最終話・奏視点:「隣にいる理由」
玲さんは、
相変わらず距離が近い。
急に「かわいい」と言うし。
急に触れるし。
人前でも普通に手を繋ぐ。
最初の頃は、
その全部に慣れなかった。
心臓がうるさくて。
何を考えているのか分からなくて。
振り回されてばかりだった。
でも。
気付けば、
それが当たり前になっていた。
◇
「奏。」
名前を呼ばれる。
振り返ると、
玲さんが笑っている。
その顔を見るだけで、
少し安心する自分がいた。
仕事帰り。
一緒に飲むコーヒー。
並んで歩く夜道。
何気ない会話。
そういう小さな時間が、
いつの間にか特別になっていた。
◇
玲さんは、
多分これからも変わらない。
急に距離が近いし。
さらっと恥ずかしいことを言うし。
きっとこれから先も、
その度に振り回される。
でも。
もう嫌じゃない。
むしろ。
そんな時間が、
好きだと思う。
◇
昔の自分は、
恋愛にこんなふうに安心する日が来るなんて思っていなかった。
誰かといることで、
落ち着くことなんてないと思っていた。
でも玲さんは違う。
一緒にいると、
ちゃんと息ができる。
無理しなくていい。
黙っていても苦しくない。
そんな人だった。
◇
玲さんが隣にいる。
それだけで、
世界が少し柔らかく見える。
冬の帰り道も。
春の夜風も。
夏の花火も。
秋の静かな公園も。
全部。
一人で見ていた時より、
ずっと綺麗だった。
◇
「……奏?」
考え込んでいたらしい。
玲さんが少し不思議そうにこちらを見る。
「なんでもないです」
「ほんと?」
「はい。」
そう答えると、
玲さんは小さく笑った。
それから自然に、
手を繋ぐ。
もう、
前みたいに驚かない。
その温度が、
ちゃんと落ち着く。
◇
玲さんの隣が、
今の自分の居場所なんだと思う。
たぶんこれから先も。
何気ない日々の中で、
何回でも。
そう思う。
読んでいただきありがとうございます!
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