表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/42

第24話:「美容師は恋を隠せない」


「玲さ〜ん、今日も最高!」


「ほんと?」

「じゃあ次もっとかわいくする」


 店内に楽しそうな声が響く。


 玲は相変わらずだった。


 距離が近くて、

 褒め上手で、

 笑顔が軽い。


 鏡越しに女性客と笑っている姿なんて、

 付き合う前と何も変わらない。


「……」


 待合スペースに座りながら、

 奏は小さく息を吐いた。


 少しだけ、

 胸がもやつく。


 でも。


「お、奏来てた」

「ちょい待ってね」


 玲が自然に目を合わせて笑う。


 その瞬間、

 胸のざわつきは少しだけ薄れた。


 今は知っている。


 あの人が特別に笑う顔を。


 自分を見る時の目を。


 だから前みたいに、

 不安にはならなかった。


 閉店後。


 シャッターが下り、

 静かな店に二人きりになる。


「はい、座って〜」


 いつもの声。


 奏が椅子に座ると、

 玲は後ろから髪を乾かし始めた。


 温風が耳元を掠める。


「……ねえ」


「はい」


「最初さ」


 玲が笑う気配。


「絶対俺のこと苦手だったよね」


 奏は即答した。


「チャラかったので」


 一瞬の沈黙。


 そのあと玲が吹き出した。


「ひどっ」


「だってほんとに」

「距離近いし」


「あはは」

「まあ否定はしない」


 笑いながら、

 玲の指が髪を梳く。


 優しい手。


 最初はあの距離感に慣れなくて、

 美容院自体も苦手だった。


 上京したばかりの頃。


 どこの美容院へ行っても落ち着かなくて、

 鏡を見るのも苦手だった。


 でも玲だけは、

 自然に“似合う”を見つけてくれた。


 就活で黒髪にした時も。


 社会人になってからも。


 ずっと変わらず、

 自分を見てくれていた。


「玲さんいなくなった時」


 ぽつりと奏が言う。


「結構ショックでした」


「え、そんな?」


「……かなり」


 玲が少し笑う。


「別の美容院行ったんだっけ」


「最悪でした」


「あはは」

「そんなに?」


「……玲さんじゃなかったので」


 その言葉に、

 玲の手が少し止まる。


 鏡越しに目が合った。


 奏は少し迷ってから、

 静かに続ける。


「……でも今は」


 心臓が少しうるさい。


 それでも、

 ちゃんと伝えたかった。


「玲さん以外に触られたくないです」


 沈黙。


 ドライヤーの音だけが止まる。


「……は?」


 玲が固まっていた。


 数秒、

 本当に動かない。


 奏は急に恥ずかしくなって、

 視線を逸らす。


「……何ですかその反応」


「いや待って」

「今の反則」


 玲が片手で顔を覆う。


「無理なんだけど」


「玲さん最近それ多いですね」


「あのね、

好きなやつにそんなこと言われたら無理なの」


 玲は深く息を吐いてから、

 そのまま後ろから奏を抱き寄せた。


「っ……玲さん」


 鏡越しに目が合う。


 玲は笑っていた。


 でも、

 隠す気なんて全然ない顔。


「もう隠す気ないんだけど」


「……仕事中はちゃんとして下さい」


「無理かも」


「してください」


「あはは」


 玲は楽しそうに笑って、

 最後に前髪を整える。


 昔から変わらない、

 慣れた手つき。


 それから、

 第一話と同じように笑った。


「はい、完成」


 あの日とは違う。


 ただの美容師と客じゃない。


 触れる指先の意味も、

 隣にいる理由も、

 全部変わった。


 玲は鏡越しに目を細める。


「次も俺指名してよ」


 奏は少し笑って、

 頷いた。


「……当たり前です」


 END

読んでいただきありがとうございます!

次回より付き合ってからの2人の様子をイベントごとに書いていきます♡

毎日12時に投稿予定です५✍⋆*

続きが気になったら評価やブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ