2-06.よその国の魔法使い
飛鳥達の事情をだいたい説明し、グルナッシュの話を聞くことになった。
彼は「バルベラ」という魔法使いのことを調べるため、イルブーリングへ行っていた、という。
「何者なん、そいつ」
「数ヶ月前に、シェルヴァンナへ来た魔法使いだ」
「来たって……何しに?」
「さぁな。自分のことを何も話そうとしない奴だから、俺達も怪しんでいたんだ」
魔法使いは、自分の故郷の国で一生を終える場合がほとんど。時には旅をして、他の国を回ることもある。
だが、定住するように居を構え、生まれた国でもない土地にいつまでもいることは、この世界では滅多にない。
そのバルベラという魔法使いは、自分がどこから来たのかをはっきり明かさず、街外れに住むようになったのだ。
来る者を拒むことはしないが、それが魔法使いとなれば、先住者としてはその素性が気になるところ。
普通の人ならば、自国にはない物や環境を求め、別の国で一旗揚げようとする者もいるだろう。
しかし、魔法使いが何も言わずに住み着くのは、珍しすぎる。
一応、動向はそれとなくチェックをしていたのだが、これと言って気になる動きもない。追い出す理由もないので、日が経つにつれてチェックの目もゆるくなる。
そんなある日。
イルブーリングから来た旅人が、魔法使いの館を訪ねて来た。自分の国で見た魔法使いとバルベラがよく似ている、と言うのである。
それなら、きっと彼がそこの出身なのだろう、と話はすぐに終わりそうなものだが、気になることをその旅人が言ったのだ。
彼は罪を犯して投獄されたが、脱獄したのだ、と。
イルブーリングとシェルヴァンナは、幾つかの国を隔てて位置している。一人の魔法使いの噂など、余程の高名か悪名でもなければ届かない。
その旅人も、あくまでも噂で聞いた話だ、と前置きはしていたが。
とにかく、投獄とは穏やかではない。どれだけのことをしたのかによっても、その人物の危険度が変わってくる。
本人に直接聞いても、当然ながら正直に答えはしないだろう。もしくは、誤解やえん罪のように言ってごまかすか。その旅人の見間違いだ、と言い張ることもありえる。
だから、ことの真相を調べに、グルナッシュはイルブーリングへ行ったのだった。
「で、何したん?」
「魔法道具を盗んだんだ」
グルナッシュの答えに、彼以外の人間が顔を見合わせる。
「で、それが見付かったん?」
「ああ。それまでも、手くせの悪い奴だったらしい。やらかすたびに、返品や返金をさせていたが、魔法使いの長もかばいきれなくなって、投獄されたんだ」
ここへ戻って来る前、グルナッシュはこの街の役所へも寄った。念のため、と思って、犯罪記録を調べたのである。
それを見て目につくのが、少額ではあるが金を盗まれた、という被害届が少し前から増えていることだ。
高価な宝石や美術品等が盗まれた、というのはほとんどないし、大金が盗まれた事件は犯人も捕まって解決している。
目立たないものばかりが、いつまでも残っているのだ。時期的にも、バルベラがシェルヴァンナへ来た頃と一致している。
「そんな奴が、シェルヴァンナへ流れて来たのか。また面倒な奴が来たもんだ」
話を聞いたサンジュリアンが、小さくため息をつく。
「その国もええ加減やな。そいつが魔法使いやってことがわかってるんやったら、それなりの処置しとけよ。何で逃げられとんねん」
投獄する際にちゃんとした措置がなされなかったから、こうして新たな事件が起きてしまうのだ。
こうなると、その国の牢は罪人を監禁する役目を果たせなかった、という意味では同罪ではないのか。
「なぁ、今回の犯人はそいつって可能性、高いんとちゃう?」
「はっきりした証拠がないのに決め付けることはできないが、状況を見ると……だな」
サンジュリアンも、飛鳥に同調した。
安易に疑うのはよくないが、状況がバルベラにはかなり不利だから、仕方がない部分もある。
「グルナッシュ、イルブーリングの魔法使いは、こういう物を身に着けていたか?」
リラックが、友希乃が握っていたイヤリングを見せる。
「形ははっきり覚えていないが……よく似た物を着けていたな。言われてみれば、イヤリングを着けている魔法使いは多かった気がする」
「そのバルベラって奴、思いっ切り黒に近い灰色やな。そいつの所にもう片方がないかどうか、調べたらええやんけ」
そんな話をしているところへ、アロース・コルトンよりも若い魔法使いが走って来た。
「リラック、魔法道具の部屋を調べていたら、こんな物が落ちていました」
三日月を二つつなげたようなデザインのイヤリング。
リラックが受け取ったのは、友希乃が持っていた物と同じだった。どう見ても、ワンセットだ。
「とりあえず、ゆきちゃんをさらった男と、ここへ入った泥棒が同一人物なんは、これではっきりしたな」
「それが、よその国の魔法使いらしいってこともや」
これだけ状況証拠がそろった。イルブーリングの物らしいイヤリング、という物的証拠も手にした。
完全に犯人だと確定した訳ではないが、事情を聞く必要は大いにある。
「バルベラを呼びにやらせる」
リラックの指示で、魔法使いが数人、バルベラの家へ向かった。
☆☆☆
考えてみれば、飛鳥や三樹利も友希乃をさらった男を見ているのだ。
目隠しのようなマスクはしていたが、鼻や口元は見えていたのだし、顔の輪郭もだいたいわかる。耳の横のほくろも、かなり重要な手がかりになるはずだ。
連れて来られたら、その男かどうか証言できるかも知れない。
「仮面舞踏会に出るようなマスク、着けてたで。昔のマンガか小説に出て来る、キザな怪盗みたいな格好やったわ」
「あいつは、それだけ余裕があったってことやろ。本気で警戒しながら入るんやったら、もっとしっかり覆面して来よるわ。それが目ぇしか隠さへんのは、見付かることはまずないと思てたからや。運悪く見られるような状況があった時のために、一つだけってな感じとちゃうけ」
もっとも、知っている人間が見れば、それが誰なのかわかりそうな程度の変装ではあった。
案外、自己満足で変装していたのかも知れない。
「余裕やったにしては、うちの部屋へ来た時は目が点になったような顔してたで」
「それは、俺らかて同じやろ」
飛鳥はともかく、三樹利と友希乃はタンスから人が出て来るのを初めて見たのだ。目が点になってしまったのは、お互い様である。
「奴が来たら、飛鳥達も顔を見てくれ。こっちの顔は見せなくてもいいから」
「面通しって奴やな。刑事ドラマみたい」
サンジュリアンに言われるまでもなく、二人はそのつもりでいる。
これで間違いなくあのタンス男であれば、たとえサンジュリアン達が止めようと頬の一つも張り倒してやりたい、と飛鳥は思っていた。
大事な友達を、あんな目に遭わせた報いだ。それくらいのことは、してやりたい。三樹利だって、同じことを考えているはず。
「……まだかなぁ」
二人は医務室の近くにある部屋で待っていたが、いつまで経ってもその「面通し」は始まらない。肝心の「面」がなかなか来ないのだ。
「魔法使いが行く前に、逃げられたんやろか」
飛鳥は少し不安になってくる。
「ばれた、とは思てないやろ。人質の記憶を封じてるんやし、自分のことはわからへんて安心してるはずや。あ、けど、イヤリングを落としたのに気付いたかな」
「んー、その魔法使いにあてはまるかどうか、わからんけど。うちは誰かに言われたり、家に帰って取ろうとする時まで、イヤリングがないっていうのに気付かへんで。個人差はあるやろけど」
ネジ部分がきつかったりすると、とんでもなく痛く感じる。一度、がまんしていたら頭まで痛くなってきた、ということもあった。
そうでない時は、付けているのを忘れてしまったりする。片方がない、と人から言われたり、鏡を見てようやくわかる、ということはイヤリングだとありがちだ。
ずいぶんしてから、バルベラの家へ行った魔法使いが一人、戻って来た。
「一人か? バルベラや、他の者達はどうしたんだ」





