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タンスから現れたのは前世で幼なじみだった魔法使いでした  作者: 碧衣 奈美
第一話 風の約束

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1-08.妹になった事情

 祖父の手を離れた幼い少女がそう言いながら抱き付き、事情がさっぱりわからないユニ・ブランは目を白黒させた。

 この時、トゥレーヌはまだ三つになったばかり。ユニ・ブランは五歳で、幼い彼女には詳しい事情がよく理解できなかった。

 弟や妹がいる友達は周りにいたが、こんなふうにできるものなのだろうか。たぶん、違うと思うのだが、祖父ははっきり「妹だ」と言った。

 これが「新しいお友達だよ」と言われたのなら、まだわかるのだが……。

 しかし、一緒に生活するようになったので「お友達」ではない。友達なら、遊び終わればそれぞれの家へ帰るはずだから。

 トゥレーヌが来た事情がユニ・ブランにもわかるようになったのは、それから二年程経った頃だ。

 トゥレーヌは、マルベックの友人オッドの、そのまた友人の息子夫婦の子どもだった。

 もちろん、マルベックとは血もつながっていないし、そもそも彼はオッドの友人も、その息子夫婦にも会ったことはない。

 トゥレーヌの両親は、彼女が一つになる前に事故で亡くなった。母方の祖父母が彼女を引き取ったが、一年と経たずに二人も亡くなってしまう。

 他に引き取ってくれるような親戚筋もなく、孤児となったトゥレーヌをオッドが見かねて引き取った。

 だが、彼の妻はすでになく、小さな子を一人で育てるのは難しい。それに、彼自身にも妻のいる場所へ行く日が近付いていたのだ。

 そうなると、残されるのはまだ自分のこともろくにできない幼子一人。このまま手をこまねいている訳にはいかない。

 オッドは顔の広いマルベックに、里親を探してくれるように頼んだ。

 その頃にはもう引退していたが、マルベックはシェルヴァンナの魔法使いを統括する責任者だったこともあり、人脈もある。彼なら、信頼できる人間を紹介してくれるはずだ、と考えて。

 マルベックは友人の遺言とも言えるこの頼みを、二つ返事で引き受けた。

「それなのに、どうしておじいちゃんが引き取ることにしたの?」

「その話を聞いた時は、もちろんわしも責任を持ってちゃんと里親を探すつもりでおったよ。しかしなぁ、初対面にも関わらず、あんな風になつかれてしまうとな」

 初めて会った時にあっさりとユニ・ブランになついたように、トゥレーヌはマルベックにもすぐになついてしまった。

「それに、一時的とは言えうちへ来て、またよそへ連れて行く、というのもかわいそうな気がしてな。まだあんなに小さいのに、次々と養い親が変わって……などと思うと、人に任せられん気になってしまった」

 それまで、ユニ・ブランは祖父のマルベックと母の三人家族だった。マルベックが小さな女の子を連れて来た日から、四人家族に変わる。

 そして、トゥレーヌにもまた、新しい家族ができたのだ。

☆☆☆

「サンジュリアンは相棒って言うてたけど、コンビ組んでたんか?」

 ユニ・ブランに尋ねてみたが……飛鳥が言うと、漫才のようだ。

「あなた達は腕がよくても経験が浅いし、年齢的にもまだ半人前だったからね。魔法が関わったようなことに顔を出す時は、いつも一緒だったわ。幼なじみだし、二人ともうちのおじいちゃんに魔法を習っていたから、一緒にいる時間がさらに長くなったんでしょうね」

 一緒の時間が長かった相手に忘れられれば、拗ねてしまうのも仕方ないかも知れない。

 もっとも、飛鳥にすればそれは前世の話になるのだから「しっかり覚えていろ」と言われても、ちょっと困る。

「けど、昔のうちって、えらい無茶なこと、言うてたんやな」

「無茶って?」

「そう思わへんか、ナーチェ? 別の世界で生まれ変わるゆうのがわかったかて、そこへ来い言うとか無茶やんか。なんぼ魔法が使えても、別次元へ行くのって危ないことやろ? それをせぇって言うてるんやから」

 さっきリラックは「トゥレーヌは、この世界から断ち切られるのがいやだったのだろう」と言った。

 でも、考えてみるとトゥレーヌに限らず、死んだら誰だってそれまでのはず。

 それなのに、まるで「迎えに来い」と言わんばかりの言い方でサンジュリアンに遺言をしていたのは、余程この世界に未練、もしくは愛着があったのだろうか。

「トゥレーヌ流の挑発だったのかもよ。やれるもんならやってみなさいって」

「あー、ありえそうやな」

 サンジュリアンが相手なら、やりそうな気がする。

 記憶がない今でも、そう思えた。

「でも、サンジュリアンは真剣だったのよ。ここにトゥレーヌがいてくれれば、きっと助けになるって」

 その言葉に、飛鳥はユニ・ブランの方を見た。

「ほんまに、真剣にやってたんか?」

 飛鳥は、サンジュリアンがタンスから部屋へ現れた時のことを二人に話す。ナーチェはそれを聞いて、笑い出した。

「いきなり来て悪かった、忘れてくれですって? そりゃ、そんなこと言われて、さよならなんて言えないわよねぇ。相手がトゥレーヌだってこと、わかってるでしょうに。トゥレーヌでなくたって、忘れられないわよね。単なる不審者じゃない」

「間違いなく、彼に交渉ごとは向かないわね」

 ユニ・ブランも苦笑している。

「でも、彼なりに気を遣ったのよ。魔法が使えないあなたをここへ連れてきても、危険な目に遭わせてしまうだけでしょ。サンジュリアンは魔法が使えないらしいとわかった時点で、巻き込むのをやめようとしたのよ」

「そうかなぁ。たとえそうやったとしても、せめて陰で偵察してから、出て来るべきやったな」

 話を聞けば、彼の言動もわからないではない。

 半分は思い出してもらえなかったことを拗ねた、というのもあるだろうが、今の飛鳥を魔法の世界へ連れて行くのはよくない、と思い直したのだ。

「前世のうちも、ほんまにあほなこと言うたもんやな。スムーズに生まれ変わっても、魔法使いかどうかもわからんのに来いやて……」

 どういう状況の未来を見て、そんなことを言ったのだろう。魔法使いではない、ということがわからなかったのだろうか。

 だとしたら、未来を見るというその魔法は、半分失敗していたようなものだ。

「今回のことがなくっても、きっとサンジュリアンはトゥレーヌを探しに行ってたわね。彼女がいなくなってから、長い時間落ち込んでいたもの。姿が変わっても、やっぱりトゥレーヌに会いたいって思ってたはずよ。もちろん、幼なじみのあたしもだけど」

「うち、人気者やってんな」

「ええ。だっていつも元気だし、サンジュリアンとの口ゲンカは横で聞いてると楽しいし、魔法の腕は一級品だし」

 自分のことでもないのに、ナーチェは自慢げに話す。過去の自分ではあってもほめられているには違いないし、飛鳥も気分がいい。

「……実を言うとね。彼、もっと前から探していたらしいのよ」

「え、助けがいらん時にも、うちを探してたん?」

 ユニ・ブランが小さくうなずく。ナーチェも初めて聞いた、という顔。

「飛鳥の前に顔を出すつもりでいたのかどうかは知らないけれど、探していたの。でも、別世界と言ってもどれだけの数があるかなんて、わからないでしょ。それにうまく道がつながらなかったりで、ずっと失敗していたみたいなのよ」

「それで、やっと見付けたって言うてたんやな」

 あの時のサンジュリアンの顔。これまでの努力がやっと実った、というような表情をしていた気がする。

 それは全てトゥレーヌに、飛鳥に会うため。

「ふぅん。サンジュリアンって、やっぱり純情なのねぇ。いーっつも、トゥレーヌには減らず口ばっかりたたいてたのに」

 ナーチェはユニ・ブランの話を聞いて、くすくす笑う。

「そう言うナーチェこそ、おとなしそうな顔の割に、言いたいことはずばずば言うてるやん」

「ええ。だってトゥレーヌの友達だもの。と言うより、トゥレーヌに鍛えられたのよ。これでも、昔は内気だったんだからね。だけど、言われたら言い返すくらいの性格にならなきゃ、とても彼女の友達なんてやってらんないわ」

 何だか、自分に似ているような気がする。

 髪色がどうとかは関係なく、彼女が姉妹だと言われたら、飛鳥はきっと納得してしまいそうな気がした。

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