2-19.魔法を解く方法
「人を呪わば穴二つって言葉、ほんまやったんやな。あっちには呪われる理由があるんやから、ざまーみろって思うけど……みーやん、怒ってるやろなぁ」
それだけシェルヴァンナにいなくてはならなくなる。三樹利としては、早く飛鳥と友希乃を連れて戻りたいと思っているから、この状況は好ましくないだろう。
「あの人ね、前に飛鳥が付き合ってる人がいるって言っていた彼は。優しそうな人じゃない」
「うん。変に生真面目なとこもあるけど」
「飛鳥に比べたら、誰でも生真面目になるんじゃないの?」
「そんなことないって。ゆきちゃんも、割とうちに似てるし」
「……じゃ、彼女が元に戻ったら、飛鳥が二人になっちゃうってこと? それって、すごく危ないわね。あなたの世界、大丈夫なの?」
「どういう意味やな」
飛鳥が渋い顔をし、ナーチェがくすくす笑う。
「大丈夫よ、飛鳥。三樹利は怒ってなかったから。他の魔法使い達も、私がさっき飛鳥に言ったのと同じことを、彼に話していたわ。ちゃんとわかってくれているから」
「けど、ユニ・ブランにも迷惑かけてしもてるなぁ。ベルバラが普通に捕まってたら、余計な苦労せんで済んだのに」
「飛鳥、言っても仕方がないことばっかり言わないの。あなたらしくないわ。自分を責めて、友希乃が早く元に戻るなら私も止めないけど。あれこれ言ったところで、何もいいことは起きないでしょ。もうこの話はやめなさい」
少し落ち込み掛ける飛鳥を、ナーチェは強い調子で元気づける。
「ナーチェ、何かお母さんみたいや」
「やぁね、やめてよ。同い年なのに。あ、今はあたしが二つ上になってるのよね」
飛鳥の前世、トゥレーヌの時はナーチェと年が同じだった。
「リラックやらは、どこ行ったん?」
「魔法道具の置かれてる部屋へ行ったんじゃないかしら。またこんなことが起こらないように、警戒の仕方を考えるみたいなこと言ってたから」
例の杖を取りに、飛鳥もあの部屋へ入っている。その後で、同じようにあの部屋へ入った泥棒がいないことを、飛鳥は祈った。
何せ万人解放状態だったから、盗みに入ろうと思えばいくらでも入れる。警戒するのが遅くなければいいのだが。
「ベルバラからあの道具を取り返せただけでも、よかったな。悪人の手に渡ったら、やばそうなんばっかりやったし」
「そうね。あたしもどれだけの力があるのか知らないけど、持つ魔法使いによって恐ろしい物になりえるんだもの」
「うちが持ち出した道具も、使い様によっては怖いよ。こっちが攻撃しようとしたって、相手に届くまでに力が弱くなるもん。あれ……」
「どうしたの、飛鳥」
ふいに飛鳥が黙り込み、ナーチェが飛鳥の顔を覗き込む。
「あの杖、ゆきちゃんにも効果ないやろか」
「え、あの杖って?」
ナーチェは魔法使いではないので、魔法道具のことも具体的にははっきり知らない。
「魔力を弱める杖や。あれやったら、ベルバラの魔法を弱くすることもできるんとちゃうかな」
「んー、あたしにははっきり答えられないわね。そういうことは、リラック達に聞いてみれば?」
「うん、そうするわっ」
飛鳥は言いながら、すでに走り出していた。
「相変わらず、慌ただしい子ねぇ」
落ち着く時間の少ない飛鳥の後ろ姿を眺めながら、ナーチェはつぶやいた。
「リラックーッ、いるかー」
例の部屋の近くまで来ると、飛鳥は大きな声で呼んだ。
「……どうしたんだ、飛鳥。賑やかだな」
部屋からリラックではなく、グルナッシュが顔を出す。
「あんな、うちが持ち出した杖なんやけど」
「また貸してくれ、なんて言い出すつもりじゃないだろうな」
「……そう」
わざと言ったのに、肯定されてグルナッシュの顔が少し引きつる。
「冗談だろ?」
「ううん、本気。どぉしてもあれが必要やねん……と思う」
まだ思い付いただけ、の段階だった。断言してしまうのはやめておく。
「飛鳥、あの杖で何をするつもりなんだ?」
また飛鳥が難問をふっかけそうなのを察してか。リラックが顔を出した。
「ゆきちゃんにかけられた魔法を、解くのに使うんや。うまくいきそうな気がすんねんけど」
飛鳥は思い付いたことを、二人の魔法使いに話した。
「なるほど。かけられた術を解くのに使ったことはなかったが、やり方によってはうまくいきそうだな」
グルナッシュが、飛鳥の話を聞いてうなずいた。
「それなら、両方の杖を使えば、成功率が高くなる」
「両方って、あの力を強くする方の杖も使うんか?」
「そうだ。増幅の杖で、弱体化の杖の力を増やす」
「……とにかく、二つとも利用するてことやな」
飛鳥にはよくわからなかったが、とにかくリラック達がうまくやってくれるだろう。
「なぁ、みーやん、どこ行ったか知らん? ゆきちゃんが思ってたより早く元に戻れそうって、教えたい」
「三樹利なら、中庭の方にいるんじゃないかな。彼のことだから、黙ってどこかに行くってことはないだろう」
「グルナッシュ、なーんかうちに言いたいことあんの?」
「いや、別に……」
笑いを浮かべる魔法使いをちょっと横目で睨み、飛鳥は中庭の方へと走って行った。
☆☆☆
三樹利は少し息抜きがしたくて、外へ出ていた。
飛鳥はこの世界の友達と話をしているようだし、友希乃のそばにいても三樹利には何もできない。
せっかく、と言っては何だが、今までのことを考えれば休み時間ができたようなもの。少し休もうと思ったのだ。
「三樹利」
通り掛かったサンジュリアンが、三樹利を見付けて声をかけた。
「どこか具合でも悪くしたか?」
「いや。ちょっと疲れただけや」
魔法なんて、本や映像の中でしか知らなかった。実在するとも思っていなかった。
それが、いきなり本当に存在している世界へ来てしまい、魔法使いを相手に対峙していたのだ。
殺されそうにもなり、目の前で魔法のバトルまであった。さらには(翼はちらっとだけだが)ペガサスまで見て。
普通に生活していたら、ありえないことばかりが起きたのだ。疲れもする。
「いつも何やかやとしょおもないことしでかしよるけど、魔法が使えるとさらに事態がでかなってしまいよるな」
シェルヴァンナで起きたことを、飛鳥は夢の中の話としてしゃべっていた。今なら、わかる気がする。
こんなことを事実としてしゃべっても、誰も信じはしない。自分だって、飛鳥にどれだけ本当だと言われても、きっと信じなかっただろう。
それにしても、飛鳥の魔法は聞いてたよりも、はるかにとんでもないものだった。前は別の魔法道具のおかげでか、うまくいっていたらしい。
しかし、それを今日のように目の前で見ていれば、聞いていた話よりもさらにとんでもないものだったのでは、と思える。いや、絶対そうだ。
「日本では魔法を使えんでよかった。あんな調子でやられたら、近くにおるもんはたまらんわ」
「飛鳥はそっちの世界でも、あんな調子なのか?」
「俺らの世界は、ここよりさらに制約が多いからな。一応、普段はそれなりにおとなししとるけど、よぅ見てたら時々しょおもないことやっとる」
しっかりしていそうに見えるのに、どうもそうではないらしい。変な所でドジッていたりするのを、よく見掛けた。そのうち、目が離せなくなってくる。
たまにあきれるようなこともしてしまう飛鳥だが、見ていて楽しい。
今日はさすがに「見ていて楽しい」とはならなかった。それでも、シェルヴァンナへ来てからの飛鳥は、いつもより生き生きしているように見える。
「最初に飛鳥をこっちへ呼んだんは、サンジュリアンらしいな」
「あ……ああ」
サンジュリアンが飛鳥をシェルヴァンナに呼んだのは、力のある魔法使いが必要だったからだった。しかし、それは建前だ。
わざわざ別世界に生きる飛鳥を探し出したのは、ひとえに彼女に会いたかったから。
トゥレーヌに会いたかったから。
「飛鳥がトゥレーヌって魔法使いの生まれ変わりで、迎えに来たとかって聞いたけどな。あんたらにとって、トゥレーヌがどんだけ大切な人物かは知らん。けど、別の世界で生きてる飛鳥を呼ぶ理由なんかあるか? 俺は飛鳥の話を聞いてた限り、ないと思うけど」
「それは……俺も軽率だったと認める」





