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第22話: 元勇者仲間との再会、そして黒鎧の怪物

坂本一真が立っていた。


炎を思わせる赤いラインが走る黒のチュニック。

肩の銀飾には、かつて王都の近衛団が誇った炎の紋章が刻まれている。


腰のマントがわずかに揺れ、燃えるような橙の刺繍がちらりと覗いた。


「よぉ、悠真じゃん。へー、お前がこんなところで酒なんか飲んでるとはな。相変わらずお気楽なもんだ」


不敵な笑みとともに、炎のような眼差しが射抜いてくる。


「……別にいいだろ」


(相変わらずだな....)


その隣には、青山美咲が静かに立っていた。


淡い青と白のローブが波のように揺れ、首元で水滴型の魔導具がほのかに光る。

彼女が歩を進めるたびに、裾のスリットからのぞく青いハイブーツが、音もなく床を撫でた。


「ちょっと一真、そういう言い方しなくてもいいでしょ」


落ち着いた声。

彼女の指先には、水の粒が淡く煌めき、冷たい静けさが辺りを包む。


「ま、そういうことにしとくか。どうせお前にできることなんて、せいぜい雑用くらいだしな」


「……」


最後に現れたのは、高橋健吾だった。


青銅色の鎧が燭光を反射し、胸部の錬金紋章が鈍く光る。

腕を組んだ姿から漂う圧は、まさに“壁”。

その動きには無駄がなかった。


「まあ、座れよ」


健吾が低く響く声で椅子を指し示すと、鎧の継ぎ目が小さく鳴る。


その重厚な鎧の存在感と、手にした巨大盾の威圧感に、悠真は無言で圧倒された。


「ああ....」


悠真は、ほぼ空になったグラスに指をかけながら、彼らを順に見た。

かつては共に勇者として召喚された同胞――だが、今はそれぞれの道を歩いている。


「……一真、美咲、健吾」


名を呼ぶと、一真は肩をすくめて笑った。


「へぇ、まだ名前覚えてんだ。にしても、こんなところで何してるんだ? まさか、まだ旅人のままってわけじゃないよな?」


一真の態度は城で出会った時から変わらない。


「今は自分の道を歩いてるよ」


悠真がそう答えると、一真は鼻で笑った。


「ほぉ、自分の道ねぇ。どうせ大した道じゃないんだろ?」


悠真が何か言い返そうとしたとき、美咲が間に入った。


「ちょっと!一真...」


ローブの裾を軽やかに揺らす立ち姿は、静かながらも圧倒的な魅力を放っていた。


「ふんっ、別に本当のことを言っただけだろ?」


一真は軽く手を振った。


その動きに、赤い炎の光が籠手から揺らめき、剣士としての鋭さを際立たせた。


「それに、今さら悠真が何をやってようが、俺たちの任務には関係ねえしな」


「……任務?」


悠真が問い返すと、健吾が口を開いた。


「ああ、俺たち明日、黒炎の城の偵察任務に行くことになってるんだ」


「黒炎の城……」


悠真は、さっき聞いたばかりの情報を思い出す。


「あそこは今、魔王軍の幹部クラスが集まってるって話だ。無茶じゃないのか?」


「はっ、お前に心配されるほど俺たちは弱くねぇよ」


一真はあざ笑うように言った。


「お前がどうやってここまで来たのかは知らねぇが、俺たちはずっと戦い続けてきたんだ。魔王軍の本拠地に乗り込むために、力を磨いてきた」


悠真は言葉を飲み込む。


一真の言う通り、彼らはこの異世界で勇者として戦い続けてきた。彼らの強さは疑いようがない。


「でも、今回の偵察はちょっと危険かもしれないわね……」


美咲が少し不安そうに言う。


「最近、城の周辺で魔族が異常に増えてるって話があるの。普通の魔族じゃなくて、なんかこう……もっと不気味な感じの」


「確かに、慎重に動かないとヤバいかもしれねぇな」


健吾も腕を組んで頷く。


「だったら、あまり無理はしないでくれよ」


悠真がそう言うと、一真が嘲笑するように口を開いた。


「おいおい、何言ってんだ? 俺たちは勇者だぞ? こんなところでビビってたら、魔王なんて倒せねぇよ」


「……そうか、そうだったな。」


悠真はそれ以上言うのをやめた。


(……もう、いい。昔から変わらない。あいつはあいつで突き進むしかないんだ。俺は俺のやり方でやるだけだ……。いつか道が交わる日が来るかもしれないが、今は……ただ、生きてくれればそれで十分だ)


何を言っても、一真には届かない。

そう諦めにも似た思いが、悠真の胸に静かに、しかし深く広がった。


「ま、せいぜいのんびりしてろよ。俺たちは、俺たちのやるべきことをやるからな」


一真はそう言い残し、美咲と健吾を連れて酒場を出て行った。


悠真は静かにグラスを見つめる。


(変わってないな……一真は)


「……にゃあ?」


ふと、リィナが隣で不満そうに頬を膨らませていた。


「なんだよ?」


「悠真は怒らないのかにゃ? あんな風に言われたのに」


「……別にいいさ。あいつは前からああいうやつだからな」


悠真は苦笑し、残りの酒を飲み干した。


(ただ……)


明日の偵察任務。

黒炎の城には、恐ろしいものが潜んでいるような気がしてならない。


悠真は胸騒ぎを覚えながら、グラスを静かに置いた。


ーーー


翌日――


「クソッ……! なんでこんなに数が……!」


一真の叫び声が、荒れ果てた平原に響き渡った。


黒炎の城の近くで、一真、美咲、健吾の三人は、王国軍の偵察隊と共に絶望的な状況に追い込まれていた。


振り返れば、偵察隊の兵士たちも次々と倒れ、ほぼ壊滅状態だった。


彼らの前に広がるのは、無数の魔物の大群。

それだけではない。


「……おい、あれを見ろ」


健吾が震える声で指を差す。


そこに立っていたのは、異様な雰囲気を放つ黒い鎧の魔族たちだった。


鎧はまるで生き物のように微かに脈打ち、関節部からは赤黒い筋のようなものが浮き出ている。兜の隙間から覗く目は虚ろで、まるで魂を抜かれた人間のような不気味な光を宿していた。


「……なによ、あれ……?」


美咲が息を呑む。


その黒鎧の兵士たちの動きは妙だった。まるで人間のような、それでいて人間ではないような、不気味な違和感を覚える。


「ちっ……面倒なことになったな」


一真が歯を食いしばりながら剣を構える。しかし、敵の数はあまりにも多すぎる。


その時——


遠くの丘の上で、悠真はその光景を見下ろしていた。


「……やっぱりな」


彼は静かに息を吐き、リィナと視線を交わす。


「悠真、行くの?」


「ああ……さすがに、ほっとけねぇ」


悠真は腰の武器に手をかけ、そっと握りしめた。


(さて……俺は俺のやり方で、やらせてもらうか)


そう呟くと、静かに駆け出した。


剣戟の音が響き、魔物たちの咆哮が大地を揺るがす。


一真たちは必死に剣を振るい、猛攻を凌いでいたが、その数は減るどころか増していくばかりだった。


「くそっ、数が多すぎる……!」


一真が苦々しく呟きながら剣を払う。だが、一体倒せば、すぐに別の魔物がその隙間を埋めるように迫ってきた。


美咲の放つ水魔法が魔物たちを薙ぎ払い、健吾の錬金術で強化された盾が攻撃を防ぐも、敵の波状攻撃は止まらない。


 そして――


「ッ……ぐっ!」


健吾が叫び声を上げ、膝をついた。


「健吾ッ!」


美咲が叫ぶ。彼の足元には、魔族の放った矢が突き刺さっていた。


「毒……か……ッ」


「美咲! なんとかしろ!」


「無理よ! 私の魔法じゃ毒は消せない! 敵が展開した強力な魔力結界のせいで、解毒の術式が完全に阻まれてる……!」


焦る美咲の目の前で、魔物たちが更なる猛攻を仕掛けようとしていた。その刹那――


 シュン――ッ!


何かが空を切り裂き、次の瞬間、毒矢を放った魔族の幹部が胸を貫かれた。


「……何?」


美咲が振り返ると、そこにいたのは――


「悠真……?」

第22話、ありがとうございました。

まだ序章に過ぎません。


次回『元勇者たちを救った禁断の魔道具』


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