第12話:「わかりやすい嫉妬」
「水瀬さんって彼女いないんですか?」
会社の給湯室で、
突然そんなことを聞かれて、奏は思わず手を止めた。
「……え?」
振り返ると、
後輩の篠崎が気まずそうに笑っている。
「いや、なんか普通に気になって」
「優しいし、モテそうなのに」
「別に……いないけど」
「やっぱり」
どこか嬉しそうな顔。
奏はなんとなく察してしまい、
それ以上会話を広げないようコーヒーを持ってその場を離れた。
——絶対、気のせいだ。
そう思いたかった。
でも最近、
篠崎はやたら距離が近い。
昼を誘われたり、
仕事終わりに連絡が来たり。
嫌ではない。
むしろ後輩としては可愛い方だ。
けれど、
恋愛対象として見られている気がすると妙に落ち着かなかった。
その週末。
「……へぇ」
玲が低い声を出した。
奏は鏡越しに視線を上げる。
「何ですか」
「いや別に」
言いながら、
玲は明らかに機嫌が悪い。
カットクロスを整える手つきが、
いつもより少し雑だった。
「で、その後輩ちゃんとは最近どうなの」
「どうって」
「よく話すんでしょ?」
奏は小さく瞬きをする。
なんで知ってるんだ。
「あー、顔」
玲が笑う。
「今、“なんで知ってるんだ”って顔した」
「……」
「わかりやす」
奏は小さくため息を吐いた。
数日前、
仕事の愚痴をこぼしている流れで、
何気なく篠崎の話をしてしまったのだ。
それを玲は妙に覚えていたらしい。
「別に普通の後輩ですよ」
「ふーん」
玲は興味なさそうに返事をする。
でも、
明らかにいつもと違う。
「……玲さん」
「んー?」
「今日なんか変じゃないですか」
「何が」
「……不機嫌」
その瞬間、
玲の手がぴたりと止まった。
鏡越しに目が合う。
数秒、
沈黙。
それから玲は、
ふっと笑った。
「水瀬くんさ」
「はい」
「その子、お前のこと好きじゃない?」
奏は固まった。
「……は?」
「いや絶対そうじゃん」
「違いますって」
「えー?」
玲は納得いってない顔をしている。
「だって最近よく話題出るし」
「連絡も来るんでしょ?」
「仕事の話です」
「ほんとに?」
玲が鏡越しにじっと見る。
その視線が妙に強くて、
奏はうまく目を逸らせなかった。
「……仮にそうだとしても」
「うん」
「別に関係ないじゃないですか」
言った瞬間、
玲の表情が少しだけ止まる。
空気が変わった気がした。
でも玲はすぐ、
いつもの軽い笑顔に戻る。
「まあね」
さらっとした声。
なのに。
前髪を直す指先だけ、
妙に乱暴だった。
「いて」
「あ、ごめん」
全然悪びれていない。
玲はそのまま髪を触りながら、
ぼそっと言った。
「……なんかムカつく」
「え?」
「いや、なんでもない」
鏡越しに笑う。
でもその笑顔は、
少しだけ引きつって見えた。
奏は胸の奥がざわつくのを感じながら、
黙って視線を落とした。
こんなの。
まるで嫉妬みたいだ、
なんて。
そんな都合のいい考え、
できるわけないのに。
読んでいただきありがとうございます!
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玲がわかりやすく嫉妬する回です
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