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タンスから現れたのは前世で幼なじみだった魔法使いでした  作者: 碧衣 奈美
第二話 怠惰な魔法使い

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2-04.使えない技術

 男の方は友希乃の止まらない暴力に慌て、今度は手の動きを封じた。

 声も出ず、手も動かない。まるで金縛りのようになって友希乃も驚いたが、このままおとなしくしていれば何をされるかわからない、という意識がさらにふくらむ。

 自分が今歩いていることに気付き、足は動くのだとわかると、その足で男の足を蹴る。

「全く、やかましい女だな。普通は怖がって、動けなくなるもんだろうが」

 さらには封じたはずの声まで、気を抜くと友希乃はまたしゃべり出した。

 たまに強固な意志で魔法効果を半減、もしくは無効化させてしまう者がいる。

 そんな話は聞いたことがあったが、まさか自分が人質にした女がそうだとは。

「あんた、あたしに何したんやな。催眠術か何か知らんけど、おかしな術かけて。人を何やと思てんねん。ええ加減にしぃやっ」

 男は街を歩いていた。追っ手の魔法使いをまくためだ。朝の早い時間ではあるが、周りには人がたくさんいるし、うまく紛れ込めばすぐには追い付かれないはずだ。

「あたしを何やと思てんの。こんな所で売ろうとしたって、そんなうまいこといかへんからな。あんたがあたしの足を動かんようにしたかて、這ってでも逃げたるし」

 しかし、こうやって人質にした人間がこうも騒がしいと、逆に目立ってしまうではないか。周りの人間が、ちらちらとこちらを見ている。

 声がまた出るようになった時点で、本当なら友希乃は「助けてっ」と叫ぶべきだった。

 そうでなければ、少し年の離れた男女がケンカしながら歩いているようにも見えてしまい、周りからの助けを得られない。

 だが、友希乃は妙な術をかけてくる男に集中してしまい、誰かに助けてもらいたいのにその言葉を出せないままで、抵抗を続けている。

 男はもともと、追い付かれた時の切り札として少女を利用するだけ、のつもりだった。だから、もういらないのだ。

 今となっては、こうして連れ歩いているだけで、追っ手に手掛かりを残しているようなもの。邪魔でしかない。

「帰らしてぇや。何であんたに連れて行かれなあかんねんな」

 こちらが本気で魔法をかけていないせいか。

 かけた術を、人質は何度も解いてしまう。この少女は特殊な人間なのか。これは一刻も早く、手放してしまうに限る。

 男は、友希乃を路地へ連れ込んだ。口のきけない魔法を、少し強めにかけて。

「お望み通り、解放してやる。だが、お前は俺のことを忘れるんだ。いいな、何も見ていない」

 友希乃は何か言おうとしたが、声がかすれきって言葉にならない。

 だが、手は動く。その手で、友希乃は男の左頬を思いっ切りひっぱたいた。男がつけていたイヤリングが、その手に引っ掛かる。

 口がきけるなら「何ふざけたこと言うてんねん!」などと怒鳴っていただろう。

 男は舌打ちしながら友希乃の両手首をがしっと掴むと、目を覗き込む。

「ったく……暴力的な女もいたものだ」

 何でもない普通の茶色い瞳なのに、その目に睨まれた途端、友希乃は意識が遠くなってゆくのを感じた。

「安心しろ。死にはしない。少しばかり、今までにあったことを忘れるだけだ」

 友希乃はそのまま力が抜けて、その場に座り込む。

 そんな友希乃を残し、男は立ち去った。

☆☆☆

 盗まれた魔法道具は、二つだとわかった。

 魔法を使う時、その力が増幅する杖。相手の攻撃魔法を跳ね返す鏡。

「なーんか、やばいもんばっかり盗まれてるなぁ」

 二つをうまく利用すれば、自分が魔法を使う時は力が普段の倍にも大きくなり、相手が攻撃してきてもその力を跳ね返して相手にダメージを負わせる。

 魔法を使って戦うには、最高の武器になりえるものばかりだ。

「たまたま手にした物がそうだったのか、最初からそれを狙っていたのか。それによっても、危険度が違ってくるってことだな」

「そんなん、計画的に決まってるやんけ」

 サンジュリアンの言葉に、三樹利があっさり言い放つ。

「こんな所へ入って来るような奴や。来てからどれ盗ろか、なんて悩むはずないやろ」

「確かに……そうだな」

 リラックがうなずく。

「そいつにとっての予定外は、道が異世界である俺らの世界につながってしもたことや。さらには、人質まで取った。どういう形で、そいつがこの事態に対処するかやな」

「ゆきちゃんがどう動くかやわ。魔法使いとか、泥棒やってわからへんかったら、何を言うかわからんし」

 友希乃は気が強い。相手が年上であろうとなかろうと、言いたいことは言ってしまうタイプだ。

 飛鳥達は、現れたあの男が泥棒だと知っている。でも、友希乃は知らない。だから、いきなり知らない場所へ連れられて、黙っているはずがない。

 飛鳥と三樹利は、友希乃の言葉で相手が激怒してしまわないかが心配なのだ。相手の様子を見て、行動を決めよう……と考えてくれればいいのだが、何となく無駄な祈りのような気がする。

 あんな格好だから怪しい人物とわかるはずだが、パニックになった人間がどこまで冷静に考えられるだろう。

「なぁ、ダメ元で地道に捜してみぃひん?」

 飛鳥が、サンジュリアンに提案する。

「地道って……これこれこんな女の子を知りませんかって、聞いて回るのか?」

「うん、魔法が効かへんのやったら、それしかないやん。人間には足があるんや。使えるもんは使わんと」

 飛鳥は制服を着ていた。その胸ポケットから、生徒手帳を取り出す。

「ゆきちゃんの写ってる写真、持ってんねん。これ見せて回ったら、見掛けた人がいたら教えてくれるやろ」

「友希乃の写真? そんなん持ってんのか」

「シールやから、ちょっと小さいけどな」

 ゲームセンターなどに置かれた機械で撮った、シールの写真だ。でも、顔はちゃんとわかる。

「それ、めっちゃ加工してるんとちゃうんか」

「ふふん。うちらは、素顔で勝負や」

 つまり、加工なしの写真が手元にある。

「誰と、何の勝負する気や」

「そんなん、どこでどんなバトルがあるか、わからんへんやん。サンジュリアン、これがゆきちゃんの……」

「ちょっと待て」

 友希乃の顔がわかるシールを、サンジュリアンに見せようとする飛鳥。その手を、三樹利が止めた。

「なぁ、ちょっと失礼なこと聞くかも知れへんけど。あんたらは、写真の技術って持ってんのか?」

「シャシン? いや……」

 サンジュリアンは、戸惑ったように首を横に振る。

「飛鳥、あかんわ、その方法は」

「何で?」

 三樹利は飛鳥からシールを貼った生徒手帳を取ると、魔法使い達の前へ出した。

「これが写真や。カメラって機械を使(つこ)て、人とか物の姿を一瞬で紙に焼き付ける。まぁ、厳密に言えば、紙に焼き付けるまでに多少の時間はかかるけど。とにかく、これが写真や。こういうの、この世界にあるか?」

 見せられた方は、珍しそうにシールの写真を眺めている。その中に飛鳥の姿を見て、不思議そうな表情をした。

「絵……ではなさそうだな。しかし、本物そっくりだ」

 リラックが感心している。サンジュリアンやアロース・コルトンは「何だ、これ」と目を丸くしていた。

 ほんの数センチ四方の紙に、小さな飛鳥がいる。その隣に、別の少女が笑ってこちらを見ていた。

 絵だとしても、これだけ精巧なものは彼らも見たことがないだろう。

「飛鳥が勝負を想定してくれて、助かったな」

「なぁ、みーやん。何でこの方法はあかんの。これを見てもろたら、めっちゃわかりやすいのに」

 口で「こんな感じの女の子」と説明するより、一目でわかる姿を見せた方が話が早いはず。

「考えてみろや。珍しいのはわかるけど、それに気ぃ取られて肝心なことが聞けへんようになるやろ。それに、写真は絵より精巧や。下手したら、こんな小さな紙の中に人間を閉じ込めた、とか言う奴が出て来るかも知れへんやろ」

「あ、そうか」

 飛鳥もそれを聞いて、納得した。

 魔法使い達でさえ、こうなのだ。魔法使いが存在するのが当たり前の世界の人達でも、魔法そのものにはあまり縁がないはず。

 そういう人達にこんな物を見せれば、珍しがるか妙な誤解を招くかだ。どちらにしろ、仕事がはかどらない。

「ゆきちゃんの顔は、これでしっかりわかってもらえるはずやったんやけどな……」

 とにかく、ここでは写真を使えない。口でできる限りの表現をするしかないだろう。

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