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タンスから現れたのは前世で幼なじみだった魔法使いでした  作者: 碧衣 奈美
第二話 怠惰な魔法使い

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2-08.魔法道具を利用する

 こんな自分勝手な理由で、バルベラは記憶封じの術を習得した。でも、これだけでは、不安がまだ残る。

 相手に記憶封じをかける前に、自分が先にやられてはどうしようもない。

 そんなバルベラの頭に浮かんだのは、今更ながらに「魔法道具の力を利用する」ということだった。

 自分の魔力は、たかが知れている。だが、魔法道具を使うことで、魔力がアップできれば。

 そして、魔法道具が盗まれたことをみんなに忘れさせれば。

 何も怖いものはなくなる。

 シェルヴァンナへ来てからは、時々魔法使いとしての仕事をしていた。魔法使いであることを隠すと、ばれた時に色々と面倒だから。

 なので、魔法使いの館へも出入りしていた。おかげで、どの辺りにどういう部屋があるか、だいたいの内部情報は得られている。

 イルブーリングと同じように、魔法道具の置かれた部屋は大した警戒もなく、簡単に入れた。こういう点は、どこも同じだ。

 魔法使いのいる場所だから泥棒が入るはずはない、という油断をしてくれているので、仕事がしやすい。

 自分の魔力が大きくなる道具。相手の魔力を跳ね返す道具。

 一つだけでも、非常に優れた道具だ。これらが消えたことに気付けば、魔法使い達の間で騒ぎになるだろう。

 だが、すぐに記憶を封じてしまえば、何もなかったことになる。

 なぜもっと早く、こんな楽な方法を思い付かなかったのだろうか。

 イルブーリングで盗んだ魔法袋に、盗んだ道具を入れる。どんなに大きな物でも、バルベラの拳大しかない袋の中に入れられる魔法道具だ。

 これだけは売らずに、手元に残しておいた。盗まれた魔法道具を回収していた魔法使い達は、バルベラが捕まった時点では見付けられなかったらしい。

 そして、そのことを追求される前に、バルベラは脱獄していたのだ。

 必要な道具は、問題なく手に入れた。後は、ここから逃げるだけ。

 そう考えたバルベラだったが、棚から少し飛び出ていた道具の一部に身体が触れ、コトンと音がしてしまった。

 万が一にも見付かった時、すぐに顔がわからないようにと着けていたマスク。これのせいで、視界がやや狭くなっていたので見えていなかったのだ。

 運悪く、ちょうど部屋の外を魔法使いが通り掛かっていたらしい。その音に気付かれてしまった。

 扉の開く音がして、バルベラは慌てて用意していた魔方陣へ飛び込む。これを使ってこの部屋に現れ、ことが済めばこの部屋を出て行く段取りでいた。

 今までも、この方法でやってきたのだ。この方法で失敗したことはない。

 ぎりぎりで、姿を見られる前に魔法を発動させる。自分がここから移動すれば、魔方陣はすぐ消えるようにしてあるので、追って来ることはできないはず。

 本当は、人があまり来ない森の近くへ出るはずだった。もっと遠くの場所へ出られればいいのだが、そこまでがバルベラの限界なのだ。

 しかし、それでも構わない。現場から離れられれば、それでいいのだから。

 なのに、なぜか狭い部屋へ道がつながってしまう。しかも、目の前には複数の人がいた。大人ではないようだが、分別の付かない小さな子どもでもない。

 今まで見たことのないような服を着ていて、別の国か別の世界へ通じてしまったのだ、とすぐに悟る。原因はわからないが、何か誤作動したらしい。

 男の声で自分のまずい立場に気付き、とっさに一番近くにいた少女の手を取っていた。

 魔法使いには直接見付かっていなくても、少しすれば魔方陣の跡には気付くだろう。そうなれば、魔法の軌跡を読んで追ってくるはずだ。

 その時に脅しをかけられるよう、人質にするつもりだった。

 とりあえずシェルヴァンナへ戻ると、魔法で服を替える。黒装束を、ありふれた生成りのシャツとズボンに。

 その後は、魔法を使わずに街の中へ逃げ込んだ。魔法の軌跡を追われることを考えて。

 だが、連れて来た人質が、やたらと騒がしい。

 驚きすぎたためか、最初は静かだった。しかし、自分の状況を認識すると、人質らしからぬ行動を始める。

 口はうるさいし、しゃべることができないようにすれば、手を出す足を出す。

 街の中、という人の目が多い場所だ。このままでは多くの人達に見られ、その頭に残ってしまうことになる。

 いくら記憶を封じればいい、とは言っても、不特定多数の人間全員の記憶を封じるなど、バルベラには無理だ。

 早々に、人質の少女の記憶を封じた。初めてやったので、どれだけうまくやれたかわからない。確認もできない。

 だが、その様子を見た限り、かなり精神的なダメージを受けている……はずだ。

 人の命を奪う、というのは後味が悪すぎるのでやる気はないが、あの魔法で彼女が死んでも、それは気にするつもりもない。運が悪かった、というだけ。

 半ば意識を失ったような状態になったのを見て、その場を離れた。いつまでも一緒にいたら、誰かに見られてしまう。それでは、記憶を封じた意味がない。

 それからこうして酒場へ入り、昼間から酒を飲んでいるのである。

 ふと手が耳に触れた時、いつも着けているイヤリングがないことに気付いた。調べると、両方なくなっている。

 あれはイルブーリングにいた時からずっと着けていて、それなりに気に入った物だったのだ。きっと、あの少女が逃げようと暴れた時にでも落ちたのだろう。

 まさか、あの場所まで取りには戻れない。今頃はあの少女も見付かって、人々が駆け付けていると思われる。もしかすれば、魔法使い達も。

 そんな所へは行けない。イヤリングくらい、あきらめるしかないだろう。

 本当なら、早く魔法道具が盗まれたことを魔法使い達に忘れてもらわねばならないのだが、さっきの人質のおかげですっかり疲れてしまった。

 どんなに彼らが騒ごうと、そのうち全ての記憶を消すのだから、考えてみればそんなに慌てることもないだろう。

 盗んだ道具は、魔法袋に入れてある。その袋は、シャツのポケットに。声をかけられたとしても、盗まれた道具を持っているとは思われないだろう。

 一つは小さいが、一つはシャツのポケットに入るサイズではないから。

 人質の記憶もないはずだから、彼女から自分の存在がわかってしまうこともない。

「亭主、もう一杯くれ」

 楽観し、安心しきっているバルベラは、追加注文をした。

☆☆☆

 飛鳥と三樹利は、サンジュリアンと共に街の中を歩いていた。

「奴を見付けてこの件の張本人だとわかったら、奴に術を解かせればいいんだ。ああいう術は、かけた本人が解けばすぐに元に戻るから」

 魔法使いの言葉に、三樹利も少し安心した。

 仮にバルベラが犯人で、そのうち捕まったとしても、友希乃の状態が元に戻るまで、自分の世界へ帰ることはできない。

 どんな病院に入れても、魔法を解くことのできる医者は、日本にも世界にもいないだろうから。

 つまり、術が解けるまでは、シェルヴァンナにいなければならなくなる。別世界にいることはともかく、それがいつまでになるか、皆目見当も付かない状態。

 そのことに、三樹利は少し重い気分でいたのだ。

「サンジュリアン、人数的には三人いる。けど、俺らがそいつを見付けた時、魔法使いは一人しかおらんことになるから、一対一(サシ)になるやろ。大丈夫なんか?」

 さっき、バルベラの家には数人の魔法使いが向かった。一人の魔法使いを相手にするだけで。

 相手の力を完全に把握できていないから、そうしたのだ。

 もし自分達が見付けたとしても、ここにいる魔法使いはサンジュリアンだけだ。バルベラが抵抗して魔法で攻撃してきたら、彼一人では抑えられないかも知れない。

「街の中なんだ。奴もそうおかしなことはしないさ。自分の顔を見た彼女の記憶を封じてしまうくらいだ、一人でも余計な目撃者を出したくないだろうからな」

「この国から出て行く気がないから、証人を消したんやろな。けど、相手が開き直るってことも、ありえるぞ」

「みーやん、心配性やな。魔法使いやったら、ここにもいるやん。大丈夫やって」

「……だーれが魔法使いだって?」

 少し冷ややかなサンジュリアンの視線が、飛鳥に注がれた。

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