表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タンスから現れたのは前世で幼なじみだった魔法使いでした  作者: 碧衣 奈美
第二話 怠惰な魔法使い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/53

2-17.もう一つの道具

 二人の魔法使いの元へ駆け寄ろうとした飛鳥だが、行く手に黒い獅子が現れたのが目に入り、足を止めた。

 獅子は真っ直ぐに、バルベラへ向かっている。二人の魔法使いを攻撃したばかりの彼に、その黒獅子は背中から襲いかかった。

 だが、ジュンッという火が水に消されたような音をたて、バルベラの手前で獅子は頭から消えてゆく。

 結界が張られ、獅子はその中に飲み込まれてしまったのだ。

「何をしても、無駄だよ」

 バルベラはまた風の攻撃を、黒獅子を召喚したグルナッシュへ向けた。彼もまた、無数の傷を受ける。

「別に、自分達の魔力のなさを恨むことはないからね。この道具がきみ達の魔法よりも強い、というだけのことだから」

「あんた、思いっ切りいやな奴だな」

 サンジュリアンが手の甲の血をなめながら、バルベラを睨む。

「それはお互いの立場が違うから、そう思ってしまうだけさ。同じ立場なら、この道具の素晴らしさにほれぼれしているはずだよ」

「何がほれぼれやねん。そんな道具捨てて、素手で掛かって来いや。一対一(サシ)やったら、お前みたいなおっさんに負けへんわ。実力でやってみぃ」

 三樹利が怒鳴ったが、バルベラは首を横に振る。

「オレがこの道具を捨てて殴り合いみたいなことをするなんて、まさか本気で思っていないだろうね。そう。確かに今までの魔法は、オレの実力じゃない。そんなことは十分に承知さ。だが、今の状況でこれらの道具を捨てれば、多勢に無勢じゃないか。自らを窮地に追い込むようなことを、誰がする?」

「屁理屈ばっかり言う奴やな」

「それはそちらだろう。と言うか、これは屁理屈なのかなあ。まあ、いいか。さぁ、もう余計な争いはやめよう」

「偉そうに言うな。お前が原因やんけっ」

 三樹利とバルベラが言い合っている間に、飛鳥はリラックの方へこっそり近付いた。

「リラック、これ使(つこ)たら、何とかなるかも知れへん」

 渡された杖を見て、リラックは一瞬、言葉を失った。

「飛鳥……」

 リラックは、すぐにこれが相手の魔力を弱める道具、魔力弱体化の杖であることがわかった。

 飛鳥が館へ戻る時、こんな道具があるという話をした。だが、どういう形態であるかも話していないのに、まさか見付けるとは思ってもみなかった。

 飛鳥が持っているのは、この杖だけ。まさにピンポイントで、目的の道具を持ち出したのだ。

「全く、油断も隙もないな」

「ごめん、勝手なことして。持ち出したのはええけど、アロース・コルトンもうちも、使えへんねん。リラックやったら、使えるやろ」

「あ、ああ……」

「頼むわ。このままやと、全員が記憶を抜かれてしまうし」

 飛鳥の行動を叱っている時ではない。リラックは杖を受け取った。

「三樹利と一緒に、下がっているんだ」

 リラックは、飛鳥を自分の後ろへ回す。それから、サンジュリアンとグルナッシュに目で合図した。

「バルベラ。道具を返すつもりはないのか」

 三樹利と言い合っていたバルベラは、リラックの方を向いた。

「返すくらいなら、最初から持ち出したりはしないよ。悪用はしないから、安心してくれ。生活費をかせぐ時に、ちょっとばかり使わせてもらうだけだ」

「それが悪用やんけっ」

 三樹利が突っ込む。

「こんな事態を引き起こしながら、悪用ではない、と言うつもりか」

「言わせてもらうが、オレが魔法を使ったのはそちらから攻撃されてからだ。正当防衛って奴だな。自分を守るために、仕方無くやったことだ」

 最初に逃げて追われた時も、ここへ飛鳥達が来た時も、自分からは攻撃していなかった。されたからやり返しただけだ、と言うのだ。

「お前が我々の記憶を抜く、ということは悪用ではないのか? これは個人のために存在する道具ではない」

「ここへ帰る前に、似たようなことはサンジュリアンからも聞いたよ。国を守るため、とかどうとか。オレが何と言ったかは、彼から聞くといい。あっと、記憶を抜いたら、その部分も忘れてしまうかな」

 バルベラは言いながら、へらへらと笑う。自分の勝利を疑っていない。

「……どうしても、返さないと?」

「ああ。取り戻そうと思っても、無駄だからね。さっきと同じことが繰り返されるだけなんだから、もうこんなことはやめよう。オレは他人を傷付ける趣味はないんだから」

「我々には、魔法使いの犯罪者を捕縛する義務がある。お前が抵抗すれば、こちらも実力行使で任務を遂行する」

「やれやれ、わからない人達だなぁ。抵抗しているのは、そちらだと思うがね」

 バルベラは、最後の警告も無視した。もう、話し合いでの解決はみられない。

 リラックが火を起こした。魔力で起こされた火は、矢のようにバルベラを狙って飛んで行く。バルベラは鏡を向け、それらを跳ね返そうとした。

 その時、リラックが飛鳥から受け取った杖を掲げ、呪文を唱える。

 鏡は、リラックが放った火を全てリラックに返すはずだった。だが、いくつかの火がバルベラの身体を打つ。

「なっ……」

 いくつかの衝撃を受け、何が起こったかわからず、バルベラは目を見開く。

 服には、焦げ跡がついていた。服を脱げば、身体には服の焦げ跡と同じ場所に火傷の痕があるだろう。

 こんなはずではない。さっきまでは、完全に魔法使い達の魔力を跳ね返していたのだ。鏡が突然力を失うはずがない。

「今のは、手加減した。まだ返す気は起きないか?」

 リラックが情けとして、もう一度尋ねた。

 彼が本気でやれば、人間の身体など簡単に貫きかねない。

「同じことをしてやろうか? さっき、あんたが俺達にしたのと同じ魔法を。自分で受けて、初めて他人の痛みがわかるってもんだぜ」

 斜め後ろから、サンジュリアンが脅しをかけてくる。

「くっ……」

 今のは、きっと偶然だ。跳ね返す角度がよくなかったせいだ。やり方を直せば、使えるはず。

 バルベラは、リラックの持つ杖の力に気付いてはいなかった。

 どんなに魔力増幅の杖や魔力を反射する鏡が力のある道具でも、バルベラの知識を増やしてくれる訳ではない。

 バルベラは、魔力を弱める道具が存在することを知らないのだ。

「何と言われても、返すつもりはないっ」

 自分の杖を使い、バルベラはリラックに、後ろに控えるサンジュリアンやグルナッシュへ向けて、水の刃を向けた。正確に言えば、自分を中心にして放射線状に攻撃した。

 そばにいる魔法使いだけでなく、少し離れた場所へ移動した飛鳥と三樹利、その二人を守るために前に立つアロース・コルトンまでも巻き込まれてしまいかねない勢いで。

 多少の深手を負わせてしまうのは仕方無い、と思っていた。これだけ力を見せ付けているのに、まだ歯向かって来る彼らの方が悪いのだ、と。

 だが、事態はバルベラの思い通りにはいかなかった。

 魔力増幅の杖を使って仕掛けたはずの攻撃が、あっさり防がれてしまったのだ。一番力の弱いはずのアロースまで、バルベラの力を遮断している。

「くっ……おのれ」

 バルベラは焦った。

 起きるはずのない状況に追い込まれつつある自分を知り、そうなるまいと必死になって、火や風などに小手先を変えて攻撃を繰り返す。

 しかし、どれも効果はなかった。

「完全に無にはできひん、なんて言うてたけど……すごいやんか」

 飛鳥はその様子を見て、これで力は五分五分になったとわかった。

 使う者によって、力が変わる。

 リラックはそんなことを言っていたが、ここで彼とバルベラの実力の差が出たということ。

 魔力増幅の杖で、バルベラの魔力が上がった。リラックの持つ杖で、バルベラの魔力を弱体化させた。ほぼ相殺された状態になっているのだ。

 そうなれば、本来の実力で攻撃しあっているようなもの。

 真面目に修行を積み、魔法使いのリーダーをしているリラックと、楽をするためだけに魔法を使うバルベラ。

 その実力差は、はっきりしている。

 リラックがあの杖を持って呪文を唱える限り、もうバルベラの魔力は恐れる程のものではなくなったのだ。

 無にはできなくても、バルベラの魔力を弱めてしまう。そんな弱い力を増幅させても、知れている。

 リラックの実力が高いということもあるが、あんな指揮棒のようにしか見えない杖なのに、すごい力を持っているのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000 (バナー作成:相内 充希さま) (バナークリックで「満月電車」に飛びます)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ