2-18.やりすぎ
「よーし、うちもさっきのお返しや」
バルベラはまだリラックの杖の存在に気付かず、攻撃を続けている。がむしゃらに攻撃しているので、サンジュリアン達もすぐには取り押さえられないでいるが、バルベラが捕まるのも時間の問題だ。
「飛鳥、おとなしくしてろや。油断したら、ケガするぞ」
魔法の力がぶつかり合う場へ行こうとする飛鳥を、三樹利が引き止めようとしたが、すり抜けられてしまった。
「どぉもないって」
「あ、ちょっと飛鳥」
アロース・コルトンも止めようとしたが、飛鳥はさっさとそちらへ近付く。
一番最初に、いきなり地面割られたからな。うちも不意打ち、食らわしたろ。
飛鳥は竜巻を起こした。軽い脅しではなく、それなりに力の強い竜巻だ。
運が悪ければ死ぬ羽目になっていたかも知れないあの地割れの件を、飛鳥はこれでチャラにさせてやろうと考えたのだ。
バルベラはリラック達と対峙していて、飛鳥の存在に気付いてない。不意打ちにはもってこいの状況だ。
「食らえ、ゆきちゃんの敵!」
飛鳥は、竜巻をバルベラの方へ向かって放った。
「……飛鳥、お前、どこに向けてんねん」
三樹利のあきれた声が、飛鳥の背中に当たる。
「あれ?」
飛鳥の放った竜巻は、バルベラへ向けられたはずがそちらへは向かわず、バルベラの家の方へと動いて行ったのだ。
「あやー、家が壊れるな。ま、ええけど」
悪人の家など、壊れたって構わない。そんなことを気にするつもりもない。
どうせ、相手は魔法使いだ。家が壊れても、すぐに魔法で直してしまうだろう。
竜巻は見事に、バルベラの家を風の渦の中へ巻き込んだ。まるでおもちゃのように、一つの家がばらばらになってゆくのが見える。
街の中でも、運が悪ければこんなことになっていたかも知れないのだ。そう考えると、危ないところだった。
「あーあ、壊した。日本やったら、一千万から億の金がかかるぞ」
「みーやん、やけに現実的やな。あの家に、そこまでの価値ないやろ」
「確かに、億はかからんな」
一方、戦う魔法使い達はそんな飛鳥の失敗など、見ていなかった。見る余裕がなかった。
いくらリラックが魔力を弱めているとは言え、今や死に物狂いで攻撃してくるバルベラの魔法をかわすのは、やはり大変だったのだ。
あれだけ優勢だったバルベラも、道具の力が利用しきれないとなれば、最後の底力を出そうとする手負いの獣のようなもの。その表情からも、余裕が完全に消えている。
「飛鳥っ、あれ、やばいぞ」
三樹利が指差す方を見ると、竜巻に飛ばされたバルベラの家の屋根が、こちらへ飛ばされてきていた。
屋根と言っても、分解された数枚の板だ。しかし、建築材なのでそれなりに重量もあり、まして飛ばされているので勢いもついていて、十分に危険な代物。
ちょうど、魔法使い達がいる場所を目指している。
「あぶなーいっ」
三人が、異口同音に叫んだ。魔法攻撃を繰り返していた魔法使い達も、さすがにその声で一瞬、気を取られた。
地面に映る影にはっとして、サンジュリアンが空を見る。
目に入ったのは、空飛ぶ元・屋根が回転しながら落ちて来るところだった。
サンジュリアンがその場を飛び退き、続いてグルナッシュとリラックも離れた。
バルベラだけが、何が起こったかわからずに周りを見回している。この反応の悪さも、実力の差だ。
「逃げろっ、バルベラ」
「え……」
グルナッシュが怒鳴り、ようやくバルベラは空からの落下物に気付いた。
だが、それまでずっとリラック達に集中していたため、そこから避難するのがワンテンポ遅れてしまう。
「うわぁぁっ」
バルベラの悲鳴の後、その上に吹き飛ばされた屋根が落ちた。
そこから避難した三人の魔法使い達は、急いでバルベラの方へ駆け寄る。
飛鳥も呆然としていたが、まずいことになった、とようやく理解した。
単に失敗しただけの魔法が、とんでもない大失敗になってしまったのだ。
バルベラの家が竜巻に飲み込まれたものの、大した時間をおかずに飛鳥の出した竜巻は自然消滅した。
その後のことは気にもしていなかったのだが「飛鳥が魔法で出したものではない、バルベラの家」は、遠くまで飛ばされてしまう前に風が消えてそのまま落下したのだ。
それが運悪く、家の持ち主であるバルベラの真上、だったのである。
「おい、バルベラッ! 生きてるかっ」
サンジュリアンが、落ちて来た屋根の残骸を一気に灰にした。その下から、倒れているバルベラが現れる。
「なぁ……生きてる?」
飛鳥が、恐る恐る覗き込む。
さすがに、ここまでする気などなかった。そもそも、家を壊すつもりでもなかったのだから。
自分達がされたように、風で転ばせられればよかった。できるだけ、派手に。
目的がどうあれ、飛鳥がしてしまったことには違いない。
「サンジュリアン、あまり揺らすな。頭を打ったようだ」
リラックが、バルベラの容体を診た。
バルベラは失神し、額から血が流れている。身体のあちこちにも、打撲があるだろう。ベニヤ板のような薄い物ではないから、衝撃はかなりのものと思われる。
「手こずらせるからだ。魔法が効かなくなった時点でやめていれば、こんなことにはならなかったのによ」
サンジュリアンに何を言われても、気絶しているバルベラには聞こえない。
「何か後味の悪い終わり方、してしもうたような気がするな。こいつが捕まるに越したことはないけど」
バルベラも言っていたが、こちらも殺すつもりはなかった。友希乃の敵ではあっても、さすがにそこまではできない。
しかし、この状態だと傷害致死にもなりかねないだろう。シェルヴァンナにそういう罪状があれば、だが。
「いや、この状態で捕まっても……」
グルナッシュが言葉を濁す。
「何、グルナッシュ。まずいこと、あんの?」
意図的ではなかったが、こんなことをしでかしてしまった飛鳥としては、妙に暗い声を出されると焦る。
こんな形の「不意打ち」をするつもりではなかった。いくら相手が悪人でも、人をこんな形でケガをさせてしまったことは申し訳ない。
「まずいと言うか……こいつがこんな状態だと、あの子の術が解けないだろ」
「あーっ、そうやっ。友希乃の術。こいつに解かさせなあかんやんけ。おいっ、起きろっ。おっさん、死んだフリなんかしてんなや」
胸ぐらを掴んで揺する、ということはさすがにしなかったものの、三樹利はバルベラの頭の上で怒鳴りつける。
「三樹利、いくら怒鳴っても、しばらくは目を覚まさないよ。魔法使いと言ったって、魔法を使わない時はただの人間と同じなんだから」
「そらそうやろけど」
グルナッシュに諭されても、三樹利としてはバルベラの頭を蹴ってでも起こしたい気分ではあった。
「ユニ・ブランの魔法でも、少しかかりそうだな」
リラックに駄目押しされ、飛鳥はがっくりとひざをついた。
「ゆきちゃんの敵討ち、やりすぎてしもた……」
大切な友達をひどい目に遭わされ、憎い相手であったには違いない。
だが、友達を元に戻すためには、ここまでやると逆にまた困ったことになってしまう。まさか、こんなことになるとは。
「とにかく、治療をしないとな。このまま放っておく訳にもいかない」
意識のないバルベラを連れ、一同は魔法使いの館へ戻った。
☆☆☆
バルベラは全身打撲で一ヶ月は安静に、という診断が出た。その間、魔法など御法度である。使おうにも、まともに動けない。
ユニ・ブランの癒しの魔法でも、頭を打っていることもあって、やはり時間がかかってしまうらしい。
それまでは、友希乃の術を解くのもおあずけになる、ということだ。
これには、さすがの飛鳥も頭を抱えた。
「本当に飛鳥って、来るたびに何かしでかしてくれるわね」
苦笑しながらナーチェに言われて、飛鳥も返す言葉がなかった。
「大丈夫よ、飛鳥。時間がかかるのは仕方無いけれど、早くしないと命に関わるって魔法でもないんだから」
ナーチェはそう言って、慰めてもくれた。
確かに、友希乃の魔法は「かかったままだと死に至る」というものではない。それが、せめてもの救いだ。





