1-07.サンジュリアンとの仲
「ああ。闇の世界から呼び出されたのなら、暗い場所にいるはずだな。だとすると……魔の森辺りか。姿がわかるなら、今までよりも見付けやすくなるな」
グルナッシュも、同じように立ち上がり、ユニ・ブランの方を向く。
「ユニ・ブランは、子ども達についていてくれ。魂を戻さなければ、どうしようもないだろうが」
「わかったわ」
シェルヴァンナの魔法使いは、ここにいる四人とさっき出て行ったアロース・コルトン。あとは、彼らより実力が下の者が十数名。
この部屋へ入る前、リラックはエルファンジュの魔法使いに援助を求める通信魔法を行っていた。何名来るかはともかく、その人数で街を守らなければならない。
「急ごう。いつ次の被害者が出るか、わからない」
リラックの声で、サンジュリアンやグルナッシュ、そしてジュリエンナ姫が部屋を出て行く。
それを見送っていた飛鳥は、はっとなった。
「ちょっと、待ってぇな。うちはどないしたらいいのん」
「ユニ・ブランと一緒にいろ」
サンジュリアンが冷たく返す。
「うちが一緒にいなあかんのは、あんたらの方とちゃうんか。そやなかったら、うちは何ためにここへ来たんやな」
「記憶があいまいなら、力もあいまいのはずだろ。そんな奴を連れて行ったら、魔物が見付かった時に足手まといになる」
「はあっ?」
サンジュリアンの言い方に、かちんとなる飛鳥。
「そんな言い方ないやろ。人手がいる言うたくせに」
「俺はもういいって言ったぞ。それなのに、強引について来たのはそっちじゃないか」
「うちのタンスの中に道まで作っといて、よう言うな」
「サンジュリアン、ケンカは後にしろ」
リラックが冷静な顔で、サンジュリアンを引っ張って行く。
「飛鳥、広間へ戻りましょう。ナーチェもいるし」
ユニ・ブランが飛鳥をなだめて、広間の方へとうながす。
「サンジュリアン、戻って来たらうちの所に来ぃや。ゆっくり話つけたるし」
「ああ、魔物を消滅させたら、すぐに送り返してやるよ」
サンジュリアンの姿が廊下の角に消え、声だけが響く。だが、それもすぐに聞こえなくなった。
(何でケンカしやなあかんの。ケンカするために、ここへ来たんとちゃうやん)
さんざん言った後で、飛鳥は自己嫌悪に陥る。
目的なんてないに等しいが、サンジュリアンとケンカをするために異世界のシェルヴァンナまで来たのではない。
うち、いつの間にこんなケンカっ早くなったんかなぁ。
サンジュリアンの消えた方を眺め、飛鳥は小さくため息をついた。
☆☆☆
「なぁ、トゥレーヌって、どんな人間やったん?」
広間へ戻ると、ナーチェや数人の女性が意識のない子どもや、その親の世話をしていた。
一段落して、飛鳥のそばへ来たナーチェに尋ねてみる。
「どんなって言われても、一言じゃね。んー、そうね。若いのに魔法使いの腕は一流だけど、普段は元気で無鉄砲な女の子って感じかしら。その辺りは、サンジュリアンにも言えることだけどね。だから、二人は気が合ってたのかしら」
いわゆる、似た者同士。それとも、類は友を呼ぶ、か。
「無鉄砲を通り越して、無謀とも言えるようなこともよくやってたわね。自分でもよく無茶なことをするくせに、サンジュリアンがトゥレーヌをいさめようとしたりしてたわ」
「サンジュリアンと仲よかったんか?」
「ええ。今回みたいに魔法がらみで何かが起こった時は、大抵一緒に行動していたわ。よく口ゲンカもしていたけど、ケンカする程仲がいいって言うもの。見ていて面白かったわ」
つまり、さっきのような状態は日常だったらしい。
もしかして、ケンカっ早くなったんと違て、あれがサンジュリアンとしゃべる時の普通の状態なんかな……。
話を聞いて、飛鳥はさっき自己嫌悪に陥ったことがバカらしくなってきた。
「サンジュリアンって、あれで結構真面目だし、なかなかいい男のくせに、妙に子どもっぽかったり、純情だったりする時があるのよね。そこがまたかわいいんだけど。十八でもあんなだから、きっとこのまま大人になってもあまり変わらないわね」
さっき飛鳥がちょっとからかったら赤面していたが、きっとそういう部分のことをナーチェは言っているのだろう。
言われてみれば、自分の名前が後回し状態になって、拗ねてもいた。確かに、子どもっぽい。
「口ゲンカばかりだったけど、トゥレーヌがサンジュリアンのことを一番の友達と思っていたのは確かよ。だって、二人が魔法を使う時なんて、息がぴったりだったもの。それに、あなたが生まれ変わるなんて話をしたの、彼にだけだもんね。姉のユニ・ブランにさえ、その話はしていなかったんだから」
「え、ユニ・ブランが姉? うちら、姉妹やったんか?」
ナーチェの言葉に、飛鳥はきょとんとなる。
トゥレーヌの家族構成までは、まだ聞いていない。記憶も浮かんでこない。初耳状態である。
ユニ・ブランが姉……と聞いても、飛鳥はまるでピンとこない。飛鳥、つまりトゥレーヌとユニ・ブランとでは、顔が全く似ていないからだ。
彼女は薄い金色の髪に、緑の瞳をしている。片や、黒い髪と、黒い瞳の飛鳥。
ユニ・ブランは、ややヨーロッパ系の顔の造作。目鼻立ちこそはっきりしているが、飛鳥はどう見てもアジア系の顔。
背は飛鳥よりユニ・ブランの方が高いが、強く腕を掴んだら折れてしまいそうに細い。標準体型だが、どこかたくましさを感じさせる飛鳥。
顔も体型も、この二人では似ても似つかない。
髪や瞳の色だけで言うなら、サンジュリアンやナーチェの方がずっと近い関係に思える。兄弟姉妹とまではいかなくても、いとこなら通りそうだ。
「ああ、違うわよ。トゥレーヌは、孤児だったの。ユニ・ブランのおじいさんのマルベックが、トゥレーヌを引き取って育ててくれたのよ。だから、彼女は姉みたいなものでしょ? 実際、姉妹みたいに暮らしていたんだしね」
似ていないのも、当たり前であった。血のつながりは皆無なのだ。
「おじいちゃん子やって自分でも思てたけど、そんな過去があってんなぁ。納得するわ。おじいちゃんは?」
「去年の冬に。お母さんもその後で」
「そうなんや……」
ここにいれば、ユニ・ブランのように抱きしめられていただろう。
「孤児かぁ。今は、ちゃんと両親がいるけど」
「あら。じゃあ、飛鳥は幸せなのね、向こうの世界で」
ユニ・ブランが来て、話に加わる。
「うん。ユニ・ブランって、お姉ちゃんやってんな。そこまで思い出せへんかったから、言われるまでわからんかった。ごめんな」
最初に会った時、抱きしめられた。彼女にすれば、いなくなった妹が戻って来たようなものだったのだ。
「いいのよ。いきなり連れて来られて、全てをすぐに思い出すなんて無理だわ」
色白の魔法使いは、笑ってそう言ってくれた。
「なぁ、ユニ・ブラン。今、向こうの世界で幸せなんやなって言うたけど……確かに、両親がいるのは幸せなんやけど。昔のうちも、十分に幸せやったと思うで。親がおらん、とかそんなん関係なく」
「そう?」
「うちの周り、見回したらわかるやんか。むっちゃええ人ばっかりやもん。ユニ・ブランみたいな人がお姉ちゃんやったら、うちが不幸せなはず、ないやん」
「ありがとう」
それを聞いたユニ・ブランは、本当に嬉しそうな顔を飛鳥に向けた。
☆☆☆
ある暖かい日の午後。
出掛け先から戻って来た祖父が小さな女の子を連れているのを、ユニ・ブランは不思議そうに見ていた。
会ったことのない子どもだ。
肩までの黒い髪に、黒い瞳。自分より二つか三つくらい下だろうか。
「おじいちゃん、この子、だぁれ?」
「あたし、トゥレーヌ!」
マルベックが答えるより早く、女の子が自分で答えた。
ずいぶん元気な子だ。目がきらきらしている。
「今日からお前の妹だよ、ユニ・ブラン」
マルベックが、笑みを浮かべながら答える。
「いもーと?」
祖父の言うことがよくわからず、ユニ・ブランは繰り返す。
「トゥレーヌ、この子はユニ・ブラン。今日から、お前のお姉さんだ」
マルベックはトゥレーヌと答えた女の子の前にしゃがむと、ユニ・ブランを差しながら言った。
「おねーちゃん? トゥレーヌ、ユニ・ブラン、しゅき」
え、しゅきって……好きってこと?





