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タンスから現れたのは前世で幼なじみだった魔法使いでした  作者: 碧衣 奈美
第二話 怠惰な魔法使い

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2-03.追跡不可

 ここは、魔法使いが常時数人いる場所だ。何かあっても、すぐに対処できる。

 つまり、何かことを起こせば、すぐに魔法使いが駆け付けてしまうような場所、ということ。捕まる可能性が高いのだ。

 なので、忍び込む方は「魔法使いに見付かれば、まず逃げられない」という意識があり、魔法使い達の方でも「盗賊などは入らないだろう」という意識がある。

 思い込みというのは恐ろしいもので、そういう意識のせいで警戒というものがあまり厳重になされていなかった。その隙を突かれしまったのだ。

 しかも、盗人が魔法使いとなれば、普通の人間がやるよりもずっと楽に入れる。

 さらに言えば、時間は早朝。こんな時間と場所に泥棒は入らない、と誰もが思う。

 今回、侵入が発覚したのは、たまたまその部屋の前を通り掛かった魔法使いが、中から音がしたことに気付いたからだ。

 その偶然がなければ、今でも泥棒が入ったことがわからないままだろう。少なくとも、見た目はそれまでと同じような状態だったから。

「サンジュリアン……やったな。それで、この追跡はどこまでできてんねん」

「奴の追跡は、リラックとアロース・コルトンがしている。俺は奴が飛鳥をどうかしてないかと思って、確認に向かったんだ」

 三樹利に問いに、サンジュリアンはそう答えた。

「うちはどぉもなかったけど、ゆきちゃんが……友希乃いう友達が連れて行かれた。いた位置があいつに一番近かったから、連れて行かれたんやと思う。何もされてなかったらいいけど」

 盗みをし、自分の保身のために少女を人質にとるような(やから)だ。心配がつのる。

「なぁ、魔法使いが追い掛けてるんやもん、すぐに捕まるやろ?」

「相手もそうだからな……」

 魔法で追っても、向こうも魔法で逃げる。普通の盗賊を追うのとは、状況が少し違うのだ。

「捕まったんがうちやったら、そいつをへこまして逃げることもできたのになぁ」

「飛鳥、たとえ見付けても、おかしなことはするなよ。まだどういう奴か、はっきりわかっていないんだからな」

「うん、わかってる」

「……本当だろうな」

 サンジュリアンは、疑わしそうな目を向ける。

 前に飛鳥がこの世界へ来た時「おとなしくしていろ」と言われても、一度としておとなしくしていなかった、という前科があるのだ。素直には信じられない。

「サンジュリアン、戻っているか?」

 ノックの音と声がして、飛鳥の知らない魔法使いが顔を出した。

「リラック達が戻って来たぞ」

 その言葉にサンジュリアンが飛び出し、その後を三樹利の腕を掴んだ飛鳥が追った。

☆☆☆

 長身で赤毛の青年と銀髪の少年が、廊下で他の魔法使いと話をしているのが見えた。

「リラック、どうだった」

 サンジュリアンが、青年の方へ駆け寄る。

「駄目だ。こちらへ戻ってから、魔法を使わずに街の中へ逃げ込んだらしい。魔法での追跡は無理だった」

 リラックが、首を横に振った。

 魔法使いの後を追う場合、魔法が使われた気配が残る時は、その軌跡を手掛かりにして追うことができる。

 だが、人込みに紛れ込まれると、それが難しくなってしまう。不特定多数の気配が、痕跡を薄めたり流してしまうのだ。魔法があれば何でも可能になる、という訳ではない。

 魔法使いであれ、一般人であれ、特定の人物を捜す時は、その人物の持ち物が手元にあれば何とか可能だが、今はそんなものはなかった。

「無理だったって、そんな簡単に言うなや。下手したら、友希乃があいつに殺されるかも知れんのに」

 話を聞いていた三樹利が、リラックに食って掛かった。

 自分の妹の生死に関わることだ、黙っていろという方が無理である。

「きみは?」

 会ったことのない青年に詰め寄られ、リラックが尋ねる。

「安藤三樹利。そいつに連れて行かれた友希乃の兄や。手掛かりを失って、これからどうするつもりやねん」

「連れて行かれた……? ああ、飛鳥も来ていたのか」

 遅ればせながら、リラックは飛鳥の存在にも気付いた。

 サンジュリアンが飛鳥の安否を確認するため、彼女のいる世界へ行ったことはリラックも知っている。

 なので、当たり前のように飛鳥がここにいることに多少の驚きはあったものの、冷静な表情は変わらない。サンジュリアンが行けば、また首を突っ込むのではないか、という予想はしていた。

 案の定……とは思ったが、飛鳥と似たような話し方をするもう一人が一緒にいることで、事態はそんな単純ではないらしいことに気付く。

「と、いうことは、奴は飛鳥の世界の人間をさらったのか」

「さらわれたんは、うちの友達やねん。なぁ、リラック。手掛かりなしで、これからどうすんの?」

「待ってくれ。そちらの事情も、もう少し聞かないと。飛鳥の世界へは、サンジュリアンしか行っていないんだ」

 リラックに言われ、飛鳥は黒づくめの男が自分の部屋へ現れ、戻る時に友希乃を連れ去ってしまったことを話した。

「追われるのがわかってたから、追い付かれた時のために……ってことかな」

「恐らく」

 アロース・コルトンの言葉に、リラックもうなずいた。

「だが、無事にこちらへ戻り、街の中へ紛れ込めたんだ。もう人質の必要はない」

「リラック、それって……むっちゃやばい状況になってる可能性がある……ってことなんか?」

 青ざめた顔で、飛鳥が聞いた。だが、リラックは首を横に振る。

「いや、さすがに街の中でそういうことはしないだろう。せっかく足取りが掴めなくなったのに、おかしなことをすればどこで目撃者が出たりするかわからないからな。奴も危険なことはしないはずだ」

「そしたら、楽観的に考えたら、どっかで解放してるかも知れんってことか?」

 飛鳥の口調に期待がこもる。

「その友希乃という子が、奴のことを刺激していなければ、な」

 サンジュリアンの言葉に、飛鳥と三樹利は顔を見合わせた。

「みーやん……」

「それを言われたら、ごっつう心配やな」

 友希乃の性格を知っている二人は、大きな不安が胸をよぎったのだった。

☆☆☆

「このドスケベッ。どこ連れてくつもりやねん。ちょっと、離しぃや。何で飛鳥のタンスの奥が、こんな別の場所になってんねんな。もーっ、ええ加減にしてぇや。いややって言うてるやろっ」

 いきなり現れた思いっ切り不審な男に、友希乃はとにかく目いっぱい抵抗していた。

 最初こそ、腕を引っ張られて「え? え?」とまともな言葉も出ず、されるがまま。しかし、人の多い場所へ向かうにつれて、友希乃は自我を取り戻したかのように抗い始めた。

 タンスから現れたことも異常だし、格好もかなり不審だ。こんな全身黒ずくめなんて、どう見たって泥棒スタイルではないか。

 目元を隠すマスクなんて、現物を初めて見た。マントや帽子はないが、首から上だけならまるで「怪人何とか面相」みたいだ。

 街へ入る直前にそのマスクは取って服も替えたが、怪しい男には変わりない。

 何で、マスク取ったんや。素顔見られても気にせぇへんってこと? 目撃者は後で……のつもりとか?

 そう考えて、ぞっとする。

 こんな男に知らない世界へ、それもタンスの奥に広がる世界へ連れて来られ、黙ってはいられない。

「黙れ」

 などと言われても、そんな命令は聞きたくなかった。

 友希乃だって、男に腕を掴まれて多少なりとも怖いと感じている。この後で自分の身に起きるかも知れない可能性を考えれば、なおさら。

 怖いからこそ、こんな男から一秒でも早く離れたいのだ。

 だが、男は妙な力を使い、友希乃をしゃべることができないようにしてしまった。

 何で何で? タンスの向こうには前世に住んでた世界があってって……飛鳥の話してたあれって、夢の話とちゃうん? 声が出ぇへんようになったんて、これ魔法か? 嘘や。催眠術とかでごまかしてるんや。冗談やないわ。おとなししてたら、これ以上何をされるかわからへんやんか。

 男としては、静かにさせようというつもりだけだったのだが、声が出なくなってしまっている友希乃は、さらに暴れ出す。

 掴んでいる相手の腕を、力いっぱい叩き出した。肩を叩き、そのうち顔まで叩きそうになる。もちろん、手加減はない。

 できるものなら、この拳で男を一発ノックアウトしたいくらいだ。それができない、自分の細腕が恨めしかった。

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