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タンスから現れたのは前世で幼なじみだった魔法使いでした  作者: 碧衣 奈美
第一話 風の約束

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1-28.解決へ

 まだ気のおさまらない飛鳥だが、リラックに魂の力がなくなる、と言われてはうかつに動けない。

 この赤い玉は自然の力を吸収し、自分の魔力に生かせるものだ、と聞いた。魔物はその「自然の力」として、子どもの魂をこの中に吸収している。

 まだその魂が抜けていない状態で使えば、飛鳥もその力を利用していることになるのだ。

 自然の力は、自然が失われない限りどこにでも存在するが、子どもの魂はそれだけ。使ってしまえば、消えてしまう。

 さっき飛鳥が強い風の壁を作り出せたのも、魔法使い達が来る前に魔物へ攻撃していたのも、この玉の力があったから。飛鳥だけなら、半分程の力しか出なかっただろう。

 エネルギーの源になる赤い玉を奪われ、多くの傷を受け、さらには自分の活動時間ではない時に囲まれた魔物は、今度こそ最期を迎えつつあった。

 リラックが、細い剣を抜く。他の魔法使い達も、それにならった。

 呪文が唱えられ、剣が金の光を帯びる。その剣で、彼らは空中に文字を描いた。

「あれって、何やってんの?」

(光魔法だ。あの光文字で場の魔力を強め、魔物を消す。あれは闇の魔物だから、光魔法が有効だ)

「ミュスカデル、よう知ってんな」

(私はお前より、ずっと魔に近い所に棲む者。当然だろう)

 さすがにミュスカデルもむっとした表情をしたが、飛鳥は気にしていない。と言うより、光文字の方が気になっていたのだ。

 どういう言葉になっているのか、見てもわからない。でも、その文字の一つ一つが魔力のこもったものなのだ。

 数人の魔法使いが出した光文字が空に上って一つになり、まるで網のように魔物にとりついた。魔物がどんなに暴れても、光文字は絡まって離れることはない。

 やがて、魔物の身体が金の炎に包まれる。炎の中で魔物は暴れようとしていたが、次第に動かなくなり、やがてその姿を消した。

「あれで……死んだんか?」

(そうだ)

「やったぁっ」

 ようやく終わった。シェルヴァンナを恐怖に陥れた魔物は、これで完全に消滅したのだ。

 飛鳥は、剣を収める魔法使い達の方へ駆け出した。

「めっちゃきれいな魔法やったわ。これで子どもも助かんねんな」

 後はこの赤い玉から、子どもの魂を戻すだけだ。それで、全てが終わる。

 そう喜んでいた時。

 突然、ぱしんっ、という少し派手な音がした。

 サンジュリアンが、飛鳥の頬を叩いた音だ。

「どうして、おとなしくしていられないんだ、お前はっ」

「……」

「あれだけ危ない目に遭ってて、まだわからないのか。魔物と一緒にいるお前を見て、俺達がどれだけ心臓の縮む思いをしてるか、全然考えてないだろ」

「いきなり叩くことないやろ、野蛮人っ」

 全面的に自分が悪い、とわかっていながらも、怒鳴られると飛鳥はつい怒鳴り返してしまう。

「野蛮人で結構。約束だったな。魔物は消したから、すぐに送り返してやる」

「いやや。子どもがちゃんと助かるのを見てからでないと、帰っても寝られへん」

「お前に見守ってもらわなくても、その玉があるなら無事に終わる」

「全部見届けてからでないと、帰れるかいな。それに、魔方陣描くのはどうすんねんな。それ用の杖もないくせに」

「その気になれば、木の枝ででも描ける。さっさとその玉を渡せ。送り返してやるから」

「取れるもんなら取ってみぃ」

 飛鳥は赤い玉を抱えたまま、走り出した。

「こら、どこへ行くんだっ」

 飛鳥を追って、サンジュリアンが走り出す。

 他の魔法使いは、怒濤のごとき二人の口ゲンカを、ただ呆然と見ていた。口をはさむ暇さえなかったのだ。

「二年間、ケンカができなくてたまってたのかなぁ、サンジュリアンは」

 同じように追い掛ける気にもなれず、アロース・コルトンが二人の後ろ姿を見ながらつぶやく。グルナッシュが軽くうなずき、

「かもな」

 と、短い返事をした。

 飛鳥は、ミュスカデルの所へ駆け寄る。

「ミュスカデル、クレーレットの城まで戻って」

(帰りは歩きではなかったのか?)

「もう乗りかかった船やろ。ここまで来てしもたんやから、最後まで付き合い」

 飛鳥は強引にミュスカデルの背に乗り、ペガサスは渋々飛び立った。

「あー、このやろ。風に乗りやがって」

 サンジュリアンは結界を張って隠していた馬を出し、自分の馬に乗ってクレーレットの城を目指して走り出した。

「俺達も早く戻った方がいいんじゃないか、リラック」

 魔法使い達が、気の抜けた声でリーダーにお伺いをたてる。

「そう……だな。もうここに用はない。痴話ゲンカに割って入りたくはないが、あれでは玉が壊れかねない」

「違いない」

 グルナッシュが喉の奥で笑いながら、馬達を連れて来た。

☆☆☆

 飛鳥が城へ戻ると、最初にジュリエンナ姫と顔を合わせた。

「あれ、ジュリエンナ姫。みんなと一緒に行ってたんとちゃうの?」

 思い返せば、あの場には魔法使い達だけで、兵士は一人もいなかった。

「いいえ、私は魔法が使えないもの。行っても、足手まといになるだけだわ」

 姫はちゃんと、自分の力量を知っている。何もできないとわかっていて、のこのこついて行く飛鳥とは違う。

「それより、飛鳥。ユニ・ブラン達があなたを捜していたわ。それと……そのペガサス、あなたが呼んだの?」

 飛鳥の隣にいる翼のある馬を見て、ジュリエンナ姫は目を丸くしている。

「え……ううん、通りすがりのペガサス」

 ペガサスをまるでタクシー扱いである。

(もういいだろう。私は行くぞ)

「あ、そうか? 気ぃつけて。ほんま、おおきにな」

 飛鳥は、ミュスカデルの首に抱き付いた。その行為が自分でも不思議なくらい、しっくりくる。

(もう少し考えてから、行動するようにした方がいいぞ)

「簡単に言わんといて。できるもんなら、もっと前にやってるわ」

 ふくれっ面で横を向く飛鳥に、ミュスカデルが鼻面をくっつけた。そのしぐさが妙に優しい。

 飛鳥はもう一度、ミュスカデルに抱き付いた。

(では、な)

 大きな翼をはばたかせ、ミュスカデルは空へと舞い上がった。

 あんなに大きな翼が動いているのに、飛鳥達が感じたのはわずかな風だけだ。

「飛鳥、その手にあるのは……もしかして」

 飛鳥と一緒にミュスカデルを見送っていたジュリエンナ姫は、飛鳥の手にある赤い球体に気付く。

「うん、あの魔物が持ってた玉。魔物は魔法使い達がちゃんと退治したし、もう安心やで。これで子どもの魂を元に戻したら、みんなが元に戻るんや」

 その言葉に、ジュリエンナ姫の顔が明るくなる。

「そう。みんな、うまくやってくれたのね。それで、あなただけが戻って来たの?」

「たぶん、すぐに他のみんなも帰って来ると思うけど。……ほら、来た」

 馬をスッ飛ばせて、サンジュリアンが城へ向かって来るのが見えた。

「あすかぁっ。いい加減にしろよ、お前」

 サンジュリアンが門に着くより早く、飛鳥はその場から逃げ出した。

 門で馬を乗り捨て、飛鳥を追い掛けようとしたサンジュリアンは、ジュリエンナ姫の姿を見ると一礼し、

「魔物は確かに消滅させました。後はあの玉から子ども達の魂を抜いて、元に戻します」

 と、息を切らしつつ報告し、再び飛鳥を追い掛ける。

「こら待て、飛鳥。おもちゃじゃないんだぞ、それは」

 先を走る飛鳥の声が響く。

「そんなこと、わかってるわー」

 静かだった場内が、急に賑やかになった。

 二人の走る後ろ姿を見ていたジュリエンナ姫は、つい吹き出してしまう。

「大きな子どもが走り回ってるわね」

 そうこうするうちに、他の魔法使い達も戻って来た。

 ジュリエンナ姫が、先頭にいたリラックに声をかける。

「御苦労様。魔物は無事、消滅したそうね」

「はい。光魔法で確かに。……ジュリエンナ姫、飛鳥とサンジュリアンが先に戻っていませんか」

 リラックの言葉に、ジュリエンナ姫は笑いながら広間の方を指差した。

「二人とも、すごい勢いで走って行ったわよ。どうして飛鳥が逃げて、サンジュリアンが追い掛けているの?」

「色々とありまして。そのことは、後ほど。今は二人の所へ行きます。放っておくと、玉を壊しかねないので。失礼」

「確かに、そんな感じはしたわね」

 そうつぶやき、ジュリエンナ姫も広間の方に向かった。

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