長期保存に適した構成です」
「食事の改善、決定ね」
玲奈は米を炊き、缶詰と乾燥野菜を鍋へ放り込んだ。ほどなくして、湯気の立つスープと炊きたてのご飯が並ぶ。
栞が一口食べ、動きを止めた。
「……処理速度が向上する味です」
「普通においしいって言えないの?」
その様子を見ていた家庭菜園が趣味の男が、園芸売場を指した。
「保存食だけじゃ、いずれ限界が来る。野菜も育ててみないか?」
その言葉に、栞の目が光る。
プランター、培養土、種、防虫ネット。雨水タンクから伸びたホースには、栞が作った自動給水装置が接続された。
作業を終えた玲奈が、土しか入っていないプランターをのぞき込む。
「で、いつ食べられんの?」
「収穫までには、まだ数週間必要です」
「今日じゃないんだ」
「野菜の成長速度はアップデートできませんので」
「じゃあ、それまで缶詰?」
栞は炊きたてのご飯と、缶詰を使ったスープを指した。
「既存資源の調理方法は改善されました」
玲奈は食卓へ戻りながら、首をかしげた。
「それ、しおりんじゃなくて、あたしの功績じゃない?」
「食事環境改善プロジェクトの共同成果です」
「まあ、いっか」
プランターには、まだ何も生えていない。
それでも、保存食だけだった食卓には、少し先の楽しみが加わっていた。
蒼太「起きてすぐ働かされたね。」
紡「食べた途端、家庭菜園を構築しましたからね。」
蒼太「玲奈がいなかったら、ずっとクラッカーだったのかな?」
紡「栞は食事にも効率を求めすぎです。」
蒼太「玲奈の追加、正解だったね。」
紡「TONEを答えてはいませんけどね。」
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