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第22話:「恋人らしいこと」


「……なんで水族館なんですか」


 改札を出ながら、

 奏は隣を歩く玲を見る。


 玲は黒のゆるいシャツに、

 シルバーアクセ。


 休日仕様なのに、

 普通に格好良いのが悔しい。


「え、デートっぽいから」


「理由軽……」


「でも静かだし水瀬くん好きそうじゃん」


 そう言って笑う玲に、

 奏は何も言い返せなかった。


 実際、

 かなり好きだった。


 薄暗い館内。


 青い光。


 ゆっくり泳ぐ魚たち。


 人は多いのに、

 どこか静かで落ち着く。


「うわ、でっか」


 玲が水槽を見上げる。


 その横顔を見て、

 奏は少しだけ驚いた。


 なんというか。


 思ったより、

 玲がちゃんと楽しそうだった。


「……玲さんってこういうとこ来るんですね」


「何それ」

「俺どう思われてんの」


「もっとオシャレなバーとか行く人かと」


「あはは」

「偏見ひど」


 玲は笑いながら、

 自然に奏の肩を引き寄せる。


「危ない」

「人多い」


 近い。


 さらっと触れてくる。


 奏の心臓は一瞬でうるさくなった。


「……玲さんってほんと自然にそういうことしますよね」


「何が?」


「距離」


「恋人なんだからいいじゃん」


 さらっと言う。


 奏はもう、

 耳まで熱かった。


 館内を歩きながら、

 玲はやたら楽しそうだった。


「見て、あれ水瀬くんっぽい」


「どれですか」


「端っこで静かな顔してる魚」


「失礼すぎません?」


「あはは」


 写真を撮る距離も近い。


 肩がぶつかる。


 スマホを覗き込む顔が近い。


 そのたび、

 奏はまともに呼吸できなくなる。


 なのに玲は、

 平然としているように見えるから悔しい。


 クラゲゾーンに入る。


 暗い空間に、

 青白い光がゆらゆら揺れていた。


「……綺麗」


 思わず零した声に、

 玲がこちらを見る。


 その視線が妙に優しくて、

 奏は少しだけ落ち着かなくなる。


「奏」


 名前を呼ばれる。


「今日めっちゃかわいい」


 心臓が止まりそうになった。


「っ……急に何」


「いや普通に」

「ずっと楽しそうだから」


 玲は笑っている。


 でもその目が、

 本気で愛おしそうで。


 奏は視線を逸らした。


「……玲さんの方が浮かれてますよ」


「バレた?」


「めちゃくちゃ」


 服だっていつもよりちゃんとしてる。


 髪も、

 絶対いつも以上にセットしてる。


 たぶん、

 この人も今日を楽しみにしていた。


 そう思った瞬間、

 胸がじんわり熱くなった。


 クラゲ水槽の前で立ち止まる。


 青い光が、

 二人をぼんやり照らしていた。


 玲がふと、

 奏の手を取る。


「はぐれそうだから」


「……絶対嘘ですよね」


「バレた?」


 くすくす笑う声。


 でも、

 繋がれた手は離れない。


 指先が絡む。


 恋人繋ぎ。


 奏は思わず息を止めた。


「……玲さん」


「ん?」


「こういうの慣れてそう」


「失礼だな〜」


 玲は笑って、

 少しだけ手を握り直す。


「でも」

「好きなやつ相手だと普通に緊張するよ」


 その言葉に、

 また胸が苦しくなる。


 玲はずるい。


 こんな風に、

 何度でも“恋人なんだ”って実感させてくるから。

読んでいただきありがとうございます!

毎日12時に投稿予定です५✍⋆*

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