番外編:「玲、絶対本気じゃん」
「……いや、
玲絶対本気だろ」
営業後。
バックルームで、
元同僚の美容師がぽつりと呟いた。
「今さら気付いたの?」
別のスタッフが笑う。
「だってあいつ、
前と違いすぎるって」
◇
久々に玲がヘルプへ来た土曜日。
相変わらず顔はいい。
接客も上手い。
空気感も柔らかい。
でも。
なんか違った。
◇
「玲、
今日機嫌よくない?」
カットの合間。
元同僚が小声で言う。
「え、そう?」
「顔。」
「出てる?」
「出てる。」
玲は笑いながら、
鏡越しに客の髪を整えていた。
昔からモテる男だった。
でも。
どこか本気にならない。
軽やかというか、
深入りしないというか。
恋愛しても、
どこか余裕があった。
なのに最近。
妙に柔らかい。
◇
決定打は休憩中だった。
玲がスマホを見て、
ふっと笑ったのだ。
それを見た瞬間。
元同僚たち、
全員顔を見合わせた。
(誰!?)
玲、
こんな顔するタイプだった?
◇
「で?
その顔の原因誰。」
ストレートに聞かれて、
玲はコーヒーを飲みながら笑う。
「んー?」
「とぼけんな。」
「恋人?」
玲は少しだけ目を細めた。
「まぁ。」
その瞬間。
「うわ、
マジか」
「玲が?」
「ちゃんと付き合ってる!?」
バックルーム、
ざわつく。
玲は笑ったまま。
「そんな驚く?」
「驚くでしょ。」
「すぐ飽きる男代表だったじゃん。」
「失礼。」
でも否定はしない。
◇
「どんな子?」
一人が聞く。
玲は少し考える。
それから。
「かわいい。」
「即答。」
全員笑った。
「年下?」
「25。」
「へぇ〜」
「かわいい系?」
「かわいい。」
「だから即答なんだって。」
玲、
全然隠さない。
しかも。
言う時の顔が柔らかい。
元同僚たち、
だんだん察する。
(あ、
これ重いやつだ。)
◇
「玲、
その子の話すると顔違うよね」
「そう?」
「めちゃくちゃ好きじゃん。」
玲は少し黙る。
それから小さく笑った。
「まぁ、
特別かもね。」
その言い方が、
妙に本気だった。
◇
営業後。
「飲み行かない?」
誰かが誘う。
すると玲は、
時計を見ながら即答した。
「今日は帰る。」
「珍し。」
「恋人待ってるから。」
一瞬、
空気が止まる。
「……は?」
「玲が???」
「帰りたがってる!?」
玲は楽しそうに笑う。
「そんな驚く?」
「驚くわ!!」
昔なら、
飲みも遊びも断らなかった男だ。
それが今。
恋人優先で帰る。
元同僚たち、
完全にざわつく。
◇
玲が帰ったあと。
スタッフルーム。
「……玲、
変わったね」
一人がぽつりと呟く。
「うん。」
「なんか、
ちゃんと幸せそう。」
以前の玲も楽しそうではあった。
でも今は違う。
落ち着いている。
満たされている。
誰かを大事にしてる顔だった。
◇
「でもちょっと見てみたいな、
その恋人。」
「わかる。」
「玲があそこまでになる相手、
気になる。」
すると。
一人の女性スタッフが思い出したように口を開く。
「あ、
この前ちらっと見た。」
「えっ!?」
「店の前まで迎え来てた。」
全員食いつく。
「どんな人!?」
「めちゃくちゃ綺麗だった。」
「綺麗?」
「清潔感すごくて、
静かな感じの人。」
そして。
「玲、
その人見た瞬間、
顔違った。」
その言葉で、
全員なんとなく察した。
「あー……
それは無理だわ」
「勝てないやつ。」
「玲、
完全に沼ってるじゃん」
元同僚たちは笑いながら、
しみじみ頷いた。
あの玲が。
誰かの隣へ、
真っ直ぐ帰っていく。
それがなんだか、
少し嬉しかった。
読んでいただきありがとうございます!
ー
毎日12時に投稿予定です५✍⋆*
続きが気になったら評価やブックマークをお願いします。




