第十一話
蒼太「紡、そろそろお昼を過ぎる頃じゃない?」
紡「午前七時過ぎに駅を出て、ここまで五時間ほど働き続けていますね。」
蒼太「朝早かったので、お腹がすいてくる頃なんだけど。」
紡「栞は三日連続徹夜です。空腹より先に、睡眠が必要だと思います。」
蒼太「でも、水も食事もなければ寝ていられないでしょ。」
紡「寝床もまだ商品棚の隣ですからね。」
蒼太「やっぱり『最低限のインフラ』の確保は必要だよね。」
紡「ようやく、ゾンビ以外の問題に対処するんですね。」
正午を知らせる時計の音に重なって、若い男の腹が鳴った。
「そういえば、朝から何も食べていないです」
全員が顔を見合わせる。
店内の照明が一度だけ点滅した。
水道も電気も、今は使える。しかし、いつ止まるか分からない。
栞は店内図へ新しい項目を書き加えた。
「現在の水道と電力は、外部サービスへ依存しています。予告なく停止する可能性がありますので、ローカル環境へ移行します」
女性スタッフが資材館の裏を指さした。
「受水槽はあります。ただ、店内への給水は電動ポンプです」
「停電すると、水が残っていても蛇口から取得できなくなりますね」
栞は受水槽の設備と点検用の取り出し口を確認した。
「水道が稼働しているうちに、飲料水と生活用水を分けて貯水します。停電後も受水槽から必要量を取り出せる経路を確保します」
園芸売場から貯水容器と雨水タンクが運び出された。
ポータブル電源とソーラーパネルを集め、照明や通信機器だけを接続。発電機は排気ガスが店内へ入らないよう、資材館の外へ設置する。
「発電機は必要な時間だけ稼働させ、通常時はポータブル電源を使用します。調理はカセットコンロへ分離し、消火器と換気経路を確保します。それから――」
「水瀬さん、速いです」
「インフラの話ですので」
昼食は、キャンプ用品売場にあった保存食と缶詰になった。
上司が袋を見つめる。
「温かいコーヒーはないのか?」
栞は電気ケトルをポータブル電源へ接続した。
「追加要件として処理します」
こうして、水、電気、食事、そして上司のコーヒーが確保された。
ホームセンターはようやく、眠れる場所になった。
蒼太「最低限って、本当に最低限だね。」
紡「生存に必要な要件は満たしています。」
蒼太「食事の楽しみは?」
紡「今回の要件には含まれていません。」
蒼太「上司のコーヒーは入ったのに?」
紡「追加要件として割り込まれました。」
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