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第23話: 勇者たちを救った禁断の魔道具

悠真は丘の上から弓を構え、次なる矢をつがえていた。


その矢は通常のものとは違い、白く淡い光を帯びている。


「浄化の矢……!」


低く呟くと、次の瞬間、矢が放たれた。


軌跡はまっすぐ健吾へ――。


「お、おい!?」


矢は彼の体に届く寸前で霧のように消え、代わりに白い光が健吾を包み込む。


眩い輝きが走り、体内に回った毒を浄化するように黒い毒痕が薄れていった。


「――毒が……消えた?」


健吾は驚愕しながら、自分の手を見つめる。


先ほどまで黒ずんでいた指先が、元の色に戻っていた。


「助かった……のか?」


呆然とする彼の前で、悠真は弓を背に収めると、言葉もなく、ただ戦場へ駆け出していく。


「おい、何やってんだよ!」


一真の怒鳴り声を背に受けながら、悠真は前方へと踏み込んだ。


そして、迫りくる魔物の群れを前に、彼は毅然と立ちはだかった。


「後ろは任せろ。」


落ち着いた声で告げ、腰から盾を外すと、健吾に放った。


「健吾、これを使え!」


健吾が慌てて受け取った盾には、見たことのない文様が浮かび、光が宿っていた。


それは進化したアイテム、**「烈光の壁」**だった。


《烈光の壁》

──灼熱の加護を宿した盾。

①物理攻撃を防ぐだけでなく、受けた衝撃を熱波として放出する。

②一定時間、防御力が大幅に上昇し、接触した敵に火傷を与える。


「な、なんだこれ……!」


健吾が驚きながらも盾を構えた瞬間、魔物たちの猛攻が襲いかかる。


だが――


ドンッ!


烈光の壁が激しく輝き、衝撃とともに魔物を弾き飛ばした。


さらに、盾の表面から灼熱の熱が放たれ、接触した魔物たちが苦しみながら後退する。


焼けるような熱風が肌を焦がし、魔物の断末魔が響き渡った。


「これは……!」


「反撃の熱波を放つ盾だ。防ぐだけじゃなく、敵を寄せつけない」


悠真が説明する間にも、次々と魔物が襲いかかってくる。


その声に、美咲が魔法陣を展開しようとした。


「それなら――!」


だが悠真が、小さなランタンを放った。


「美咲、こいつを使え」


「え?……これは?」


受け取ったランタンは、内側で赤い炎が揺らめいている。


「……魔道具?」


「炎光のランタンだ。お前の魔法と組み合わせろ!」


《炎光のランタン》

──炎の精霊の力を封じた魔道具。

①周囲の魔法エネルギーと共鳴し、特定の属性魔法を強化する。

②水魔法と組み合わせることで、超高温の蒸気爆発を引き起こす。


美咲は少し迷ったが、悠真の言葉を信じて魔法陣を展開する。


「行くわよ……!」


彼女が詠唱を紡ぐと、炎光のランタンが反応し、水の奔流に赤熱の輝きを纏わせた。


「え?....何よ...これ……!」


即座に魔法の方向を調整し、魔物たちの群れに向けて解き放つ。


「水華の奔流すいかのほんりゅう!」


ゴオオオオオッ!!


水と炎が絡み合い、灼熱の蒸気が爆発的に吹き荒れる。


轟音とともに、前線の魔物たちがまとめて吹き飛んだ。


熱風が戦場を駆け巡り、魔物の悲鳴が連続して上がる。


蒸気の熱が肌を焼くような痛みすら伴い、視界が白く染まるほどの爆発が連続した。


「凄い.....!」


「あ、あいつらが……消えていく……!」


健吾が驚愕する。


ランタンの力が加わったことで、美咲の魔法は通常の何倍もの威力を発揮し、魔族の軍勢を一掃していた。


「水魔法に炎の加護を重ねた。蒸気爆発の魔法だ」


悠真の言葉に、美咲は信じられないように息をのむ。


「やるじゃないか……!」


健吾が思わず声を上げる。


その少し後ろで、リィナが目を輝かせながら悠真の活躍を見つめていた。


「悠真、すごいにゃ……!」


一真はその光景を見つめながら、顔をしかめた。


「……本当に、こいつがやってるのか?」


納得できないような表情で呟いたそのとき――


魔族の幹部が最後の力を振り絞り、一真に剣を振り下ろす。


「ッ……!」


迎え撃とうとするが、その前に、悠真の矢が走った。


鋭い音を立て、幹部の腕を貫く。


「ぐあああッ……!」


男が叫び声を上げると、一真はその隙を逃さず、渾身の一撃を叩き込んだ。


「……チッ、余計なことを」


一真は不満げに舌打ちするが、その声には微かな動揺と、認めたくない苛立ちが混じっていた。


だがその背後から、穏やかな声が届いた。


「助かったぜ、悠真」


「……ありがとう」


健吾と美咲の声が重なった。


その声には、明らかに悠真への感謝が込められていた。


一真はわずかに視線を逸らし、何かを言いかけて口をつぐむ。


戦いは終わった。


ーーそれでもなお、彼の中にはまだ納得できない思いがくすぶっていた。


訝しげな視線を向ける一真に、悠真はただ静かに弓を収めるだけだった。


戦いを終えた悠真たちは、傷ついた体を引きずりながら、エルバーナの宿屋へ戻ってきた。


部屋に入るなり、一真がベッドに腰を下ろし、肩を回してから悠真を見やった。


「……ふん、運が良かっただけだな」


「運?」


悠真が問い返すと、一真は鼻で笑った。


「助けたとか勘違いすんなよ。たまたま魔物の動きが鈍っただけだろ」


「……」


予想していた反応だったが、あからさまに見下されると苛立ちを覚える。


悠真は言葉を飲み込み、無言で視線を落とした。


「そもそもさ、お前の“進化”ってやつ? どこまで役に立つのか知らねぇが、そんなもんに頼って戦う時点で終わってるだろ。俺たちは“本物”の剣と魔法で戦ってんだぜ」


一真は悠真の武器にちらりと目をやり、侮蔑するように口元を歪めた。


「ま、お前みたいなやつが勘違いするのは勝手だけどな」


悠真の拳が静かに握られる。


(……こいつ、何があっても俺の力を認めないつもりか)


とはいえ、ここで言い争っても意味はない。


悠真は小さく息を吐き、怒りを押し殺した。


そんな中、健吾が気まずそうに口を開く。


「でもよ悠真、お前……いつの間にあんな戦い方、できるようになったんだよ?」


「……」


「ほら、前はさ、なんていうか、戦うタイプの加護スキルじゃなかっただろ? それが急にあんな風にバッチリ戦ってるんだからよ」


健吾は素直に驚いているようだったが、一真の顔色をうかがうように、それ以上は踏み込まなかった。


その横で、美咲が興味深そうに悠真を見つめていた。


「ねえ、あのランタン、一体どうやって作ったの?」


「あれか?」


炎光のランタンに手を伸ばす。


「普通の魔道具とはちょっと違うみたいだけど....あんなの見たことないわ」


「偶然だよ」


悠真は肩をすくめて答えた。


「手に入れる機会があったから、ちょっと試しただけさ」


「ふぅん……」


美咲は何か考えるように沈黙した。


場の空気が、一瞬だけ静まり返る。


「しかし……」


健吾が酒を一口あおり、ぽつりと呟いた。


「こうして話すの、初めてみたいなもんだよな」


「そうかもな」


悠真は眉をひそめながら答える。


それは事実だった。


召喚された日、彼らと交わした言葉はほんのわずか。


王城の広間で神託を受けた彼らは、すぐに王の側近と行動を共にし、悠真にはほとんど目も向けなかった。


そして悠真もまた、冷ややかな視線と重い沈黙に追い立てられるかのように、城を後にしている。


それ以来、彼らとは一度も交わることはなかった。


「お前、あの日、すぐにいなくなっちまったよな?」


健吾が思い出すように言った。


「だから俺たち、ほとんどお前のこと知らねぇんだよ」


悠真は杯を回しながら、小さく息を吐いた。


「知る必要もなかったんだろ?」


「まあ、そゃそうかもしれねぇけどよ」


健吾は苦笑しながら肩をすくめた。


「でもさ、こうしてみると、なんか変な感じがするんだ。元々は、俺たち……一応、同じ境遇だったわけだし」


「境遇だけはな」


一真が不機嫌そうに口を挟んだ。


「こいつは結局、俺たちとは違う道を選んだ。それだけのことだ」


悠真はそれ以上何も言わなかった。


しばし沈黙が流れ、美咲が小さく息をつく。


「……でも、こうして再会できたのは良いことだと思うの」


「俺もそう思うよ」


悠真は短く答え、杯を口に運ぶ。


「……ふと、思うんだけど」


ふと、口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。


「何?」


美咲が興味を引かれたように顔を上げる。


悠真は少し考えてから、言葉を続けた。


「俺の作ったアイテム……正直....お前たちが使うことで、あれほどの力を発揮するとは思ってなかったんだ」


「へえ?」


美咲が少し笑う。


「つまり、自分の力に驚いたってわけ?」


「違う、そうじゃない。性能は充分把握してたし、試してもいた。でも、それを扱う人間の力量で、ここまで力が引き出されるとは思ってなかった。」


「ははっ、それは俺たちが優秀だからだな」


一真が鼻で笑う。


「…まあ、認めるけど」


悠真は小さく笑みを浮かべて応えた。


「それにしてもさ……」


健吾が腕を組み、感心したように目を細めて言った。


「確かに、お前の作ったあの盾やランタン、今までにないくらい扱いやすく、力強かった。でも、どうやったんだ?そんな技術、いつどこで身につけたんだ? それがお前の本当の能力ってことか?」


「さあね」


悠真は曖昧に答え、杯を揺らす。


その横で、美咲がじっと彼を見つめていた。


「……本当に、ただの道具屋だったの?」


悠真は口の端をわずかに上げる。


「道具屋は道具屋さ」


美咲はしばらく視線を外さずにいたが、やがて小さく息を吐いた。


その時だった――


宿屋の扉が勢いよく開かれ、慌てた様子の男が駆け込んできた。


「おい、大変だ! 黒炎の城の方角から、新たな魔族の動きが報告された!」


「……なんだと?」


一真が顔を上げる。


「この前の残党か?」


「違う! 今回は、もっと強力な個体が混ざってるらしい! しかも大規模な軍勢を伴っている可能性が高い。今夜にもエルバーナに大攻勢をかけてくるかもしれないという情報だ!」


部屋の空気が一変する。


「強力な個体、ねえ……」


一真は不敵に笑ったが、さすがに警戒しているのがわかった。


「そいつらがこっちに来る可能性は?」


「それはまだわからない。ただ、エルバーナがさらに危険になったのは確かだ、警戒してくれ!」


男はそう言い残し、慌ただしく去っていく。


悠真は無意識に炎光のランタンを握りしめた。


(黒炎の城、まだ何かあるな……今夜か)


リィナが悠真の袖をそっと掴み、不安そうに耳を伏せた。


一真、美咲、健吾――それぞれ思案するように黙り込んだ。


エルバーナの夜が、静かに、しかし確実に不穏な気配を濃くしていった。

第23話、ありがとうございます。


次回『漆黒の巨影と、灼熱の進化』


少しでも面白ければ★で応援お願いします。

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