1-06.原因の特定
サンジュリアンは「いってぇなっ」と文句を言いながら、飛鳥をにらむ。
「最期まで病気だなんて一言も言わないで逝っちまうんだから、水臭いなんてもんじゃねぇよ。あたしは別世界で生まれ変わるわ、もしあたしの方が先に死んで会いたくなったら来てね、なんて笑顔で言いやがんの。何だよ、もしって。お前、自分が長くないって、あの時にはもうわかってたんだろ。事故で死ななくても、一年も保たないって」
「今のうちに言わんといて。覚えてへんねんから」
当時の自分が思わせぶりな言い方をして申し訳なかったな、とは思うものの、記憶がないので飛鳥にとっては他人事のようにも思えてしまう。
生まれ変わった人間の記憶なんて、こんなあやふやなものなのだろうか。
「……けど、探したゆうことは、何やかんや言うても、サンジュリアンはうちに会いたかったんやなー」
飛鳥は笑いながら、サンジュリアンの肩を叩く。
「う、うるせ。人手が欲しかったからだっ」
そう怒鳴り返すサンジュリアンの顔が、赤くなる。
「飛鳥、今はここまででいいか? きみのことばかりも話していられない」
リラックに言われ、飛鳥はうなずいた。
「あ、うん。ええよ。あとはみんなにちょこちょこ聞いていくし」
とりあえず、自分が魔法使いで、別世界、つまり飛鳥の住む世界に生まれ変わると告げて死んだ、ということがわかった。
みんながすぐに飛鳥をトゥレーヌの生まれ変わりだとわかるのは、飛鳥が見事に前世と同じ顔形をしているからだ。
髪型だけが、昔は長く、今はショートカットというだけで、他はまるで変わっていないらしい。
わかりやすくていいのかも知れないが、そのおかげで幽霊を見たような表情をされることが、複雑と言えば複雑。
何となくでも似てる、という程度なら、目を見開かれることもなかっただろう。逆に、何となく見覚えがあるような……という顔で凝視されるかも知れない。
「それじゃ、次は現在の話をしてもらえるかしら、リラック」
ジュリエンナ姫が、話題を現実に戻した。
「リラック、エルファンジュで何を聞いて来たんだ?」
グルナッシュの問いに、リラックはさっきまでより低い声で話し始めた。
「まず、今回の仕業に魔物が関わっていることは、間違いない。直接この目で見てはいないが、形としては獅子の姿で、身体の表面は白いウロコに覆われているらしい。奴は赤い玉を持ち、恐らくその玉の力で子ども達の魂を抜いている」
「質問していい?」
飛鳥が挙手をし、リラックがうなずいた。
「その魔物は、何のために魂集めてんの?」
「自分のエネルギーとしてだろう。魔物によっては、人間の肉体及び魂は絶好のエネルギー源となる」
「要するに、そいつはエサを集めてるようなもんやな。狩りみたいなもんか?」
人間狩り。あまり考えたくない。
「似たようなものでしょうね。それに、子どもを好む魔物も多いから」
ユニ・ブランが代わりに答える。
「しかし、どうしてエルファンジュでそんな話を仕入れたんだ。あっちにも被害が及んでいるのか?」
グルナッシュの質問に、リラックは静かに首を横に振った。
「エルファンジュのある魔法使いが術に失敗して、魔物が呼び出されてしまった。それが風に乗って、シェルヴァンナへ来てしまったんだ」
それを聞いて、飛鳥は眉根を寄せる。
「何、それ。ほんなら、あの子らはとばっちり受けてんのか?」
「……そういうことだ」
リラックは話を続けた。
彼はさっきいた銀髪の少年アロース・コルトンと一緒に、シェルヴァンナの隣国であるエルファンジュを訪れていた。
定期的に行われる魔法使い同士の国交で、彼がシェルヴァンナの代表としてアロース・コルトンを共に連れて。
その帰る際になって、リラックはエルファンジュの魔法使いから内密に呼ばれた。
相手が魔法使いの最高責任者であり、その深刻そうな顔を見て、リラックは「あまりいい話ではないな」と予想する。
ある程度の心づもりはしていたが、打ち明けられた内容は考えていた以上によくない話だった。
とある若い魔法使いが禁断の魔法である未来を見る術を行って失敗し、闇の世界から魔物を呼び出してしまった、と言うのだ。
魔物は闇からいきなり光のある世界へ引っ張り出され、目がくらんで暴れるうちにその魔法使いを殺してしまった。
魔物はそのまま外へ逃げてしまい、殺された魔法使いは「禁断の術を行っている」という自覚から隠れてやっていたため、発見が遅れてしまったのだ。
たまたま、その魔物をある農夫が見掛けた。それが獅子の姿を持ち、うろこに覆われた姿をしていたらしい。
まだ光の世界に目が慣れていないらしい魔物は、風に乗るようにして移動していたという。
赤い玉のような物を持っていた、という証言で魔法使いが調べたところ、殺された魔法使いがよその国で手に入れた魔法道具の一つだったらしい。
自然の力を吸収し、それを自分の魔力に生かせるという物だ。
だが、それが魔物の手に渡り、魔物は自然の力の代わりに子どもの魂を吸収しているのだ。
風の向きがたまたまシェルヴァンナだったために、シェルヴァンナの子ども達が被害に遭って。
「自分達も捜索してみるが、風はシェルヴァンナへ向かってしまった可能性が高い。そう言われたので、魔除けの護符を少し多めにもらって来た」
さっきアロース・コルトンが出て行ったのは、子どものいる家庭にその護符を配るだめだったのだ。魔物を寄せ付けない印が書かれたもので、気休めにはなるはず。
もちろん、その魔物の力が強大であれば役には立たないが、何もしないよりはいい。
エルファンジュの魔法使いは、魔物はまだその護符の力を破る程の魔力はないはず、と考えているようだ。
「禁断の魔法って……さっき聞いた、トゥレーヌが死ぬ前にやった魔法もそれ?」
自分が別の世界で転生する、というのは、当時の自分から見れば未来の話。それを知った、ということは……。
「そうだ。彼女の場合は、幸い成功したようだが。あの魔法は呪文が難解な上、術を行っている者の周囲の場がひどく不安定なものになる。一瞬の失敗が、今回のように命取りになる場合もあるんだ」
エルファンジュでは、人々がパニックにならないよう、魔法使い達はそのことを公にはせず、魔物の行方を追っている。
だが、シェルヴァンナではそんな必要はない。いや、それどころか、人災でも天災でもなく、魔物の仕業以外に考えられない、と魔法使い達が断定し、注意をうながすために王女自らが知らせて回った程だ。
まだ確定していないのに、魔物だと知らせてはパニックが起きてしまう、という反対の声もあったが、意識を失った子ども達を魔法使いが診る必要があった。
人数が増え続けているだけに、隠れてできることではなく、黙っていておかしな噂が流れたりすれば、結局パニックになりかねない。
それなら真実を告げて、何かあった時のための協力態勢を作っておこう、ということになったのだ。
「ほんなら、風が逆に吹いてたら、シェルヴァンナは平和なままやったってことか」
「少なくとも、シェルヴァンナの子ども達があんな状態にならなかったのは確かね。でも、場所が違うだけで、同じことがどこかで起きているはずよ。ここが平和でも、あなた達魔法使いはその魔物が向かった先の国から援助を求められていたでしょうね」
「ジュリエンナ姫って、魔法は使えへんかったっけ?」
お姫様相手でも、言葉遣いの変わらない飛鳥である。
「私にそんな力はないの。せいぜい、剣を振るえる程度。魔物が相手なら、魔法使い達に防御の魔法をかけてもらわないと、簡単にやられてしまうわ」
せいぜい、とは言っているが、きっと姫の剣の腕はすごいはずだ。
ジュリエンナ姫は、飛鳥の気紛れに浮かぶ記憶によれば、このシェルヴァンナの第一王女だ。そんな人が、伊達や酔狂で戦士のような格好などしないだろう。
「王様は?」
「父には、情報が入ればその都度報告しているわ。何かあった時、最終判断は父がするから」
最高位にいる人間は、一番奥にいて指示を出す。
それは、世界も国も関係ないようだ。
「とにかく、魔物の正体はわかったんだ。あとは居場所だな」
サンジュリアンが立ち上がった。





