第24話:「美容師は恋を隠せない」
「玲さ〜ん、今日も最高!」
「ほんと?」
「じゃあ次もっとかわいくする」
店内に楽しそうな声が響く。
玲は相変わらずだった。
距離が近くて、
褒め上手で、
笑顔が軽い。
鏡越しに女性客と笑っている姿なんて、
付き合う前と何も変わらない。
「……」
待合スペースに座りながら、
奏は小さく息を吐いた。
少しだけ、
胸がもやつく。
でも。
「お、奏来てた」
「ちょい待ってね」
玲が自然に目を合わせて笑う。
その瞬間、
胸のざわつきは少しだけ薄れた。
今は知っている。
あの人が特別に笑う顔を。
自分を見る時の目を。
だから前みたいに、
不安にはならなかった。
閉店後。
シャッターが下り、
静かな店に二人きりになる。
「はい、座って〜」
いつもの声。
奏が椅子に座ると、
玲は後ろから髪を乾かし始めた。
温風が耳元を掠める。
「……ねえ」
「はい」
「最初さ」
玲が笑う気配。
「絶対俺のこと苦手だったよね」
奏は即答した。
「チャラかったので」
一瞬の沈黙。
そのあと玲が吹き出した。
「ひどっ」
「だってほんとに」
「距離近いし」
「あはは」
「まあ否定はしない」
笑いながら、
玲の指が髪を梳く。
優しい手。
最初はあの距離感に慣れなくて、
美容院自体も苦手だった。
上京したばかりの頃。
どこの美容院へ行っても落ち着かなくて、
鏡を見るのも苦手だった。
でも玲だけは、
自然に“似合う”を見つけてくれた。
就活で黒髪にした時も。
社会人になってからも。
ずっと変わらず、
自分を見てくれていた。
「玲さんいなくなった時」
ぽつりと奏が言う。
「結構ショックでした」
「え、そんな?」
「……かなり」
玲が少し笑う。
「別の美容院行ったんだっけ」
「最悪でした」
「あはは」
「そんなに?」
「……玲さんじゃなかったので」
その言葉に、
玲の手が少し止まる。
鏡越しに目が合った。
奏は少し迷ってから、
静かに続ける。
「……でも今は」
心臓が少しうるさい。
それでも、
ちゃんと伝えたかった。
「玲さん以外に触られたくないです」
沈黙。
ドライヤーの音だけが止まる。
「……は?」
玲が固まっていた。
数秒、
本当に動かない。
奏は急に恥ずかしくなって、
視線を逸らす。
「……何ですかその反応」
「いや待って」
「今の反則」
玲が片手で顔を覆う。
「無理なんだけど」
「玲さん最近それ多いですね」
「あのね、
好きなやつにそんなこと言われたら無理なの」
玲は深く息を吐いてから、
そのまま後ろから奏を抱き寄せた。
「っ……玲さん」
鏡越しに目が合う。
玲は笑っていた。
でも、
隠す気なんて全然ない顔。
「もう隠す気ないんだけど」
「……仕事中はちゃんとして下さい」
「無理かも」
「してください」
「あはは」
玲は楽しそうに笑って、
最後に前髪を整える。
昔から変わらない、
慣れた手つき。
それから、
第一話と同じように笑った。
「はい、完成」
あの日とは違う。
ただの美容師と客じゃない。
触れる指先の意味も、
隣にいる理由も、
全部変わった。
玲は鏡越しに目を細める。
「次も俺指名してよ」
奏は少し笑って、
頷いた。
「……当たり前です」
END
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次回より付き合ってからの2人の様子をイベントごとに書いていきます♡
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