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玲 誕生日編:「隣で見たい景色」


 八月十七日。


 玲の誕生日。


 なのに。


「……どうしよう」


 奏は数日前から、

 本気で悩んでいた。


 玲はおしゃれだ。


 センスも良い。


 アクセも服も、

 たぶん自分で全部選べる。


 だから余計に難しい。


「何あげたら喜ぶんだろ……」


 スマホで何度も調べる。


 でも、

 どれもしっくりこない。


 そんな時。


 ふと思い出した。


 玲が普段付けているピアス。


 シルバーばかり。


 だったら。


「……ゴールドとか」


 少し違うもの。


 でも、

 玲に似合いそうなもの。


 奏は小さく息を吐いて、

 アクセサリーショップへ入った。


 ◇


「プレゼントお探しですか?」


「……はい」


 店員に声を掛けられて、

 奏は少しだけ背筋を伸ばす。


「恋人さんへ?」


「……まあ」


 耳が熱い。


 店員は笑いながら、

 いくつかケースを並べた。


 奏は真剣に見る。


 派手すぎない。


 でも、

 ちゃんと存在感があるもの。


 玲の顔を思い浮かべながら。


 そして。


「……これ」


 細めのゴールドピアス。


 シンプルなのに、

 少しだけ色気がある。


 玲に似合う気がした。


 ◇


 誕生日当日。


 仕事終わりの玲を、

 奏は駅前で待っていた。


「お待たせ」


 玲はいつも通り笑う。


「今日どこ行くのー?」


「……秘密です」


「え、かわい」


「うるさいです」


 玲は楽しそうに笑いながら、

 奏の隣を歩く。


 そして到着した場所を見て、

 少し目を丸くした。


「……水族館?」


「ナイト営業、

 やってたので」


 夜の水族館。


 青い光。


 静かな館内。


 人も昼間より少ない。


 玲はチケットを見ながら、

 ふっと笑った。


「懐かしい」


「……初デート、

 ここだったなって」


 奏が少し照れながら言う。


 その瞬間。


 玲の胸が、

 じわっと熱くなった。


 覚えてたんだ。


 ちゃんと。


 しかも、

 誕生日に選んでくれた。


「……やば」


「何がですか」


「今日もう嬉しい」


 奏は少し困ったように笑った。


 ◇


 二人でゆっくり歩く。


 大水槽。


 クラゲ。


 青い反射光。


 初デートの時は、

 緊張でまともに話せなかった。


 でも今は。


 自然に隣にいる。


 玲が手を差し出す。


「ん。」


「……外なのに」


「恋人だからね」


 以前と同じ言葉。


 でも今は、

 奏もちゃんとその手を取れる。


 玲は少し嬉しそうに笑った。


 大水槽の前で足を止める。


 魚の群れが、

 青い光の中を泳いでいく。


 奏はその景色を見る。


 でも。


 玲はずっと奏を見ていた。


「……何ですか」


「いや」


 玲は少し目を細める。


「今日の奏、

 なんか好き」


「いつもみたいに言わないでください」


「あはは」


 でも、

 玲の声は本気だった。


 ◇


 館内を回り終えて、

 外へ出る。


 夜風が少しだけ涼しい。


 奏は小さく息を吐いて、

 バッグから小さな箱を取り出した。


「……誕生日、

 おめでとうございます」


 玲が少し驚いた顔をする。


「え、

 プレゼント?」


「はい」


 玲は箱を開ける。


 そして。


 止まった。


「……ゴールド?」


 奏の心臓が跳ねる。


「……嫌、でしたか?」


「いや」


 玲はゆっくり笑った。


「めちゃくちゃ嬉しい」


 本気の声だった。


「玲さん、

 シルバー多いから」


「うん」


「でも、

 ゴールドも似合う気がして」


 玲は数秒、

 ピアスを見つめる。


 それから。


「……これ、

 奏から見た俺って感じ」


「え?」


「いや、

 なんか嬉しい」


 玲は笑いながら、

 片耳のピアスを外した。


「付けて」


「今ですか?」


「今。」


 子どもみたいな言い方だった。


 奏は少し戸惑いながら、

 玲へ近づく。


 距離が近い。


 耳へ触れる。


 玲の体温が近すぎて、

 妙に緊張した。


「……できました」


 玲はスマホの画面を鏡代わりに見て、

 少し笑った。


「どう?」


 奏は思わず止まる。


 似合っていた。


 思った以上に。


 ゴールドが、

 玲の柔らかい髪色によく馴染んでいる。


「……似合います」


 小さく言う。


 玲はその顔を見て、

 ふっと笑った。


「その顔好き。」


「……っ」


 玲はそのまま、

 そっと奏の手を握る。


「今年の誕生日、

 人生で一番好きかも」


 奏は目を丸くした。


「大げさです」


「本気。」


 玲は歩きながら、

 少しだけ奏の手を引く。


「来年も隣にいて」


 夜の街。


 繋いだ手が、

 少しだけ熱かった。

読んでいただきありがとうございます!

毎日12時に投稿予定です५✍⋆*

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